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蝉・ファイナル  作者: 川北 詩歩


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ファイナル・ファンタジジジジ

 夏の終わり、蝉の声がけたたましく響く田舎町。タカシ(38歳独身、コンビニバイト)は、毎年この時期になると「今年こそ蝉を黙らせてやる!」と無謀な挑戦を繰り返していた。




 なぜなら、彼の住むボロアパートの裏にある一本の老木が蝉の聖地と化しており、夜も昼もお構いなしにジジジジ大合唱。タカシの睡眠時間は、奴等のせいで平均3時間しか確保できない日々が続いていた。




 蝉にとっての聖地…それは即ちタカシにとっては地獄以外の何ものでもない。夏季限定スイーツなら大いに有りだが、この夏季限定の爆音地獄など、誰得なのか。明らかに蝉にとっての得、「蝉得」でしかない。




 ならば引っ越せば良い、という意見も至極真っ当だが、38歳独身・コンビニバイトのタカシにはそんな経済力など無い。このボロアパートこそ、タカシにとっての唯一の聖域サンクチュアリ。その聖域を脅かす蝉の存在は、ここに住むようになってから約13年、彼にとっては由々しき問題だった。





* * * * *




 ここで、彼と蝉の13年間の戦いをダイジェストでお送りすると、以下のようになる。




 蚊取り線香の大失敗(13年前)


 アパートに引っ越したばかりの25歳のタカシは、蝉のジジジジに悩まされ、近所のホームセンターで蚊取り線香を大量購入。「虫ならこれで死ぬだろ!」と老木の周りに線香をぐるぐる配置し、火をつけた。


 結果、煙が立ち込めて近隣から「火事か!」と通報され、消防車が到着。蝉は平気で鳴き続け、タカシは大家と消防士に「次やったら罰金な」と、しこたま怒られた。以降、火を使う作戦はトラウマに。





 自作「蝉捕獲ネット」の悲劇(9年前)


 同人誌即売会で購入する予定だった某アニメの『R18薄い百合本』の購入資金を削って、虫取り網を強化した『蝉捕獲ネット』を自作。割り箸、ガムテープ、100均の網で作った即席装備で老木に突撃したが、初スイングで網が木の枝に引っかかり破壊。


 バランスを崩したタカシは地面に転倒し、ズボンが破れるハプニングのおまけつき。蝉のジジジジがまるで嘲笑のように聞こえ、タカシは「くそが!金返せ!」と叫んだ。





 謎の「蝉よけハーブ」の悪夢(6年前)


 通販サイト『damason』で「天然ハーブで蝉を撃退!」と謳う怪しい粉末を購入。説明書通り、老木の周辺に撒いたところ、強烈なミント臭がアパート全体に充満。


 蝉は減るどころか、なぜかハーブの香りに引き寄せられたスズメバチが大量発生。タカシはアパートの窓を閉め切り、汗だくで3日間耐えた。「ハーブとか二度と信じねえ!」と心に誓ったが、蝉は元気にジジジジ。





 スピーカー逆襲作戦の屈辱(4年前)


「音には音で対抗だ!」と閃いたタカシは、バイト先のコンビニで貯めたポイントで中古スピーカーを購入。爆音で蝉を追い払おうと、老木に向かって『残酷な天使のテー○』を全力再生。結果、蝉は動じず、近隣住民から「うるせえ!夜中にアニソン流すな!」と怒鳴られ、スピーカーは即没収。蝉の勝利にタカシは「超有名アニソンが効かねえなんて…」と肩を落とした。





* * * * *




ジジジジジジジジジジジジジジジジジジ


ミーンミンミンミンミンミーン…





「ぶるぁぁあああああ!!うっせぇ!うっせぇ!うっっっっせぇわ!お前らが思うより限界です!!」




 どことなく既視感のある叫び声だが、蝉共には「そんなの関係ねぇ」だった。



「もう我慢の限界だ! 蝉を駆逐してやる!一匹残らず!!」




 同人誌と萌えキャラフィギュアに囲まれた小さな机の上で、お気に入りのノートPCのキーボードをこれでもかと叩き、『蝉 対策 グッズ』と何度も検索をかけ、目を皿のようにしながらモニターを見つめる。




「くそが!あいつら、絶対に全滅させてやる!今度の同人誌即売会は諦めるが、奴等を全滅させれば…ふふふふふ」




 通販サイト『damason』にズラリと表示されたそれらを、タカシは片っ端からクリックし、4年ぶり5回目となる蝉との戦いの為に、なけなしのバイト代をつぎ込むことにした。





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