真っ直ぐ過ぎた男たち
頭に血が昇ってしまったラミアは待たずに竹刀を振り下ろした。
「やーーーっ!!」
カイルが叫ぶ。
「ひえ!? ラミア本気だよ!?止めなくていいの!?」
アディオは一瞬目を見開くが、すぐに軽く笑い返す。竹刀で受け止め、背後にステップして首筋に竹刀をピタリと押し付けた。
「そんな感情に任せた単純な攻撃だと…殺されていたな…?」
ゾクッと冷たい感触がラミアの首筋をかすめ、全身に緊張が走る。
連続の突きが迫るが、アディオは絶妙な距離を保ち、わずかに笑みを浮かべる。
ラミア(これは敵わない....)
「勝負…ありだな」
ラミアは肩で荒い息をつき、竹刀を握る手がわずかに震えていた。
「は、はい…さすが師匠の兄弟子さんです…すいません...」
アディオは竹刀を脇に置き、静かに一礼する。
「本気を見せてもらった。失礼なことを言ってしまったな...許してくれ」
ラミアは顔を赤らめつつも、すぐに落ち着く。
「そうでしたか…失礼しました」
アディオは軽く笑みを浮かべ、部屋を後にする。
「用事があるからな…夕飯は稽古後にでも一緒に食うぞ」
「おお…わかった」
ラミアはまだ少し息を整えながらも、アディオの背中を目で追った。
シモンとカイルも目を見開き、何か言いたげに息をのむ。
アディオは一直線にメンタルルームへ突入した!!
不躾に入って来たアディオに、ハリスは目を丸くする。
丁度お昼ご飯を食べていた医師は、思わずカップラーメンを吹き出した。
医師「おめぇ…アディオじゃねえか…」
アディオ「よう、やぶ医者」
ハリス「来ると思った…どうせレンのこと、聞きに来たんでしょ…」
アディオ「よくわかってるじゃないか!で、レンの精神状態は良くなってるんだろうな!?」
アディオの勢いに、医師はハリスの後ろに隠れる。
ハリス「だいぶ良くはなってきたから…」
アディオ「なんなんだ!?レンが“暗黒騎士”だと聞いたぞ!!
なぜあいつがあんな扱いを受けなくてはならないんだ!!」
ドンッ!!と机を叩くアディオの手に、部屋中がビリリと震える。
アディオ「あいつには暗黒騎士の要素なんて一切ないだろう!!レンはどこまでもまっすぐだ!
言葉も行動も、刃のように真っ直ぐで、刺さるんだぞ!あの男に理不尽な苦しみを与えるなんて、絶対に許せん!!」
ハリス「わかった…わかったから…落ち着いてアディオ…」
アディオは荒い息をつき、しかし顔は真剣そのものだ。
「落ち着かせるべきは俺じゃない…レンだ!」
ハリス(相変わらずだなあ…アディオは…レンのことになるとすぐこうだ…)
医師「…案外、そういう奴が敵を作ったりするんだろうな…」
ポツリとつぶやく医師に、さすがのアディオも言い返せない。
医師「あいつは真っ直ぐ過ぎるんだよ…
お前みたいなレン大好き人間が、どこかでこじらせたり…どこかで嫉妬したり…まあ、レヴィンの奴が前に出過ぎっていうのもあるが…高い理想をそのレンに託しすぎちまったんじゃねえか…」
アディオ「俺がどうひっくり返ったって、そうはならんぞ」
融通の効かない男だな、と医師は心の中でため息をついた。
医師「おめえもどこまでも真っ直ぐな奴だなあ...レン一直線って感じだわ」
アディオ「ふん…要は俺が1番というわけだな?」
医師「お前、何言ってんの?案外バカだろ」
ハリス「全くもう…世間の人達はアディオみたいに単純じゃないんだよ」
アディオ「ふん…俺はレンのためなら、命だって魂だって売ってやるさ」
医師「……重い」
アディオ「なんとでも言え」
ハリス「……」
アディオ「レンの治療は任せたぞ…ハリス」
医師「おいー、俺はあ?」
アディオ「うるさい、やぶ医者」
医師「俺だってちゃんとした医者だよー。結構エリートだよー!」
ハリス「任せて…必ず治してみせる」
アディオ「ああ…お前は信用できる…」
医師「ったく、どいつもこいつもレン大好きな男共だねー」
(医師)あいつに彼女ができねえのも…こいつらがいるからだな…
カップラーメン片手に、視線はアディオとハリスに向いたまま。眉間にしわを寄せる。
「…いや、仕方ねえか。レヴィンだもんな…むさ苦しい聖騎士たちも、話はみんなレヴィンのことばっかりだし…」
小さくため息をつき、箸でラーメンをすくう。
アルデラ街の噂の調査――
アルデラの街に住む人々から漏れる話は、どれも不気味で恐ろしげなものばかりだった。
「黒ずくめの聖騎士だろ…?」
「正義か悪か分からない」
「素顔を見たら殺されそう」
アディオのイライラが募る。
「なんだこの信憑性のなさは…!犯罪歴があったら聖騎士になれるわけないだろ!」
酒場の片隅、酔った男がぽつりと話す。
「この前、子供を助けてもらって…あの黒ずくめの聖騎士、悪いやつじゃない気がする」
アディオは背筋を伸ばし、拳を握る。
「よくぞ言った!」
情報収集の結果は噂話ばかり。
確実な情報は何もない。
ため息をつき、アディオはアルデラ王国の街を後にした。
そしていつものように、レンの部屋へ向かう。
散らかった部屋――ベッドのそばには書類や衣類、飲みかけのカップがある。
アディオは静かに椅子に腰を下ろす。
――バタバタバターッ!!――
レンが慌ただしく戻ってくる音。
「わりー、待ったか!?」
「そんな慌てなくてもいいぞ?」
レンはぐちゃぐちゃの服のまま、笑いながら答える。
アディオは得意げに笑い、肩に服をかける。
「ほら、これで落ち着くだろう」
レンは軽く受け取り、袖を通す。
「おお、サンキュー」
「城下町に行くかー。顔バレして迷惑かけたくないし」
「どこでも構わん」
二人は笑顔で食堂へ向かう――聖騎士たちの視線が優しく注がれる中で。
城下町の食堂――
中からは賑やかな声が聞こえ、聖騎士達もちらほら見かける。
聖騎士「誰かと思ったー、レヴィンかよ」
レヴィン「どうもっすー」
アーサー「ぬ?アディオじゃないか!久しぶりだのう」
バシバシと背中を叩かれ、アディオは軽く吹き飛びそうになる。
アディオとレヴィンは、自然と同じタイミングで箸を止め、声をそろえて「美味い!」と口にした。
アディオ「美味いな…俺好みの味だ」
レヴィン「だろ!?うめえよなーー」
周囲の聖騎士たちは思わず微笑む。
ハムスターみたいに頬張るレンを、アディオは優しい笑みで見守る。視線にはわずかに独占欲が混ざっているが、自然で温かいものだった。
「平和だねえー」
そう呟いた聖騎士の声に、空気も少し柔らかくなる。
戦いを忘れ、聖騎士達の心にもほんのり明かりが灯る。
箸を置き、二人の様子を見つめながら、聖騎士たちは静かに頷く。
「…たまには、こういう時間も悪くないな」




