正体バレバレな女剣士、なぜか聖騎士志願する①
今日のアルデラの聖騎士たちは、明らかに様子がおかしかった。
やけにソワソワと、落ち着きがない。
若手グループにいるタイオンとノアは、ベテラン勢の様子に首をかしげる。
タイオン「なんだろう…」
ノア「さあなあ…こういう時、聖騎士の中でも特に人気のレンがいれば、ベテラン勢に突っ込んで聞いてくれるのにな」
肝心な時に限っていない。
タイオン「あはは…先輩たちのお気に入りだもんね、レンは」
今日はメンタルルームで受診中なのだ。
ベテラン勢たちは輪になりながら、楽しげに声を弾ませていた。
「今日の志願者は女の子なんだってな!」
「女の子がいたらいいなぁ!」
「ゴリラかもしれんぞ!?」
「レヴィンの弟子のラミアかもしれないしな…あの子も可愛いからな」
ラミアの名前が聞こえ、タイオンはぴくりと反応し、そっと耳をそばだてる。
しかし結局、若手たちは話の真相を掴めぬまま訓練に入ることになった。
そこへ団長と副団長が現れ、若手を数人呼び出す。
団長「今日は志願者が来る…相手をして、実力を引き出すんだ。形だけでいい」
意味深な言葉を残し、団長は逃げるように去っていった。
タイオン「やっぱり志願者が来るから、皆ソワソワしてたのかな」
ノア「志願者なんて、珍しくもねーだろ…」
年に数十人は志願者希望が来る。
――なのに。
何故か、ベテラン勢までもが見学に来ていた。
(なんなんだろう…)
その答えは――すぐに現れることになる。
その頃、城の門を潜る一人の人物がいた。
後ろで三つ編みにまとめた髪を揺らしながら、銀色の光を放つバイザー付きの兜を被った女剣士。
顔の半分を隠すそのバイザーは、表情をほとんど見せず、正体を隠すには十分だった。
肩や胸元を覆うシルバーのプレートアーマーは軽量で、動きを妨げない。
女性らしい体のラインを保ちつつ、機能性を重視した作りだ。
腰元には短めのスカート。
戦闘の邪魔にならない設計でありながら、ひらりと揺れるたびに柔らかさも感じさせる。
光を受けて輝く装備と、三つ編みの揺れ。
その姿は、凛々しさと可愛らしさを同時に纏っていた。
男たちは親指で女剣士を指し、数人で囲むように声をかける。
「なんだ姉ちゃん……ここをどこだと思ってんだ?」
少しバカにした口調。
「もしかして聖騎士志願者か? だったらやめときな。女は落とされるぜ」
案外、親切な忠告だったのかもしれない。
「それでいいんです」
女剣士はただ一言、静かに返す。
そして男たちの間をすり抜け――
迷いなく、堂々と城内へと進んでいった。
女剣士が城に到着すると、聖騎士たちが待ち構えるように出迎えた。
その中には、アーサーの姿もある。
アーサー「お主か……なるほどのう……」
じろり、と頭の先からつま先まで視線を走らせる。
太ももを露わにしたミニスカートに、ベテラン勢は思わずニヤリとした。
「ほう……」
「なかなか……」
アーサー「……お主、どこかで見たことはないか?」
女剣士はぴくりと肩を揺らし、
すぐに視線を逸らして首をブンブンと横に振る。
アーサー「うーむ……」
(この体つき……)
安産型の腰つき、しっかりした太もも、長く柔らかい髪――
(どこかで……)
そのまま訓練場のある中庭へと案内される。
女剣士はキョロキョロと辺りを見回した。
アーサー「なんじゃ? 知り合いでもおるのか?」
女剣士は一歩前に出て、ぐいっと身を乗り出す。
「あの! 聖騎士の中に、金髪でめちゃくちゃ可愛い青年はいませんか!?」
あまりの勢いに、アーサーは思わず一歩引いた。
アーサー「む……? 思い当たる人物はおるが……なんじゃお前……ル……」
女剣士は慌てて、人差し指を口元に当てた。
「しーっ!!」
その仕草で――確信する。
アーサー「……ルナか」
女剣士は、観念したように小さく肩をすくめた。
アーサー「なんじゃルナ……レヴィンに会いに来たのか。こんなまどろっこしい真似せんでも、普通に来ればええじゃろう」
声を潜め、ヒソヒソと話すアーサー。
ルナ「……まだ私は会えない……きっと、まだリュウ兄の事、気にしてる……」
ぽつりと零すように呟く。
アーサー「ふーむ……よく分からんが、まあいいじゃろ。メンタルケアが終わったら呼んできてやるぞい」
ルナの顔が、ぱっと明るくなる。
ルナ「ありがとう!! アーサーさん!! 感謝致しますー! ……残念ながらお礼は何も無いけど……」
アーサー「期待しておらん」
ルナ「そですか……」
軽く肩を落としつつも、すぐに気持ちを切り替える。
ルナは試験で何をするのか、少しだけ胸を躍らせながら待つ――
だが。
そんなことは、正直どうでもよかった。
(レンに会える……!)
胸の奥が、じわじわと熱くなる。
(もうすぐ……会えるんだ……!)
ルナの頭の中は、ただそれだけでいっぱいだった。
アーサーは若手の中からタイオンを呼び出し、前に立たせる。
アーサー「手本を見してみい……今、準備するぞい」
タイオン「え、えぇ……!?」
見慣れぬ女の子の視線に、内心ドキドキしながらも、
(やるしかない……!)
と小さく気合いを入れる。
アーサーは木の的を用意し、タイオンの前に置いた。
アーサー「簡単じゃ。これを壊すんじゃ」
タイオンは剣を握り、的の前に立つ。
――視線が集まる。
心臓が、ドクンと大きく鳴った。
(失敗したら……カッコ悪いな……)
(でも――やるしかない!)
深く息を吸い込み、剣を構える。
タイオン「ええいっ!」
振り下ろした一撃。
パキッ――!!
乾いた音と共に、木の的は真っ二つに割れた。
小さな木屑が舞い、
手にじん、とした振動が残る。
タイオンはゆっくりと息を吐き、
少しだけ頬を赤らめた。
(ふぅ……手本としては……大丈夫、かな……?)
周囲からぱちぱちと小さな拍手が起こる。
アーサーは満足げに頷いた。
アーサー「よし……次はルナ……あ、いや三つ編みもやってみい」
ルナは、恨みがましい目でアーサーを横目に睨みながら構える。
その拍子に、短いスカートがふわりと揺れた。
「おおおおおお!!」
おじさんたちが一斉に声を上げる。
ルナ(ふっふっふ……今日のためにミニスカ太ももチラチラ大作戦で来たのよ……!これでレンも釘付けかな!! ふふん!)
――だが。
「ああああ……」
思ったほど盛り上がらない。
ルナ「……あれ?」
首をかしげる。
よく見れば――
もこもこの毛糸のパンツ。
防寒、完全装備。
「色気ねえ……」
「よく見ると足太いし……」
「胸も無さそう」
ルナ「だって寒いでしょ!? お腹痛くなるし!!」
必死の反論。
アーサー「いいからやるんじゃ……」
ルナ「普段履かないミニスカ履いて頑張ったのに……」
しょんぼりと肩を落とす。
一瞬の静寂。
――次の瞬間。
ルナ「足太いのはしょうがないじゃああん!!」
怒りが、爆発した。
ぐっと木刀を握りしめる。
視線は一点――木の的。
ルナは、迷いなく踏み込んだ。
振り下ろされた一撃――
その瞬間。
見えなかった。
何が起きたのか、誰一人として捉えられない。
――次の瞬間。
ドゴォンッ!!
鈍く重い衝撃が空気を震わせた。
木の的は、原形を留めることなく粉々に砕け散り、
細かな木屑となって、ぱらぱらと周囲に降り注ぐ。
一拍の静寂。
「……は?」
誰かの間の抜けた声が、ぽつりと落ちた。
誰も動けない。
ただ、視線だけが――
ゆっくりと女剣士へ集まっていく。
その場にいた全員が、同時に理解した。
これは――
ただの女の子ではない。
お読みいただきありがとうございます( ´꒳` )
今回登場した三つ編みミニスカ女剣士・ルナは、アグニ討伐の際に共に戦った女の子です。
亡くなってしまったリュウさんと旅をしていた、逞しくて優しい女剣士でもあります。
結界の能力者であるため、普段は剣士と組む際、防御に徹することが多いです。
そのため、ルナがここまで戦えることは、レヴィンやアディオ、チェイズたちもまだ知りません。
興味を持っていただけた方は、ぜひ「厄災のアグニ編」もご覧ください( ´꒳` )




