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黒く染まった川⑤

レヴィンはそのまま朝までぐっすり眠ることができた。目を覚ましたのは、タイオンの声だった。


「朝だよ? よく寝てたね?」


「んあ…? もう朝?」

夢も見ず、久しぶりに熟睡できたようだ。大きく欠伸をして、腕をぐーっと伸ばす。


ノアはまだ寝息を立てており、ぐうぐうと寝入っている。

アーサーとラミアの姿はすでになく、朝の空気だけがテント内を満たしていた。


レヴィンはゆっくりと背伸びをしながら、昨夜の焚き火のぬくもりと、久しぶりに訪れた安心感を思い返す。

「…なんだか、気持ちいい朝だな」

小さくつぶやき、寝袋から体を起こした。


「あ!! アルバに朝ごはんあげに行こうっと!!」

ぴょんと跳ね起き、薄着のまま外へ飛び出す。


「もおー、風邪引くよおー!」

タイオンの声が追いかけるが、レヴィンの元気な姿はすでに見えない。

代わりに、朝の野営地に小さな賑やかな声が響いた。


「アルバー!? 寂しくなかったかー!?」

首をぎゅーっと抱きしめると、アルバは嬉しそうに体を擦り寄せてくる。

柔らかな毛の感触と温かさに、レヴィンはにこっと笑った。

「よしよし、今日も元気そうだな!!」


「見張りをせずとも良かった気がするくらい、何もなかったのう…」

背後から声がして、上半身裸のアーサーが立っていた。体からは湯気が立ち上る。


「まあいいじゃないですかー!! アルバも無事だったですし!!」

元気いっぱいに笑い、アルバを抱き上げるレヴィン。

アーサーは小さく苦笑しつつ、その無邪気さに目を細めた。


朝食を済ませると、皆それぞれ身なりを整えた。


「川に沿って登って行くかのう」

アーサーが声をかける。


「はい!!」

レヴィンも元気よく返事をした。


それに続くように、皆こくりとうなずき、川沿いの道を進み始める。


川沿いの道を上流へ進む。

道は思ったより険しく、小石や根っこが散らばり、ところどころぬかるんでいる。


「足元、気を付けろよー」

先頭を歩くレヴィンが声をかけた。


すると、ラミアが足を滑らせ、小さく「あっ!」と声をあげ、危うく川のほうへ倒れそうになる。


だが、タイオンがすぐに手を差し伸べ、彼女の腕をしっかりと掴んだ。


「す、すみません……!」

ラミアは慌てて手を握り返し、少し赤らんだ頬を見せながらも、すぐに立て直す。


「大丈夫…?」

タイオンは優しく微笑んだ。


「はい…」

ラミアも小さく頷く。


「タイオン、ナイスプレーだなー」

ノアが茶化すように声をかけ、二人のやり取りをにやりと見守る。


戦闘を意識しながら歩いていたアーサーとレヴィンの足が、ふと止まった。


「師匠…?」

ラミアが小さく声を上げる。


レヴィンの視線の先、上流には微かに黒い滝のようなものが見えた。


「なんだ、ありゃ…」

ノアが眉をひそめる。


「黒い……滝?」

タイオンも目を細め、確認する。


「ううむ……あの滝が何か異常を起こしているのかもしれん…」

アーサーが慎重に口を開いた。


「……行ってみましょう」

レヴィンは決意を込め、ゆっくりと歩を進めた。


次第に、上流に進むにつれて、川の水もだんだん黒く濁っていった。


「この辺でアルバを繋いどくか…」

レヴィンは少し眉をひそめながらつぶやいた。


「私は…ここに残りますか…? アルバちゃんと」

ラミアが慎重に問いかける。


「ラミアとアルバだけじゃ、危険じゃないか…?」

タイオンも心配そうに視線を送った。


「うーむ……まあ、だいぶ離れておるし、巻き込まれずに済む分、ここにいた方が安全じゃろう」

アーサーは落ち着いて答える。「ラミアは戦闘になっても、戦う必要はない」


「わかりました…」

ラミアは少し肩の力を抜き、静かに頷いた。


「アルバを頼むぞ、ラミア! 何かあったら、すぐ連絡してくれ…!」

レヴィンが力強く言う。


「はい…師匠たちもお気をつけて」

ラミアは小さく頷き、4人を見送った。


後ろ髪を引かれる思いのタイオンだったが……危険な場所に巻き込むわけにはいかない、と自分に言い聞かせ、2人の後を追った。


ーー滝に到着する4人


「真っ黒…だな」

ノアが小さくつぶやく。


「なんだか不気味だね…ここ」

タイオンも身を少し引き、川の様子を見つめる。


レヴィンはアーサーと共に、滝や川の流れを観察して回った。


「なんか…濁ってるっていうより、光そのものが届いてないみたいだ…」

レヴィンは眉をひそめて言う。


「うむ…魚の死骸も浮いとるし…酷い匂いじゃ…」

まるで生気を奪われているようじゃな…」


アーサーは顔をしかめ、鼻を摘む。


「ですね…」

レヴィンも黙って頷いた。


レヴィンは滝の方をじっと見つめ、口を開く。

「俺、少し滝の方を調べて来ます…」


「またひとりで!!」

ノアが慌てて肩を掴む。グイッと力を入れるレヴィン。


「うむ…!いい判断だ、ノアよ」

アーサーが優しく褒める。


「テヘヘ」

ノアは照れくさそうに後頭部をかき、目元を緩ませた。


「じゃあ…俺、滝割るよ!!」

レヴィンはにこっと笑いながら、さらりと言い放った。


「はあ!?」

ノアが目を丸くする。


「ええ!?」

タイオンも思わず声をあげた。


レヴィンは滝壺の前で立ち止まり、深く息を吸う。


タイオンとノアは、何が起きるのかと首を傾げた。


掌に力を込めるレヴィン。微かな波動が水面に伝わる。


――バシュッッ!!


衝撃波が滝壺の黒い水面を割り、波紋が激しく広がった。

黒く淀んだ水が大きく揺れ、何かがわずかに動くのが見えた。


割れた滝壺の中から、異形の生き物がゆらりと姿を現した。


その体はやせ細り、肋骨が浮き出て見える。

皮膚はところどころ鱗で覆われ、光を反射して黒く鈍く輝いていた。


顔は半分が人間の形を保ち、もう半分は鱗に覆われている。


不気味さと生々しさが入り混じった、見る者を震えさせる姿だった。


「なん…だあれ」

ノアは息を詰め、目を大きく見開く。


「ひええっ…化け物…!」

タイオンは腰を抜かし、ぺしゃりと地面に座り込むように怯えた。


異形の生き物は再び滝の奥へ消え、黒い影だけがうっすらと水面に映る。


「キメラかのう…」

アーサーは冷静に観察しつつ、口をつぐむ。


「みたいっすね」

レヴィンも落ち着いた声で答える。


「な、ななな…何を冷静に言ってんだよ!? キメラってなんだよ!?」

ノアは目を見開き、声を荒げる。


「おるのじゃ…ああいうのが。人と何かを合体させ、実験し…異型を生み出す妙な奴らがおるんじゃ…」

アーサーの声には、経験者としての重みと警戒が滲んでいた。


「実験……なにそれ……そんなの、あんまりじゃないか……」

タイオンは声を震わせ、目を丸くする。

元は人間だったのに、あんな不気味な化け物にされてしまったのか――。


「来るぞい!!!」

アーサーの声が響く。


「はい!!」

レヴィンは力強く応えた。


「!!!」

タイオンとノアも、思わず身を固くする。


黒く淀んだ滝壺の水面が、突然ぶくぶくと沸き立った。




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