黒く染まった川③
ラミアは、どこからともなく白紙を取り出すと、ペンを勢いよく走らせた。
前のめりになったその姿から、期待が溢れ出している。
そして――白馬の名前を発表する。
「アルバ!!! 白馬ちゃんの名前はアルバです!!!」
「おおおーっ!!」
三人の声が、歓声となって重なった。
レヴィンは目を輝かせ、口元に笑みを浮かべる。
「アルバ……!!! いいな、それ」
ラミアも満面の笑顔で師匠を見上げた。
「気に入りましたか、師匠!!」
「ああ!!!」
レヴィンは頷きながら、心の底からの満足をその表情に刻んだ。
ーーー夕刻、日がゆっくりと沈み始める。
ラミアが静かに告げる。
「そろそろ休憩スポットですね……。今日はここで野営にしましょう」
不謹慎ながら、タイオンの胸は高鳴った。
テントはひとつ……!
(こんな綺麗な子と同じテントに一泊……!? 眠れるかな……!?)
一同は馬車を降り、冷たい外気を吸い込む。
「んーーー!!」
レヴィンは深呼吸をする。
「空気がおいしいね!」
タイオンも思わず声をあげる。
「やれやれ、体が凝ってしまったわい」
アーサーは首を左右に倒して、コキコキと鳴らす。
「アーサーさんは休んでてください!! 俺、テント張りますから!」
ドンッと胸を張るレヴィン。
しかし――不器用でトラブル製造装置のような彼に、テントを任せて大丈夫だろうか。
その不安が、ノアとタイオンの頭をよぎる。
「師匠……無理はダメです!!」
ラミアの瞳が真剣に輝く。
「あ……弟子が一番不安がってる……」
ノアとタイオンは思わず顔を見合わせ、くすっと笑った。
「テントくらい張れるし!!」
レヴィンは自信満々に言い張る。
「ダメです! 師匠はテントに埋もれてしまいます!!」
ラミアの声に、一同は苦笑する。
「う……うむ……この前もそうじゃったな」
アーサーも過去の出来事を思い出すらしい。
「練習したし」
レヴィンは胸を張るが、ノアは小さく呟く。
「前もやらかしたのか……」
「あはは……一緒にやろうか」
タイオンが手を差し伸べると、ラミアはぺこりと頭を下げた。
「助かります……タイオン様!」
少し頬を赤らめるタイオンの顔に、ラミアの真剣さと礼儀正しさが映る。
言い、軽やかに走り去った。
その間に、皆でテントや食事の準備を始める。
思ったよりも、レヴィンのテント張りは上達していて、皆は少し感心した。
だが、どこか完全には信用していないような視線に、レヴィンは「むうーっ」と頬を膨らませる。
「師匠……前より上手です!! さすがです!」
ラミアがぱちぱちと拍手すると、レヴィンは素直に嬉しそうに笑った。
「子供かー」
ノアがツッコミを入れるのも忘れない。
タイオンは小さく「ふふっ」と笑い、続ける。
「なんか楽しいなー。聖騎士になってからの任務って、ほとんど理不尽なものばっかだったし……」
「だな……俺らなんて期待もされてなかったしな。レンみたいに期待されてる新人以外は、雑用かボランティアみたいな仕事ばっかだったもんな」
ノアの言葉に、レヴィンは目を丸くする。
「そうなの!?」
「それは知りませんでした……」
ラミアも驚いた様子だ。
タイオンは目を細めて空を見上げる。
「だから、こういう任務って楽しいし勉強になるな……」
その言葉に、レヴィンはニコッと笑った。
「タイオンもノアも、もっともっと強くなれるし! また一緒に任務行こうぜ!!
俺、王様に言うし! 『タイオンとノアと任務一緒にしてくださいー!!』って!」
「そ……それはそれで怖い気もすんな……」
ノアは困ったように眉を寄せる。
「師匠はやけに強敵を引き当てますからね……」
ラミアの言葉に、レヴィンは豪快に笑う。
「あはは!! 俺、何回も死にかけてるからなー!!」
サラッと放たれたその一言に、ノアとタイオンの顔色はみるみる悪くなる……。
「た……たまににしとくよ……」
タイオンが小声で答える。
「そうだな……」
ノアも同意する。
「なんで離れんの!?」
レヴィンは首を傾げながら、不思議そうに二人を見た。
アーサーが汗だくで戻ってきた。
「どんな体のほぐし方したんですか!?」
ノアが驚きの声を上げる。
「ちょっとのう……」
その体からは、うっすら湯気まで立っている。
「アーサーさん、肉焼きましょうよー! 肉、肉!」
レヴィンの目はすでに輝きっぱなしだ。
「うむ!! 腹が減ったのう!!」
アーサーも負けじと声を張る。
「準備できてます!!」
ラミアは折りたたまれた金属製の網を取り出した。
「……なんだそれ」
ノアは首をかしげる。
「焼き網です!!」
パチン、と金属が音を立てて広がると、立派な焼き台が姿を現した。
「えっ!? そんなの持ってきてたの!?」
タイオンの目が丸くなる。
「野営の基本装備です」
ラミアは胸を張る。
「ラミアすげえ!!」
レヴィンの声に、ラミアは手慣れた手つきで肉を網に並べていく。
しばらくすると、肉からジュウウウッと音が立ちはじめた。
溶けた脂が網を伝って火に落ち、パチパチと火花が弾ける。
香ばしい匂いがふわりと広がり、一同の腹を刺激した。
「美味そおおお……」
レヴィンの声が思わず漏れる。
「うむ!!!」
アーサーも顔をほころばせ、腹からはグウウウッと巨大な音が鳴り響く。
ラミアは絶妙な焼き加減で、レヴィンとアーサーの皿に肉を乗せる。
続いてタイオンとノアの皿にも肉をよそっていくと、四人の頬が思わず緩んだ。
「うんまあああ!!」
レヴィンは声を上げ、口いっぱいにほおばる。
「仕込んだかいがありました!!」
ラミアも満足げに微笑む。
「ええ!? 大変だったでしょう……。僕が焼くから、ラミアさんも食べてよ」
タイオンが気遣うように差し出すと、
「ありがとうございます、タイオン様」
ラミアは丁寧に頭を下げる。
「優しーじゃん、タイオン」
ノアがうりうりと肘でつつくと、タイオンは慌てて顔を赤らめた。
「ふふ……本当に優しい方ですね。師匠のことも気にかけて頂き……感謝しています」
にこっと笑顔を向けられ、タイオンはますますゆでダコのように赤くなる。
「そうそう!! タイオンは――もぐもぐ――とてもいいやつで――むぐむぐ――」
レヴィンは口をもぐもぐさせながら言う。
「もおー! 何言ってるかわかんないよおー!」
タイオンは慌てて突っ込む。
「折角のタイオンの褒めターンなのにな」
ノアは笑いながらツッコミを入れる。
「はい!! 師匠の言う通りです!」
ラミアも元気に乗っかる。
「伝わってんのかよ!?」
ノアが思わず突っ込む。
香ばしい匂いと笑い声が、森の中へとふわりと広がっていく。
――その時。
ガサッ……と、茂みが揺れた。
「……何かおるのう」
アーサーの声に、四人の視線が一斉にその方向へ集まる。




