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厄災のアグニ①

ーーーメンタルルームの静かな空間。


ベッドに眠るレヴィンを囲むように、ハリスとアーサー、そしてレヴィンの担当医が立っていた。

団長とレヴィンの同期であるタイオンと、ノアは椅子に腰を下ろしている。


ベッドに眠るレヴィンの寝顔を見つめながら、ハリスはそっと息をついた。


そしてハリスは静かに口を開いた。

「レンが関わった厄災――アグニについて、少し話しておこう」


その言葉に、皆の視線が自然とハリスに集まる。

「アグニはただの力じゃない。人から人へ憑依し、人格さえも乗っ取ってしまう――紅蓮の炎で人々を世界を混沌と恐怖に陥れる存在だった」


部屋には、言葉の重みが静かに沈む。


タイオン「アグニなら僕も知ってるよ? リュウって人が倒したんだよね? レヴィンと一緒に」


ハリス「うん。その通りだ。アグニを討伐した人物として、英雄称号はレンとリュウに与えられたんだ」


団長「リュウは命を落としたと聞いているぞ。リュウの死で、レヴィンがメンタルケアをする経緯になったのだろう」


ハリスは静かに息をつき、再びレヴィンの寝顔を見つめる。


「…あの日のことを、少し話そうか」



ハリスは視線を落とし、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「僕は心理を読める。全てを聞いたわけじゃないけれど、レンにはリュウとの約束を果たすために交わしたことがあってね」


団長「約束?」


ノア「アグニを一緒に討伐するとかですか?」


ハリスは小さく頷き、ノアの言葉を肯定した。

「だけどね、その内容は、普通だったら考えられないものだった」


アーサーも俯き、悔しそうに唇を噛む。


ハリスは静かに続ける。

「それは――レンを器にして、リュウがアグニを倒すということだった」


その言葉に、部屋の空気が一瞬、張り詰める。


タイオン「器ってつまり…レヴィンの体をアグニに与えるっていう?」


アーサー「そうじゃ」

口籠るハリスの代わりに、アーサーが静かに答えた。


団長「なぜだ? リュウとレヴィンは従兄弟で、互いに信頼を寄せていた間柄ではなかったのか?」


ハリス「その通りです。リュウはレンを実の弟のように――いや、それ以上に溺愛していましたし、レンもまた、リュウを目指して剣士になったのです」


ノア「んだよそれ、まるで生贄じゃねえか」

ぶっきらぼうに、ノアは言葉を挟んだ。


ハリスは静かに視線を落とす。

「そうなんだ。でもリュウはどこか、復讐心と英雄への渇望に満ち溢れた人物だった。レンに最高の英雄としての名声を後世に残すこと――それがリュウの最大の愛情であり、同時に過ちでもあったんだ」


団長「じゃあ、その約束を果たすために、レヴィンは剣士の腕を磨き、あの若さであそこまで到達したというのか」


ハリス「ええ。その約束は、まだレンが子供の頃に交わされたものです。レンはそのためだけに生きていました」


ノア「まるで死ぬために生きてるみてえだな。胸糞悪りぃ」


タイオン「ノア…言葉が…」


アーサー「構わん。ハリス、続けてくれ」



ハリス「はい…レンも、自分が犠牲になるけれど、世の中が平和になるならそれでいいって、本気で思っていたんです。あの、いつものレンの様子で」


その瞬間、普段の明るく無邪気なレンの姿が、ハリスの脳裏に浮かぶ。


ノア「考えらんねえ。どんな神経してんだよ」


ハリス「だけど、アグニを探すために入ったハンター協会での経験が、レンの価値観を大きく揺さぶったんです」


団長「ハンターか…アーサーもハンター出身だったな? 異能者を捕獲しては管理したり、更生施設もあるんだったな」


アーサー「はい」


ハリス「そこで知り合った出会いや経験が、レンに人生の終わりを意識させる恐怖をようやく体験させたんです。よく一緒にいるアディオとの出会いも大きな影響を与えています」


ハリスは少し間を置き、レヴィンの寝顔を見つめる。

「レンはハンターとして友人や仲間との関わり、大会への参加を通して、『死にたくない』という、ごく当たり前の気持ちを少しずつ表すようになったんです」


アーサー「わしも、全くレンがそんなことを考えているとは夢にも思わなかった」


ハリス「僕も、ハンターの収容施設でただ死を待つだけの生活をしていました。

だけどレンに出会って、言葉を教えてもらい、収容所から出るという目標を持てるようになったんです。

この力を、いい方向に向けようって思えたのも――あの底抜けに明るいレンがいたからなんです」


ノア「ったく、死ぬために生きてる奴らしくなさすぎて、びっくりするぜ」


ハリス「本当だよね?」


医師「全くだ! レヴィンのやつは、バカすぎる!」


ハリス「それと同時に、リュウにも変化が見えてきました。

元からリュウはレンを可愛がっていましたから、ハンターとして成長していくレンを見ては、自分の過ちに気付き始めるんです…」


医師「やっとな」

そう言って、医師は鼻息を荒くした。


ハリス「だけど、もう引き返せない状況に陥ってしまったんです」


団長「アグニと接触してしまったか」


ハリス「はい…当時、アグニに取り憑いていたのはトールという兵士でした。

討伐にはレヴィンとリュウだけでなく、他にも多くのメンバーが参戦しました。

ハンターからはアディオ、レンのチームリーダーだったチェイズ。

異能者は僕と、治癒能力を持ち――リュウの奥さんでもあるエミリア。そして結界の能力を持つルナです。アグニの天敵になりそうな氷の力や水の異能者は、すでにアグニの手下に殺されていました」


ノア「おお! 結構参加者いるじゃん」


ハリス「そのメンバーで倒せなかったものの、一旦アグニを追い払うことには成功しました…」


タイオン「すごい…!!」


ハリスはレヴィンの寝顔をそっと見つめる。

「ここからが、悪夢のはじまりだったんです――」


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