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トラウマ③

レヴィンは膝に顔を押し付け、胸が激しく上下する。

小刻みに震える肩、手足にも力が入らず、嗚咽とともに息もうまく吸えない。


アーサーはすぐに駆け寄り、力強く背中をさすった。

「落ち着け…大丈夫だ…」


レヴィン「ごめん…ごめんな…」

タイオン「レヴィン…?」


アーサーは静かに肩を落とす。

「すまん…こいつ、少し過去に嫌なことがあってな…メンタルケアさせて来ます…」


タイオンは小さく頷いた。


団長「…頼んだぞ、アーサー」

副団長は無言で、ただその場に立ち尽くす。


レヴィンはアーサーにそっとおぶられ、部屋を後にした。

空気は一瞬で落ち着いたが、心の奥にはまだ冷たい余韻が残っていた。



レヴィン「俺の…俺の…せいで…」

アーサーの背中で、泣きじゃくるレヴィン。


アーサーの胸が詰まる。

あの時も、アグニとの戦いも、ワシが駆けつけていれば、子供のレヴィンに責任を押し付けずに済んだかもしれんな…。


アーサー「すまんかったのう、レヴィン」

レヴィン「なに…が?」

アーサー「いや…今回も、大人が責任を持つべき依頼だ。お主のせいではない」


レヴィン「…っっっ!! でも俺なら、砂漠地帯くらい殲滅できた…はず」


アーサーは言葉を返さず、背中のレヴィンの髪を大きな手で撫でた。


遠くから声が聞こえる。

ハリス「レン!!!」

レヴィン「ハリスーーー!!」


アーサー「よう出るのう…」

優しく涙を拭うアーサー。

ハリスの姿を見た途端、ぶわっと再び涙が溢れるレヴィン。


ハリスはそっと手をかざす。

「レン…大丈夫、もう安心していい」


その力はやさしく、しかし確実に心を包み込み、暴走しかけた思考を落ち着かせていく。


レヴィンは深く息をつき、まぶたが重くなるのを感じた。

「……はぁ…」


アーサーに抱えられながら、レヴィンは静かにウトウトと眠りに落ちる。

メンタルケア室のベッドに横たわり、ようやく全身の力が抜けた。


ハリスはそっと手を下ろし、その瞳に安堵の光を宿す。

アーサーは肩に手を置き、静かに見守った。



その頃、団長の腕の腫れはすっかり引き、元通りになっていた。

一方、副団長は正座のまま青ざめ、額に冷や汗を浮かべている。


団長は静かに副団長を見下ろす。

「今回、王国に帰還した理由の一つは…お前の若手への無理強いが目に余ったからだ」


副団長の体が小さく震え、言葉を失う。

遠征先でも若手に面倒な仕事を押し付けてきた自分の所業を思い返し、焦りが募った。


団長は副団長を玉座の前に立たせる。

目は厳しく、声は冷たく響いた。


団長「今回の件、よく聞け…お前の無理強いで、若手が危険に晒されたことは明白だ」


副団長「そ…そんな…!!!」

青ざめ、言葉が出ない。


団長「お前は左遷だ。砂漠地帯の監視任務、部下は若手のみ、補佐なし。書類の上ではなく命の重みを学べ!」


副団長「う…嘘だ…!?」


団長は軽く肩を叩き、視線を鋭く向けた。

「副団長の座は白紙に戻す…お前は今日から一般騎士としてやり直せ」


副団長「え…!? そ、そんな…!?」


団長「甘んじて受けよ。お前が部下に押し付けてきた責任を、まずは自分で背負うのだ」


副団長「…くっ…!!!」


団長「よいな? ここからやり直すのは、お前自身だ」


副団長は俯き、小さく頷くしかなかった。

玉座の前には、若手騎士たちの静かな視線。



団長は泣き崩れる副団長を尻目に、メンタルケア室へ向かう。


静かに戸を開けると、すやすや眠るレヴィン。

ハリスは椅子を用意し、立ち上がる。


団長「すまない」

礼を述べる団長の視線の先には、頭を抱えるアーサー。


団長「どうした、アーサー?」

アーサー「…レヴィンがこうなってしまったのは、ワシら大人の責任です」


団長は深く息をつき、アーサーの肩に手を置く。


団長「厄災のアグニ…か」

アーサー「…はい。こいつには辛い思いをさせました」

団長「…ならば我々大人がレヴィンを見守って行けば良い。過ぎた時間は戻らん。レヴィンの傷もそれでは癒えぬぞ?」

アーサー「は…はい…!!」

鼻水を垂らし泣きじゃくるアーサー。

ハリス「…」


団長「レヴィンには期待している。こいつは見ていて面白い」

団長の顔がふっと緩む。


団長「副団長に迫った時の圧は暗黒騎士そのもの…なのに、タイオンのことがあったあとは子供のように涙し、笑顔を絶やさず、相手を素直に褒める…自分を下に見すぎているこいつが不思議でたまらない」


団長は静かにレヴィンの寝顔を見つめ、目を細めた。


団長「あれほどの強さの裏に、純粋さと不器用さが潜んでおる…暗黒騎士としての風格と、人としての幼さが同居するとは…目が離せぬやつだな…」


ハリス「僕は…レンを嫌というほど見てきました…でも、いつでも誰かの光になって来たのもレンです。暗黒騎士なんてレンには似つかわしくない…」


レヴィン「うう…ん」

少し夢うつつの状態で、もぞもぞと動く。


団長「寝ているのだったな…」

レヴィン「うーん…チキン取って…そっちの親父のへそにあるやつきったねえから…やだ…」


アーサーは思わず吹き出す。

団長もつられて眉をひそめつつ、笑いを堪えている。


ハリス「もう…恥ずかしいなあ…いっつも何かしら夢で食べてるんだから」

団長「あはは!! 闇の者なのか光の者なのか、よく分からないやつだ!!」

ハリス「いっつも振り回されてます…」


団長はくすくす笑いながら、眠るレヴィンの寝顔を見つめる。

「いやあ、しかし面白いやつだ…これほど強く、そして不器用な子も珍しい」


ハリスは微笑み、少し目を細めた。

「本当に…レンは、誰かの光になってるんですよね」


団長は更に笑い、部屋の空気はほのかに温かくなった。



その時、メンタルケア室の扉がそっと開く。

タイオンとノアが、静かに様子を見に来ていた。


タイオン「レヴィン、大丈夫ですか…?」

ハリス「大丈夫だよ…よく寝てる」


タイオンは小さく微笑み、ノアもそっぽを向きながら安堵した様子だ。

「よかった…」


アーサー「心配かけたのう…」


タイオン「あの…」

ズボンをぎゅっと握りしめ、言葉を探すタイオン。


団長「どうかしたか…?」


タイオン「レヴィンがこうなった理由を知りたいんです…。僕には想像もつかなくて…それに…」


アーサー「なんじゃ…?」


横でノアがぶっきらぼうに親指を立てて言った。

ノア「こいつ…レヴィンと仲良くなりたいんらしいっす」


タイオン「わわわ!! ノア!!」


ハリス「なんだ、そんなことなら、過去なんか知らなくてもレンは大歓迎だと思うけど…」

柔らかく微笑むハリスに、場の空気が少し和らぐ。


タイオン「知りたいんです…ダメですか…? 何かあった時にサポートしたいんです…」


団長、アーサー、ハリスは少し困惑した表情を浮かべた。



その時、レヴィンの担当医が現れた。

医師「教えてやりゃあいいんじゃねえの…」


団長「私も詳しく知らないな…。教えてくれないか、ハリス、アーサー」


ハリス「先生…レンの意思もなく…」


医師「いーじゃねーか…。サポートしてくれるなら、よく知っといた方がいい」


ハリス「わ…わかりましたよ…」

小さく頷くハリス。


寝ているレヴィンを囲み、皆が静かに腰を下ろす。

ハリスは小さく息をつき、優しい目でレヴィンの寝顔を見つめた。


団長もアーサーもタイオンもノアもそっと視線を落とし、言葉を待つ。

部屋には静かな空気が満ち、誰も声を急がせない。


ただ、レヴィンの穏やかな寝息だけが響く中、皆の心は次に聞く言葉へと集中していた。


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