王国誕生祭イベントーラミア女の戦い①
王国誕生祭――目玉イベント、剣士の大会。今年は女性限定だ。
色とりどりの旗がはためき、楽団の音が石畳に響き渡る。
会場に入り、二人は人混みを掻き分けて進んでいく。
「……すごい人ですね」
セレナは人波に少し押されながら、レヴィンに手を引かれるままに進み続けた。
レヴィンはきょろきょろと辺りを見回している。
レヴィン「お!! いたいた!!!」
セレナ「はあ…はあ…ここは…?」
そこは仕切りがある席が並んだ場所だった。
一般観客席より一段高く、視界が開けている。人も少ない。
弟子たち三人が目を丸くしている。
シモン「ししょー!?」
カイル「え…!? 彼女いたんですか!?」
ラミア「……」
その隣には武道着姿のラミアが、腕を組んだまま眉間に皺を寄せていた。
レヴィン「何で第一声がそれなんだよ」
カイル「だって!手!手繋いでますよ!?」
セレナ「……っ」
慌てて手を離そうとするが、
レヴィン「あ、悪い」
あっさり放され、逆に少しだけ寂しい気持ちになるセレナ。
レヴィン「この子はセレナ!!友達だよ!!」
カイル「と...友達...!?」
セレナは少し悲しげに俯く。
セレナ「セレナです...今日はご一緒させていただきますわ」
ラミアはムッとした表情を隠し切れずセレナに対して目を合わすことができなかった。
ラミア「……ラミアです」
その声音は硬い。
レヴィン「ラミア、今日出るんだ!!」
セレナ「まあ…すごいですわ」
セレナは素直にそう口にするが、ラミアの表情は浮かない。
ラミア「もう行きます…」
踵を返そうとした、その背に。
レヴィン「ラミア!! こっから応援してるからな!? お前なら行けるから、自信もって戦うんだぞ!?」
フードを取り、思い切りガッツポーズを向ける。
周囲の弟子たちも「いけー!」「頑張れー!」と手を振る。
だが。
ラミアの胸中は、穏やかではない。
その足取りはいつもより、ほんの少しだけ強い。
カイル「はは…機嫌悪くなっちゃったね…」
レヴィン「え…?なんで…?緊張してるのか…?」
本気で分かっていない顔。
カイル「あ…はは…」
シモン「ししょーにぶーい」
シモンにまで言われ、レヴィンはきょとんとする。
レヴィン「え、俺なんかした?」
セレナは小さく俯いた。
セレナ「私…ご迷惑だったんじゃ…」
その声は、かすかに揺れている。
シモン「いーのいーの!! こっちでみよーセレナさん!!」
バッグをどけ、空けておいた席をポンポンと叩く。
カイル「し…師匠も座りましょう。セレナさんの隣にどうぞ…」
レヴィン「え…ああ…」
ぎこちなく腰を下ろす。
その頃――控え室。
気迫迫る顔で現れたラミアは、徐に竹刀を取り、一心不乱に振り下ろしていた。
鋭い風切り音が室内に響く。
ヒュン――ッ。
パシン。
ムカムカと湧き上がる苛立ちが、動作の勢いに乗って刀先まで伝わる。
(なんで……私の大会に女性を……!)
胸の奥が、焼けるように熱い。
(あの人の隣に……)
振り下ろす。
ヒュンッ――!
だが、乱暴に振るう度に呼吸は荒くなり、手首にじわりと疲労が溜まっていく。
(違う……)
竹刀を止める。
肩が上下している。
目を閉じる。
(私は……何を怒っているの)
静まり返った控え室に、自分の鼓動だけが響く。
トクン、トクン。
(私は勝つために来た)
小さく自分に言い聞かせる。
深く息を吸う。
ゆっくり吐く。
もう一度、構え直す。
今度の動きは、先ほどよりも静かで、研ぎ澄まされていた。
ヒュッ――。
無駄が消える。
苛立ちは、まだ消えていない。
だが。
それを力に変える術を、ラミアは知っている。
扉の向こうから係員の声が響く。
「第一試合、ラミア選手。準備を」
ラミアは目を開く。
瞳に宿るのは、揺らぎではない。
「……はい」
竹刀を置き、本番用の剣を手に取る。
控え室の空気は、彼女の内に残る熱と、試合前の静寂の間で張り詰めていた。
そして――
ラミアは闘技場へと歩き出す。
観客席では、すでにちょっとした騒ぎになっていた。
シモンが身を乗り出し、セレナにぐいぐい迫っている。
「ししょーとどうやって知り合ったの?どこが好きなの?キスした?」
「し、シモンくん……っ!?」
デリカシーの欠片もない質問に、セレナの顔は一瞬で真っ赤に染まる。
「かわいー!! ししょー、セレナさんめっちゃ綺麗で可愛いじゃん!」
「こらっ! すみません、セレナさん……」
カイルが慌てて頭を下げる。
シモン「なんだよーもー」
レヴィン「ああ、セレナ綺麗で可愛いよなー」
「え?」
その場の三人の声が、きれいに重なる。
「え?」
同じ顔で首を傾げるレヴィン。
セレナは恐る恐る視線を向けた。
「レン様……私のこと、そんなふうに……?」
「え? なんで? 普通に可愛いよな」
さらり。
なんの照れもなく、なんの計算もなく。
爆弾投下。
「可愛い……だなんて……」
セレナの頬は、さっきよりもさらに赤くなる。
カイルは額を押さえ、シモンはニヤニヤ。
「ししょー天然って罪だよなー」
⸻
「お……出てきたぞ」
観客席のざわめきが、波のように広がる。
優勝候補――ラミアが闘技場へ姿を現した。
武道着がぴたりと身体に馴染み、鍛え上げられた腕と脚が静かに歩を進めるたび、確かな重みを感じさせる。
その瞳は、まっすぐ前だけを見据えている。
シモンが立ち上がった。
「ラミ姐ーー! がんばれーー!」
「ラミア姉さーん! いけーー!」とカイルも続く。
そして。
「ラミアーーー!!」
ひときわ大きい声が響いた。
「わはは! ししょー声でか!」
シモンが腹を抱えて笑う。
その瞬間。
ラミアの視線が、ゆっくりと観客席へ向いた。
――鬼の形相。
と、誰もが思った。
射抜くような目。
ぴたり、と空気が止まる。
「うわっ……」
カイルとシモンが同時に身を引く。
「……!?」
さすがのレヴィンも、一瞬たじろいだ。
ラミアの背後に、見えない圧が立ちのぼる。
ゴゴゴゴ……。
地鳴りのような錯覚。
観客のざわめきが、自然と小さくなっていく。
レヴィンが思わず呟いた。
「す……すげえ迫力だ……」
ごくり、と喉が鳴る。
「優勝も夢じゃないかもな……」
だがその視線の奥にある熱が、怒りだと気づいている者は――まだいない。




