リュウの残影③
鋭い刃が、互いの胸元で交差した。
金属が微かに震え、冷たい光を反射する。刃の反動が腕に伝わり、思わず力が入る。
「……怖いね」
低く、どこか他人事のような声だった。
レヴィン「……怖い……?」
思わず聞き返す。胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息が一瞬止まった。
(今のやり取りで、恐怖を口にするのは……おかしい)
女は大剣から手を離さないまま、肩越しに少しだけ首を振った。
「うん…あなただよ」
レヴィン「……俺が?」
「そう」
静かな声。だが、からかいは一切ない。刃を握る手の力だけが、静かに存在感を主張している。
「さっきね」
女は自分の胸のあたりを、指先で軽く叩く。
「久しぶりに、“生き残るかどうか”を計算した」
レヴィン(……)
(命のやり取りを、日常みたいに口にする……)
「剣を振るう時、普通はね」
「勝つか、負けるかを考える」
「でも、さっきは違った」
一歩、距離を取る。
視界の端で刃がわずかに反射し、冷たい光が肌を撫でた――息を殺して、その動きを追う。
「逃げるか、死ぬか」
レヴィン「……」
(何度も、そういう場を潜ってきた人間の言い方だ)
「あなた……止めたでしょ」
レヴィン「ああ」
「普通、あの間合いなら“仕留めに来る”」
「なのに、あなたは止めた」
兜の奥から、じっと見られている気配。
背筋に小さな鳥肌が立つ。いや、鳥肌だけじゃない――全身が戦場の空気に染まったかのように硬直していく。
「だから、怖い」
レヴィン「……それは」
言葉を探す。
レヴィン「……無駄に殺したくないだけだ」
女「そういう顔じゃなかった」
きっぱり言い切られる。
「いくよ……」
女はそう言って、赤い鎧に包まれた身体で――
大剣を、軽々と持ち上げた。
重さを感じさせない動き。
力任せではない、重心が一切ぶれない構え。
レヴィン(……)
息を呑む。
レヴィン(構えまで――)
(リュウさんと、同じだ……)
ただ似ている、じゃない。
剣先の高さ、肩の開き、踏み込みの角度――完璧に計算された軌跡。
(教わった者じゃない)
(見て覚えた人間の動きだ)
今度は、はっきりとした殺気。
空気までが鋭く切り裂かれるようで、世界が息を潜めた。
⸻
「避けてね……?」
その声と同時だった。
――轟音。
女の大剣が、地面を砕く勢いで振り下ろされる。
空気が裂ける音が耳を突き、振動が掌まで伝わった。
レヴィン「――っ!!」
反射的に剣を合わせた瞬間、全身に衝撃が走る。
(っ……!?)
腕が痺れる。骨に直接、重さが叩きつけられた感覚。
足元の石畳がひび割れ、衝撃で微かに粉が舞う。
レヴィン(なんっつー……力だよ……!?)
半歩――いや、一歩、押し込まれる。
レヴィン(女……だよな……?)
次の瞬間、女は躊躇なく剣を引き戻し、連続で斬り込んできた。
重い。だが遅くない。
むしろ――速い。
レヴィン「くっ……!」
防ぐたびに、腕が悲鳴を上げる。
剣を合わせるたび、女の動きは無駄がない。
一閃で斜めに振り抜き、次の角度で襲いかかる――全てが計算され尽くしている。
呼吸すら、乱れていない。
「ほら」
低い声。
「ちゃんと避けないと、折れるよ」
レヴィン「っ……!」
一瞬の油断。
剣が弾かれ、大剣の腹が――肩口を掠める。
ガンッ、という鈍い衝撃。鎧越しでも、骨に響く。
女は、そこで止めた――止めたのだ。
剣先がレヴィンの喉元で止まり、世界が一瞬、息を止めたかのようだった。
「……」
レヴィンは息を荒くしながら女を見上げる。
「……やっぱり」
ほんの少し、声色が変わった。
「強いね」
レヴィンも、剣を強く握り直す。
レヴィン(リュウさん……)
(リュウさんなら....ここでどうしますか...?)
答えはすぐに出た。
――正面から、迎え撃つ。
レヴィンは一歩、前に出る。
レヴィン「……上等だ」
女の口元が、わずかに歪んだ。
次の瞬間――
風が鳴った。
踏み込み。
速い。さっきとは比べものにならない。
女の大剣が、水平に薙ぎ払われる。
レヴィン「――っ!!」
跳ぶ。
紙一重でかわしたその斬撃が、背後の壁を粉砕した。
瓦礫が舞い、空気が振動する。
女は止まらない。
回転。斬り上げ。
レヴィン(っ……!!)
剣を合わせる。
ガギンッ――!! 火花。
今度は、押し負けていない。
レヴィン(俺と……互角……?)
剣を打ち合ったまま、距離はわずか。
女で――ここまでできる剣士を、レヴィンは見たことがなかった。
力だけじゃない。速さでもない。
(判断が、異常に早い)
次に来る動きが、最初から分かっているかのようだ。
女の大剣が、ほんの一瞬引かれる。
レヴィン(来る――!!)
次の瞬間、突きに近い直線の一撃。
重い大剣とは思えない鋭さ。
レヴィンは半身になってかわし、即座に斬り返す。
しかし――
カンッ!!
女は、柄で受けた。
(な……!?)
普通なら刃で受ける。
だが彼女は最小限の動きで衝撃を殺している。
女「……」
そのまま、距離を詰める。
肘。肩。体当たりに近い動き。
レヴィン「ぐっ――」
弾かれ、後退。
レヴィン(実戦慣れしすぎてる……)
模擬戦の動きじゃない。“勝つため”の剣。
女は一度、距離を取った。
大剣を下ろし、ほんの一瞬、レヴィンを観察する。
時間が止まったように感じる――次に何をするか、分かっているかのように。
レヴィン「……女だからって、手加減してる場合じゃなさそうだな……?」
その言葉に――赤い鎧の女は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
「来ていいよ」
淡々とした声。
「私も……剣を振るうのは久しぶりだから」
大剣を、軽く肩に乗せる。
「加減が、まだ分からないの」
――ぞくり。
背筋を冷たい刃が這うような感覚が走った。
レヴィン(……冗談じゃねえ)
“加減が分からない”。
それはつまり――
(殺してもおかしくないって意味だ)
女の立ち方が、変わった。
先ほどまでの構えは、どこか“型”だった。
今は違う。
重心が低い。
無駄な力が、完全に抜けている。
踏み込むたび、石畳が微かに震え、腕の筋肉はしなやかに弧を描く準備をしている。
まるで――
獲物を狙う獣のように。
耳を立て、呼吸を整え、目線が鋭くレヴィンを捕らえる。
レヴィンは、無意識に剣を強く握り直した。
背筋に、ぞくりと冷たいものが走る――
この感覚は、ただの恐怖じゃない。
目の前の女は、殺すかもしれない。
いや、確実に、俺を試しているのだ。
――次の一撃が、来る。
読んでくださり、ありがとうございますー!(´▽`)
謎の女剣士とのレヴィンの攻防、楽しんでいただけましたか?
一生懸命書きました!バトルシーンはやっぱり難しいですね...
次も気合いを入れて続きを書きたいなと思っています!
感想などもいただけると、作者は小躍りして喜びます!!




