リュウの残影②
「リュウさん……?」
その名を口にした瞬間、リュウの装備を身に着けた謎の人物に、明らかな動揺が見られた。
レヴィン(……?)
今だ……! 今なら隙がある……!
踏み込もうとした——その時。
赤い鎧は後方へ大きく跳び、距離を取った。
そして低い声で、短く——
「……来ないで」
一言だけ。
だが女だと、声帯から確信に変わった。
次の瞬間、煙のように姿を消した。
レヴィン「……っ」
立ち尽くすレヴィンの背後から、瓦礫を踏み砕く音。
アーサー「おい、レヴィン……今のあやつ……相当な手練じゃな……」
レヴィンは剣を下ろしたまま、呟いた。
レヴィン「……強いです……しかも、俺を“殺さない”強さだ」
アーサー「……」
レヴィン(あれは偽物……それに女……体格や筋肉は全く違うのに……なんで、こんなにリュウさんの動きに似てるんだ……?)
胸に残るのは、妙なざわつきと——
言葉にできない、懐かしさ。
アーサー「どこに行ったんじゃろうな……足が速いだけではなく、逃げ慣れている者の動きじゃったのう……リュウもああいう動きしとったな……」
レヴィン「そうなんですか……?」
アーサー「ああ……」
アーサー「可能性があるとすれば、スラムの先に広がる森の方かのう……身を隠すのにうってつけじゃ……」
レヴィン(リュウさんならどうするかな……コソコソ隠れるかな……待ち伏せしてそうなんだよな……性格的に……)
アーサー「うむ……わしは森を探す、レヴィンはこの辺を探してくれい」
レヴィン「あ……はい……!」
アーサーと再び別れる……。
屋根の上を移動していたな……
リュウさんだったら、追われたら絶対に迎え撃つ気がする……
だとしたら、高い建物の中……?
レヴィンは息を殺し、崩れかけた建物の影に身を寄せた。
視線だけを上に走らせる。
(……やっぱり)
朽ちた鐘楼。
スラム街を一望できる、やけに見晴らしのいい場所。
(逃げるためじゃない。
見てるんだ……この街を)
剣の柄に手を掛ける。
(リュウさんなら……ここで、待つ)
いた……赤い鎧。
まだ、俺には気付いていない。
後ろ姿を見るに……やはり女だ。
肩幅は細い。
だが立ち姿に迷いがない。
重い装備を着ているはずなのに、重心がぶれない。
(……強い)
不用意に踏み出せば、こちらが先に斬られる。
そう直感が告げていた。
(リュウさんなら……)
息を整える。
気配を完全に殺し、距離を測る。
⸻
「来たの……?」
振り向かないまま、低く落ち着いた声。
その一言で、背中に冷たいものが走った。
(気付かれてる……!!)
反射的に踏み込もうとして、レヴィンは慌てて動きを止めた。
レヴィン「……いつから、気付いてたんだ」
赤い鎧の女は、わずかに首だけを動かす。
「屋根に上がった時点で。
足音、消しきれてなかった」
(……やっぱり)
リュウと同じだ。
背後を取らせない。
獲物に“追わせる側”の動きだ。
レヴィンはゆっくりと剣から手を離し、敵意がないことを示した。
レヴィン「俺は聖騎士だ。
あんたを捕まえに来た……わけじゃない」
その言葉に、女の肩がほんの一瞬だけ揺れた。
「……じゃあ、何しに来たの?
それに……その姿、聖騎士って言うより暗黒騎士……」
そう言って、リュウの格好をした女はゆっくりと振り返った。
赤い兜の奥、影に沈んだ双眸が、まっすぐレヴィンを射抜く。
その視線は鋭く、それでいてどこか――測るようでもあった。
レヴィン「……事情があってな。
あんたこそ、その装備……誰から受け継いだ」
一瞬、沈黙。
風が吹き抜け、マントの端が揺れる。
「私は、頼まれただけ……」
女は感情の起伏をほとんど見せず、淡々とそう告げた。
まるで事実を読み上げるだけのように。
レヴィン「……誰にだ」
女は一瞬だけ視線を逸らす。
ほんのわずか、それでもレヴィンは見逃さなかった。
レヴィン「頼まれただけで、ここまでやるか?
名を借りて、姿を真似て……それでも危険は分かってるはずだ」
「別に……お金の為なら、そのくらいやるし」
あまりにも軽い口調だった。
善行も、名前も、装備も――
すべてを“仕事”として片付けるような言い方。
レヴィン「……なに?」
思わず、低い声が出る。
レヴィン「じゃあ、あんたが配ってた食料も……あの人たちの笑顔も……全部、金のためか?」
「あれは単なる気まぐれ……別に構わないでしょう?」
女は視線を逸らし、淡々と続ける。
「私が頼まれたのは、スラムの“悪いやつ”を、リュウの姿で倒すこと」
レヴィン「誰が決めた」
「それは私……そのくらいの鼻はきく……」
さっきから、この女の言い方は、慣れている者の口調だと感じさせる。
「ねえ、もういい?」
女は剣を下げないまま、しかし踏み込んでもこない。
「聖騎士なんでしょ……?
だったら私は敵じゃない」
「無駄な戦いは、したくないの」
レヴィンは、すぐには答えなかった。
暗黒騎士の仮面越しに、じっと彼女を見る。
レヴィン「……俺はな」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
レヴィン「“敵かどうか”で剣を振るタイプじゃない」
女「……じゃあ何?」
「リュウさんの格好をして、誰かの“都合のいい正義”を代行してる」
「それを見て、“はいそうですか”って帰るほど、俺は器用じゃねえんだ!!」
「私が斬ったのは、スラムで人を食い物にしてた連中だけ」
「それでも?」
レヴィン「それでも、だ!!!」
即答だった。
レヴィン「善行だろうが、気まぐれだろうが、
他人の名前を借りて剣を振るなら、
理由を聞く権利くらい、俺にはある」
沈黙。
風が吹き、赤い鎧の裾が揺れる。
「面倒だなあ……」
赤い鎧の女は、そう呟いてから――
ゆっくりと、大剣の柄に手をかけた。
「じゃあ少し……剣を握らせてもらうね」
兜の奥から、視線だけが向けられる。
「後悔しないでね……?
聖騎士なんだよね……?
強いんだよね?」
レヴィン「……なに?」
随分と上からだ。
挑発にしては静かすぎるし、
脅しにしては感情が乗っていない。
(腕に……相当、自信があるな)
レヴィンもまた、腰の剣に手を伸ばす。
レヴィン「忠告しておく……俺も腕には自信がある」
⸻
二人の視線がぶつかる。
風の音すら、まるで刃が交わる前触れのように聞こえた。
世界が一瞬、呼吸を止めたかのようだった――次の瞬間、全てが動き出す気配があった。
お読みいただいてありがとうございます!!(*´▽`*)
今回のお話は、ずっと書きたかった暗黒騎士のように顔を隠すレヴィンと、リュウの装備で顔が見えない女剣士のお話です!!
二人の視線や動き、微妙な心理のやり取りを描くのが楽しくて、書いていてワクワクしました。
二人の空気感や緊張感を感じてもらえたら嬉しいです。
ちなみに、リュウさんとレヴィンの過去編もいずれ書く予定なので、そちらもお楽しみに…!✨
コメントやお気に入りで「ここ好き!」とか「この場面ドキドキした!」と教えてもらえると、とても励みになります。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!!




