交錯する視線と想い
公園のざわめきがまだ耳に残る中、レヴィンはゆっくりと視線を巡らせた。
そこにあったのは、子供たちの驚きと、母親たちの困惑の顔。
そして――迷宮で命を落とした被害者の家族の、深い憎しみ。
視線は交錯する。
恐怖と怒りに震える男の目と、レヴィンの目が、一瞬、火花のようにぶつかり合った。
セレナは父の脇で微かに眉を寄せ、状況を見極めようとしている。
時間がゆっくり流れるかのように、その場の空気が張り詰める。
交錯する視線の奥で、過去の迷宮事件の影が、静かに蠢いていた……。
「俺だって……助けたかった……!!」
胸の奥から絞り出すように叫びたい衝動を、レヴィンは必死に押し殺す。
「俺以外の聖騎士は、アーサーさんしか生き残れなかった……」
その言葉も、口にすることはできない。
ぐっと呑み込み、胸に重くのしかかる痛みを、ただ抱え込むしかなかった。
レヴィンは、男を真っ直ぐに見つめながら、低く震える声で告げた。
「申し訳ありません……奥さんを助けられなくて……でも……本当に、出来なかったんです……」
言葉の端々に、胸の奥から絞り出すような痛みが滲む。
レヴィンはその場で、ただ真摯に謝ることしかできなかった。
あの時、命を振るいにかけた迷宮の主の顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
怒りが、胸の奥から湧き上がった……!
しかし、どんな言葉を口にしたところで、この人の苦しみは消えない。
「俺を殺しても……奥さんは、帰ってこない……」
その言葉も、ぐっと押し殺し、レヴィンはただ頭を下げ続けた。
男は涙を流し、叫んだ。
「どうしてだよおおおっ……!」
そのとき、遠慮がちに子供たちの母親が声をあげた。
「あの……その聖騎士さんが、迷宮の方……なんですか?」
レヴィンを見つめ、何か言いたげに問いかける。
男は怒りをあらわにする。
「そうだ!!! こいつだ!!! 忘れやしねえ!」
母親は少し息を整え、子供を守ってくれたことに礼を言った。
「あの……子供たちを助けてくれて、本当にありがとうございました……」
レヴィンは少し顔を赤らめ、頭をかく。
「え……いや……俺がこんな素顔をさらして呑気に遊んでたから……お子さんたちを巻き込んじゃって、本当にすいませんでした……」
母親たちは困惑の表情を浮かべる。
そして、ひとりが小さな声で質問した。
「あなた、何歳なの……?」
レヴィンは思わず目を丸くする。
「え……?」
予想外の質問に、戸惑いが全身に広がった。
レヴィン「ええっと……18です……」
子供たちの驚きの声が飛ぶ。
「えー!! もっとガキかと思った!!」
レヴィン「んな……なんだよー! 確かに年より下に見られるけど……」
母親の一人がふと呟く。
「18……この子、兄ちゃん、私の長男と同じだわ……」
子供たちも興奮気味に続ける。
「兄ちゃん、16歳くらいに見える!!」
レヴィン「聖騎士は18からしかなれねーの!!」
だんだん空気は柔らかくなり、公園のざわめきも穏やかさを取り戻していった。
男は低く唸るように口を開いた。
「お前……まだ聖騎士になったばっかか……」
レヴィンは小さく頷く。
「は……はい……」
男は俯き、呻くように心の中で呟く。
(それで、あの迷宮を踏破して、アグニもその歳より前に倒してんのかよ……)
再び顔を上げ、目を細める。
「大人が何人も挑んで、踏破できなかった迷宮を……ガキが踏破しちまったってわけか……」
レヴィン「……あの、本当に俺……」
男はため息をつき、後ろを向いた。
「もういい……」
セレナの父が声を荒げる。
「年齢など関係ない!!! 聖騎士として責任ある年齢だ!!!」
セレナは慌てて、父に声をかける。
「お父様……」
レヴィンも力強く頷く。
「その通りです……年齢は関係ありません……」
セレナの父は力強く声を張り上げた。
「だが、それを裁くのはお前ではない!! 国が決めるものだ!!」
セレナは慌てて父に声をかける。
「お父様……!」
母親の声が震える。
「そうよ……子供たちが遊んでる場に、いきなり……!!」
男は黙り込み、唇をかすかに震わせる。
「……」
男は罰が悪そうに、公園を後にした。
そして、ようやく平穏が再び公園に訪れた。
セレナの父が、厳しい表情で告げる。
「だが、暗黒騎士と世間で騒がれている男を、娘に近づかせるわけにはいかん……もう、会わんでくれ……!」
レヴィンは俯き、少し沈んだ声で答えた。
「は……はい……」
セレナは父に向かって、強い目で告げた。
「お父様!! 今日のお話は、私からお誘いしたんです!!」
父は驚きの声をあげる。
「なんだと!?」
しかし、セレナは動じず、続けた。
「私は……この方を見た時、真剣な顔で訓練に勤しんでいる姿を見ました。
暗黒騎士と言われている人が、笑って周りの方にも好かれていて……
どんな方なんだろう……って、知りたくなったんです」
「そうだよー! この兄ちゃん、俺ら子供より一番はしゃいでたぞー!」
その声に、レヴィンは何も言えず、顔を赤くした。
「なんか……うちの子たちと変わらないって、思ったわ」
母親たちの同意の声に、レヴィンはますます顔を赤くして恥ずかしさを隠せなかった。
セレナはにっこりと笑いながら、レヴィンに向かって言った。
「だから、私は今度は自分から会いに行きますね……レン様」
レヴィンは少し戸惑いながらも、静かに答える。
「セレナ……」
その様子を見て、セレナはさらに微笑む。
しかし、セレナの父は顔をこわばらせ、声を荒げる。
「ゆ……許さんぞ!? こんな男……!!」
セレナは揺るがず、毅然と告げた。
「私は……お父様の言うことを聞いてきました……
だけど、もっと知りたいんです。この方が」
その言葉に、子供たちは楽しげに冷やかす。
「ヒュウーヒュウーーッ!」
セレナは微笑みながら、レヴィンに告げた。
「今日は、私のわがままに付き合ってくれてありがとうございました……
デートしてくださって、とても楽しかったです。
次も、またデートしてくださいね……」
レヴィンは元気よく手を振りながら答えた。
「おう!! またどっか行こうな!!」
しかし、すぐに少ししょんぼりして呟く。
「次は食い過ぎないようにする……」
セレナは微笑みながら言う。
「ふふ……シェアも新鮮で、楽しかったですよ」
レヴィンは首をかしげながら、少し照れたように答える。
「そう……?」
その楽しげな二人の様子を見て、セレナの父は娘の手を引っ張りながら、怒気を含んで告げた。
「帰るぞ!!」
レヴィンは呑気に手を振る。
「またなーーー」
父の怒気を含んだ視線は、ますます鋭さを増していた……!!
レヴィンはそっと呟いた。
「とりあえず、デートミッションは成功かな……」
胸の奥で、小さな達成感と、ほのかな幸福感が混ざり合う。




