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仕掛けた代償

放課後。

リビングに座る沙羅は、今日届いたばかりのブルーレイディスクを手にしていた。

『黄昏館の囁き』――プレミアホラー映画。ホラー小説を愛する葛城に対し、親密度を増すために口実として選んだ作品だ。


(これで学園でも、家でも……少しずつ距離を縮めるのよ)

沙羅は静かに笑みを浮かべる。


しばらくして、葛城がいつもの静かな足取りでリビングに入ってきた。

「……ただいま」

「おかえりなさいませ、お嬢様」


葛城は紅茶を用意し、砂糖とミルクを整える。その背中を見つめながら、沙羅は声をかける。


「ねぇ、ちょっと面白そうな映画を見つけたの。ホラーだけど……あなた好きでしょ?」


「……まぁ、嫌いではありませんが」


「そう、最新の映画ではないのだけどホラー風ファンからの人気も高いのに配信もレンタルもされていないやつよ。一緒に観てくれる?」


葛城は少し視線を向けるだけで、頷いた。

孤独を好む彼だが、好奇心は完全に閉ざせないらしい。


沙羅はテレビ前に座り、円盤を再生機に挿入する。

館の廊下を映す暗転、微かな足音、風に揺れる古びたカーテン――画面から漂う不気味な空気に、彼女は思わず肩を震わせる。


(……あれ、思ったより怖い……?)

沙羅は冷静を装おうとするが、階段から少女の幽霊が迫るシーンで、思わず小さく後ずさる。


「ひっ……!」

その小さな声に、葛城がちらりと目を上げた。

沙羅は慌てて手で口を押さえる。


(やばい……実はホラー苦手なのバレちゃう……!)


映画は徐々に恐怖を増していく。暗い館の中で突然の叫び声、影が壁を這うシーン。沙羅は息を詰め、膝を抱え、思わずソファに身を縮める。

一方、葛城は特段リアクションもなく淡々と視聴を続けている。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「……ふ、ふふ、大丈夫よ……ただ、演出がちょっと想像以上だっただけ……」

微妙に声が震えてしまう。葛城は眉一つ動かさず、また無言で画面に目を戻す。


沙羅は自分の態度を必死にコントロールしようとする。しかし、足元が震えるのを感じ、思わず目を閉じる瞬間が何度もあった。


(……だめ、これじゃただのビビリ女じゃない……!)

彼女は呼吸を整えようと深呼吸をするが、館の奥から聞こえる幽霊の低い囁きに再び体が硬直する。


映画が中盤に差し掛かる。館の地下室に少女が追い込まれる場面で、ついに沙羅はソファから小さく跳ね上がる。


「ぎゃっ……!」

「……」

葛城は眉ひとつ動かさず、ただじっと見つめる。沙羅は顔を赤くして、必死に手で顔を隠す。


(ああ、だめ……見透かされてる……)

このままでは、学園での“冷静で完璧な私”というイメージまで揺らぎかねない。


沙羅は一計を案じる。必死に笑みを作り、声を落ち着けて言った。

「……ふふ、ね、怖いのも映画の醍醐味よね……?」


「ですね」

葛城は短く頷く。


映画のラスト、館の真実が明かされるシーンで、沙羅はわずかに肩を震わせながらも、葛城の横顔に目を向けた。

(……これで、少しは会話のきっかけになるかも)


映画終了後、沙羅は息を整え、少し微笑む。

「ふぅ……、面白かったわね」

「……まあ、予想通りです」


葛城はまた沈黙を保つ。だが、沙羅の動揺は確実に見抜かれている。彼女は胸の奥で、ほんのわずか屈辱を感じながらも、作戦の次の段階を考え始める。


(バレたのは痛手……でも、これで少なくとも会話のネタとなる材料は増えたわ)


窓の外には月が浮かび、リビングの光に反射して二人を照らす。

黒羽沙羅の瞳には、恐怖に揺れた自分と葛城の微かな心理的接点が、複雑に混ざり合って輝いていた。

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