お嬢様、嫉妬で不機嫌モード突入中! -その3-
「おい、あの黒羽さんが告白してるぞ」
「美男美女って感じでお似合いよね」
「まじかよ、俺もあんなこと言われて〜。葛城、許すまじ」
「えー、私も葛城くん狙ってたのにー」
次第にざわめきが広がっていく中庭。
「ちょっと、こっち来なさい!」
そのざわめきの中心にいる沙羅が気づかないわけがなく、葛城と莉鈴2人の手を取り早足で歩き出す。
(あそこなら普段人がいないから落ち着いて話せるわ)
沙羅は二人を連れて中庭を抜ける。
次第にざわめきが遥か後方に遠のいていく。
やがて三人は静けさが支配する校舎裏へたどり着く。
「それで、具体的には私の事で相談ってなんなの?」
腕を組み、僅かに眉をひそめる沙羅。
声は冷静を装っているが、瞳の奥には羞恥と焦りが見える。
「んー、最初はね、深哉くんから”沙羅の様子がおかしい”って相談を受けたの。だから私、てっきりーーーそういうことかなって」
「そういうこと?」
「つまり、深夜くんのことで頭いっぱいなんじゃないかって。”私のせい”でね」
沙羅の頬がピクりと引き攣る。
「まぁ、実際ほとんど当たってたわけだけど。二人で話すチャンスを貰って、すこーし考えるフリをしてたところに.....沙羅が登場ってわけ。まるでドラマの修羅場なんだもん、ビックリしちゃった」
「ああ、少し騙されたようで癪だが概ね莉鈴の言う通りだ」
葛城が内容として間違っていないことに肯定を示す。
「そ、れ、よ、り、も。ねぇ沙羅。執事ってなんのことぉ〜?」
次はこちらの番と言わんばかりに沙羅に問いかける莉鈴。
「執事...?何も知らないわなにか関係あるのかしら」
視線を逸らす沙羅。だが、その反応が既に”答え”であった。
莉鈴の目が鋭く細められる。
「沙羅と深哉くんが同じ家に住んでるってことから考えると。沙羅の家で深夜くんが住み込みで執事してるってことになるんだけど」
「うっ.....」
ズバリと言い当てられ、頬に一筋の汗が伝う。
「沈黙は肯定だよ。沙羅お嬢様」
(そうだったわ、この子私たちが同じ家にいること知ってるんだった)
「そうよ、あなたの言うとおり。葛城くんは家の執事として働いてるわ」
もはや、隠すのは不可能と悟った彼女は秘密を開示する。
「やっぱり。ねぇそれ羨ましすぎない?一日中深哉くんと一緒なんでしょ?」
「雇用関係上のことだから仕方ないじゃない」
「なら私も雇用関係結んじゃおうかな〜。沙羅のとこの倍は出すよ。」
「いいだろう。その話乗った。」
即断する葛城。
「何言ってるのよ!ダメに決まってるじゃない!雇用期間は3年って書いてあるもの」
沙羅の声が裏返る。
「そんなこと知っている。冗談だ」
「あなたでも冗談言うのね...ここ最近で一番の驚きだわ」
「ぶー!沙羅のケチ!」
「ケチで結構」
莉鈴は頬を膨らませたあと少しだけ真剣な表情を見せる。
「でも、安心してよ。私は約束通り沙羅達の関係を漏らすようなことはしない。誓うわ」
拳を胸に当てる仕草はどこか、子どもっぽさがありながらも真摯だった。
それに対し、ふっと笑みを漏らす沙羅。
「そこは”信用”しているから、心配はしていないわ。昔から約束は守ってくれるもの」
どうやら沙羅は莉鈴と付き合いが長い分、信頼もあるようだった。
少しだけ空気が和らいだのも束の間、莉鈴がまた悪戯っぽく首を傾げる。
「でもさぁ、深哉くん。実質、美女二人から告白されてるようなものじゃない?そこの所はどう思ってるの?」
問に対して葛城は一拍の間を置くこともなく答える。
「答えはNOだ、俺は他に意中の相手がいる。いや、ーー正しくは”いた”だがな。」
「お前たちと恋仲になることは無い」
冷静で迷いがない。芯が通った言葉であった。
「へぇ、はっきり言ってくれるじゃない」
沙羅の瞳が僅かに光を増す。挑むように微笑みながら、静かに口を開いた。
「葛城くん、知ってるかしら?恋って心臓ではなく脳がするものなのよ。」
「......脳?」
「ええ、ドーパミンが分泌されて幸福感を感じる。人はそれを恋と錯覚するの。つまり人は”脳”から恋を始めるのよ」
「だからあなたの脳を支配できた時こそ本当の意味で勝者となれる。素敵だと思わない?」
「だからお前たちがそこに入る余地はなーー」
そう言い切る前に沙羅に言葉に上書きされる。
「今は、ね。でも、三年後、卒業の頃にはあなたの脳が誰のものかは分からない」
瞳に灯るは挑戦に似た光。
妖艶でどこか切ない微笑みを浮かべる。
葛城の側まで歩み寄る。
彼の右腕に手を添え、まるで我がものであるかのに抱き寄せる。
「あなたの言う仮面の”黒羽沙羅”ではなく、ただの”沙羅”としてあなたの恋で染め上げてみせるわ。覚悟してなさい」
再び、しかし今度は”沙羅”として宣戦布告する。
続け様に莉鈴が負けじと笑う。
「もう、ずるいなぁ。私もいるんだけど!残りの恋を諦めてた乙女が本気になったらどうなるか教えてあげる♪」
そう言って今度は、莉鈴が空いている左腕に抱きつく。
両腕から異なる甘い香りがふわりと漂う。
他人から見ればまさに”両手に花”。
けれどその花たちは互いに咲き誇りながらもーー簡単には枯れそうもない。
この3年間で葛城の心は大きく揺れ動くことになる。その最初の波が、まさに今静かに立ち上がった。
ーー結局恋とは上書きされるもの。
いくらに好きな人がいたとしても、心のページは常に白紙を求める。
だれがその最後のラストページを埋めるのか。
その結果が分かるのは少なくとも三年後。
いや、そもそも人生においては確定した結果を得ることは不可能に等しいのかもしれない。




