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デートって、もはや戦場じゃん? -その3-

買い物を済ませた二人は、街路樹が赤や金に染まる並木通りを抜け、静かな路地裏へと足を踏み入れた。

そこは人通りも少なく、西洋を連想させる外観の小さな店舗が並んでいる。

洒落たカフェや手作り雑貨の店が軒を連ね、まるで別世界のような雰囲気だった。


「へぇ……こんな所にこんな可愛い店があるんだ」

莉鈴が足を止めたのは、木製のドアに手描きのプレートが掛けられた小さな雑貨屋。

店内には柔らかなベル音が響き、アンティーク調のランプの光が静かに棚を照らしている。

動物の置物や、手作りのオルゴール、季節のリースが所狭しと並んでいた。


その中で――莉鈴は一つの棚の前でぴたりと動きを止めた。


「……あ」


棚の上に飾られた、手のひらサイズのクマのぬいぐるみ。

小さなタグには、確かにこう記されていた。


『Shirogane Toy’s × Local Craft』



「これ……ウチの会社の商品じゃない。地方の職人さんと一緒に作ったやつだ……」


声が少し震えていた。

懐かしさと誇らしさ、そして少しの寂しさが混じったような声音。


隣で覗き込んだ葛城が、そのタグを手に取って目を細めた。

「白銀玩具って、ああいう仕事もしてるのか」


莉鈴は少し照れくさそうに笑って、髪を耳にかけた。

「うん。表向きはキャラクターものとか、可愛いおもちゃがメインなんだけど……。

こういう“温かみのある商品”も作りたいって、昔、私が無理言って企画したの」


「お前が?」


「うん。中学の頃だったかな。利益にはならないって反対されたけど、どうしても作りたくて。

地域の職人さんたちと協力して、一つ一つ手縫いで作ったの。

夜遅くまで試作品を抱えて泣きながら作ったりして……。あれは、今でも一番思い入れがあるプロジェクトだったな」


莉鈴の目が、懐かしむように優しく細められる。

彼女がただの「財閥のお嬢様」ではなく、一人の“作り手”として夢を持っていたことが滲み出ていた。


葛城は短く息を吐き、少しだけ笑った。

「たしかにいいな。金儲けのために作られたものより、誰かのために向けて作られたものには思いを感じる。」


「……深哉くん」


「さっきのお返しだ」

そう言って、葛城はそのぬいぐるみを手に取り、レジへ向かう。


「え、ちょ、ちょっと!? 私の会社の製品なのに!?」


「だからだろ。自分の作ったものを、他人がどう感じるか、確かめた方がいい」


そう言って自然に会計を済ませ、包装されたぬいぐるみを莉鈴の胸元に押し付ける。


莉鈴の胸が――跳ねた。

心臓が、耳の奥で暴れるように鳴る。


まるで、自分の“想い”が報われたような。

誰にも理解されなかった夢を、初めて真っ直ぐに受け止めてくれたような。


「……っ、ありがと。大切にする」

そう呟く声は、震えていた。



店を出ると、秋の風がふわりと吹き抜けた。

莉鈴はプレゼントされたクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめ、顔を埋めた。


(ああ、もう……ダメだ。完全に、好きだ……)


ーーー


街を歩き疲れた二人は、カフェのテラス席に腰を下ろしていた。

引き立ての豆の香りが漂う、夕暮れ前の街はどこか落ち着いている。

葛城はブラックコーヒー、莉鈴はカプチーノを注文し、莉鈴は無意識に小さく息を吐いた。


「……ねぇ、深哉くん」


「ん?」


「さっきの話だけど……。私、本当はね、将来ああいう仕事をもっと増やしたいんだ」


「ほう」


「でも、父や会社の人たちは“採算が合わない”って言うの。“白銀グループの顔としての責任を考えろ”って……。ねぇ、そんなの、変だと思わない?」


「……俺は変だとは思わない。だが、可哀想だなとは思う」


「え?」


「やりたいことがあるのに、周りが勝手に“お前の役割”を決める。……それが一番、人を腐らせる」


静かな声だった。

どこか過去を滲ませるような、寂しげな響き。


莉鈴はその言葉に、ふっと息を呑んだ。

(深哉くん……)

彼の言葉が胸の奥にすっと沁みていく。


ふと、カップを置いたそのとき――


「……あれ? 莉鈴?」


背後から聞き慣れた声がした。

莉鈴がビクリと肩を震わせ、振り返ると、そこには同じクラスの女子二人組が立っていた。

買い物袋を提げ、休日の私服姿。明るく笑うその顔には、ほんの少しだけ好奇の色が混じっている。


「あ、あはは……偶然だね、こんなところで」


「ほんとだ〜。てか莉鈴、それってもしかして……デート?」


その一言に、莉鈴の顔が一瞬で真っ赤になる。

視線の先には、静かにコーヒーを飲む葛城。彼は面倒くさそうに視線を上げると、小さくため息をついた。


「ち、違うの! ただの、買い物ついでっていうか、その……偶然会って、荷物が多くて手伝ってもらってただけ!」


「へぇ〜そうなんだ〜?」

「最近莉鈴、よくCクラスに言ってるから彼氏でもできたのかと思ったよ〜」


女子たちはひそひそと笑いながら、軽く手を振って去っていく。

去り際に「お幸せに〜!」なんて声が聞こえたが満更でもなかった。


「もぉ〜っ……! 変な誤解されちゃったかも」

言葉とは裏腹に少し嬉しそうに話す莉鈴。


「誤解じゃないのか?」

葛城が片眉を上げて意地悪く差し込む。


「そ、そういう意味じゃなくてっ……!」


莉鈴は慌ててカップを掴み、顔を伏せる。

指先が微かに震えていた。

だけど――その唇は、どうしても笑みをこらえきれなかった。


「……変な人。ほんと、意地悪」


けれどその横顔はどこか穏やかで、秋の光に照らされた瞳は学園にいる時とは異なりやけに優しく見えた。


テラスの木々が揺れ、木漏れ日がふたりの間に落ちる。

その沈黙は、気まずさではなく――どこか心地よいものだった。


やがて日が傾き、カフェの影が伸びていく。


「そろそろ帰るか。」


「……うん」


並んで歩く帰り道。

繋がる手と手。

街灯が灯るたび、莉鈴の胸の中に小さな灯が増えていくような気がした。


今日は特別なことなんてなかった。

でも、忘れられない一日になった――

そんな確信だけが、静かに胸の奥に残った。

一方、某お嬢様は雑貨屋から出てきたと思ったら人形を大切そうに抱きしめる莉鈴を見て嫉妬、怒り爆発寸前でした。

(あたしでさえなにか貰ったことは無いのに...)


ーー


翌日の学園では莉鈴たちに出くわした生徒から噂が広がらないわけはなく...

音速、いや光速で学園に広まります。

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