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デートって、もはや戦場じゃん? -その1-

朝六時。


白銀邸の最上階スイートルームでは、すでに戦いが始まっていた。

「勝負デートよ、白銀莉鈴、いざ出陣――!」


鏡の前でポーズを決めながら、莉鈴は髪を結び、口紅の色を3回変え、服を選ぶこと1時間。

ベッドの上には無数のコーデが散乱している。ピンク、ホワイト、ラベンダー……どれも「可愛い」の最上級だが、今日の目的は“恋”ではない。


「これは戦いなの。黒羽沙羅に、私のほうが上ということを見せつけるんだから!」


そう言いつつも、手は少し震えていた。

容姿もよく愛想も良いため何かとモテる莉鈴だが恋愛経験は全くない。ゆえに男子とのデートも初めてなのだ。

葛城と二人きりのデート。それを「勝負」と呼びながら、胸の奥では何かが高鳴っている。


やがて、最終的に選ばれたのは白のフリルワンピース。毛足の長いポンポンの髪留めで結ばれたツインテール。香水は少し甘め。

“あざと可愛いモード”、完成。


出発前、鏡に映る自分に向かってウインクを飛ばす。

「完璧。これなら誰だって落ちるわね」


――ただ一人、葛城を除いて。


一方その頃、駅前のベンチでは。


葛城は私服姿で立っていた。白の半袖シャツにジーンズ。地味というか、無頓着そのもの。彼にとって今日の約束は「ただの外出」らしい。

莉鈴が駆け寄ると、彼はほんの少しだけ目を細めた。


「……それ、戦闘服か?」


「うふふ、見る人が見たら即撃沈♡」


「そうか。なら、俺は不沈艦だかな」


「つまんなーいっ!」


莉鈴が頬を膨らませると、周囲の通行人が振り向いた。

この瞬間、すでに“戦”は開幕していた。


行き先は莉鈴が選んだ大型ショッピングモール。

黒羽がどうせで尾行してくるであろうことも予想して、あえて「絵になる場所」を選んだのだ。


「ねぇ葛城くん、このお店行こっ!」


「……服屋か。俺、そういうの興味ないんだが」


「ダーメッ。女の子の買い物に付き合うのがデートってものよ!」


店に入ると、莉鈴は次々に服を手に取っては「これどう?」と見せる。しかし葛城は淡々と「似合う」「別に」「普通だな」と返すだけ。


「普通って何!? このデザイン、今年の流行よ!?」


「知らん。俺は流行に疎い」


「……もう! ちょっとはときめいて!」


その後、カフェに入ると、葛城はアイスコーヒーを頼み、黙々と文庫本を読み始めた。


「ねぇ……デート中に読書!?」


「待ち時間、暇だからな」


「待ち時間じゃないし、暇って何よ!」


「おまえがスイーツの写真撮ってる間、時間あるし」


「……う、うるさいわね!」


 莉鈴がムッとしてスプーンをカチカチ鳴らしていると、隣の席のカップルがクスッと笑った。

まるで舞台のワンシーンのような二人。どこか微笑ましくも、温度差が激しい。


お次は映画館。

莉鈴が事前に選んだ恋愛映画のチケットを買おうと売り場に行こうとした時、葛城は何故か別のポスターを指差した。


「これだ!これを観よう」

指先に視線を送るとそこに掲げられていたのは不気味な文字で見る人の恐怖心を煽るよう作られた映画のポスター。

葛城の大好物、”ホラー映画”であった。


「……え?」


「この監督、好きなんだ。そして本来今日はこの映画をひとりで見に来るはずだった。」


「えー、ホラー!? 私、怖いの無理なんだけど!?」


「じゃあ、膝の上にでも乗ってていいぞ」


「さすがの私も映画館でそんな事しないよ!乗るわけないでしょ!?もう!」


結局、急に饒舌になりどれ程優れた映画なのか語り出した葛城によってホラー映画を観ることになった。

莉鈴は上映中ほぼずっと涙目で視界を覆っていた。けれど――途中、驚いて手がぶつかった瞬間、心臓が跳ねた。それが一瞬の出来事だと分かっていても、頬が熱くなる。

(な、何これ……別にドキドキなんてしてないんだから……)


---


少し前に遡り。

駅前で沙羅は帽子を深くかぶり、尾行を開始していた。

「ふふ、これは監視よ。()の執事が外で失礼がないか」

(まぁオフモードのあいつの場合、失礼しかないんだろうけど…)


そう言いつつも、心の奥では焦りと嫉妬が交錯していた。人混みによって姿が消えたり見えたりする葛城を遠目で監視する。

ベンチに座って莉鈴を待っているようだ。

その後、少し遅れて莉鈴と合流したのを確認し歩き出した二人の後追う。


視線の先では、莉鈴がやたら距離を詰め、腕を絡めたり、寄りかかったり。まるで“見せつけている”ようだ。


「……あの子、明らかに意図的ね」

しかし、どこか妙だった。

葛城は彼女のスキンシップをあっさり受け流し、どちらかと言えば避けているようにも見える。

「……避けてる? どういうこと……?」


黒羽の胸に、複雑なざらつきが生まれた。

嫉妬なのか、安心なのか、わからない。

ただ、視線を離せないまま、彼女は静かに二人を追い続けた。


二人が向かった先はどうやらショッピングモールのようだった。


服屋、カフェと周り葛城は相変わらず感情は読めないが莉鈴ははしゃいでおりとても楽しそうだった。

さすがにカフェで読書をし始めた葛城を目撃した際は少し莉鈴に同情した。

(うわー、ちょっとそれはナイナイ。最悪ねアイツ)


その後向かったのは映画館。

なにやら揉めているようだが葛城がホラーを観ると言い出したのだろう。沙羅も莉鈴もお互い怖いものは苦手のため回避したい気持ちは大いにわかる。

(莉鈴、頑張りなさい。じゃないと私まで観ないといけなくなっちゃうじゃない...)


祈るように見ていたが二人が入っていったのは入口近くのスクリーン5番。

天井から吊り下げられた上映案内を確認すると次にスクリーン5番で上映される予定なのは”エクソシスト〜最期の悪魔〜”。

沙羅の瞳から光が失せる。


泣く泣く同じ上映回のチケットを購入し沙羅もスクリーン5番へと入ったのであった。

(入った後に気づいた話だが、二人がどこの席を購入したか分からないため結局監視はできずソロホラー映画鑑賞という地獄を味わった)


---


映画館を出た後、まだ手汗が収まらない中莉鈴は提案した。

「ねぇ、少し歩かない? この先の公園、夕日が綺麗なんだって」


偶然を装って、わざと人通りの多い道を経由して公園に向かう。黒羽の尾行もここまで届かない。完璧な“二人きり”の舞台。


夕暮れ、公園のベンチ。

風が頬をなで、早目に出てきたであろう数匹の蝉の声が遠くで響く。


「ねぇ、葛城くんってさ……好きな人いるの?」


「……さぁな」


「“さぁな”って何それ! ずるい!」


「別に隠してるわけじゃない。ただ、そういう話をする気分でもない」


「むぅ……」


莉鈴は頬を膨らませ、ベンチに沈み込む。

しばし沈黙。

やがて、小さくつぶやいた。


「……ねぇ、もし好きな人が他にいたら、私、どうすれば勝てるのかな」


葛城は空を見上げたまま、静かに言った。


「勝つとか負けるとかじゃないだろ。そういうの、誰かを傷つけるだけだ。

それにもし仮に俺に意中の相手がいたとしてもそれはお前の想像してるヤツではない」


莉鈴の胸に、小さな棘が刺さる。

今まで「勝つ」ことしか考えていなかった彼女には、その言葉がまっすぐ突き刺さった。


その時だった。

公園の出口から、高級車が停まり、男の声が響いた。


「おや、通りすがりに見た事のある顔だと思ったら、莉鈴じゃないか。奇遇だね」


声の主は、白銀玩具グループの取引先、桐生グループの御曹司・桐生蒼真。

莉鈴の許嫁として両親が決めた男だった。

見たところ20代半ばの男だ。


「……桐生さん」


莉鈴の表情が一瞬で固まる。

強ばる莉鈴の横顔を見て葛城は警戒心を露わにする。


「相変わらず綺麗な顔だな莉鈴。俺との婚約、もちろん知ってるよな? なのに……そいつは誰だ?」


桐生は下卑た笑みを浮かべ、莉鈴の腕を強引に掴み車の方へ引き込もうとする。指先には力がこもっていた。


「やめて……離して!」


「何を言っている、お前は俺の物じゃないか 早くこっちへこ――」


その瞬間、葛城の手が桐生の腕を掴んだ。

無言。だが、圧は強い。


「嫌がってる。離せ」


「……なんだお前、ただの庶民だろ? 俺に指図するな!」


「関係ない。白銀が嫌がってるのが見えないのか。良い眼科でも紹介してやろうか?」


桐生は舌打ちし、腕を振り払う。

それと同時に振り払った腕とは反対の腕を掲げ葛城の顔面目掛けてフックを叩き込む。

…が葛城はそれを最小限の動きでかわすと同じくフックを桐生の顔面に叩き込んだ。

パンチをかわされクロスカウンターを食らった桐生の鼻からは赤い体液が滴り落ちる。


予想外の反撃をくらい驚いたのか後ずさりして車へと戻る桐生。その間クソッ!クソッ!と声を荒らげる。

「お前、絶対許さんからな」葛城に向かって指差し恨みをぶつけた後、バンッ!と車のドアが閉められタイヤの音を響かせて去っていく。


「手、見せろ」

近くのコンビニで消毒液と絆創膏を買い、ベンチで簡単に応急処置をした。拳の擦過傷は浅いが、写真も残す。

「次からは位置共有を入れておけ。帰りが不安なら、通話つなぎっぱなしで帰る」


残された莉鈴は、その場にへたり込んでいた。手が震えている。


「大丈夫か?」


葛城が差し出した手。

その手の甲は殴った際に怪我したのであろう痛々しく皮がめくれていた。

それを掴み立ち上がるとベンチに座り直す。


そして震える声で話し始める莉鈴。

そこにいつもの天真爛漫な彼女の姿はなかった。

「さっきの彼は桐生グループ御曹司の桐生蒼真って人なの。ウチは白銀玩具っていう昔からある大きな会社でね。あいつは親が決めた私の許嫁なの。」


「.....」

葛城は口を挟むことなく、莉鈴の語りに耳を傾ける。


「今どき許嫁だなんて古いよね、まったく。アイツは私のことをモノとしか見てなくて前も無理やり襲われそうになったことがあるの。威圧的で傲慢で、...私.......怖くて怖くて」

泣きたくないのに、泣いちゃいけないのに怖かったことと、安堵したことで瞳から零れる涙。


「なんで助けてくれたの?」


「おまえが楽しそうではなかったから、そして俺も少し思うことがあってな。今が楽しくないのはよくないだろ」


「その言葉覚えていたんだ...、ありがとう」

「葛城くんって凄いね。あのパンチ、アイツプロテストに受かったボクサーだよ(今は現役じゃないけど)」


「俺も多少は格闘技に心得があっただけだ」


それでも不安げな莉鈴の表情は変わらず。

「そっか、私のせいで葛城くんが大変な目にあうかも....」


「桐生の捨て台詞か? なら気にする事はない。正当防衛だ。おまえを無理やり連れ去ろうとしたところからしっかり映ってる。」

そう言うと空いているベンチを指差す。


そこにはちょうど莉鈴たちが画角に収まるように背もたれに立てかけられた葛城のスマホが置いてあった。


「すべて録画してある。 なにかしてきたとしてもこちらにも問題ない」

「このあと交番に寄る。被害の相談受理だけでも番号を取っておけば牽制になる」

「学校にも担任と生徒指導に報告しておこう。大人の目を入れておくのが一番安全だ」


(すごい....)

胸が高鳴るのを感じる。

先程まで恐怖で冷えきっていた体が熱くなる。

(ああ……私、本気で、この人に――)


  胸の奥が、熱くなる。

  いつもの“演技”じゃない。

  本当の意味で、惹かれていた。


ーーーーーー


あの後、葛城が先に電車で帰り、莉鈴は迎車を呼び帰宅している。

車内で、莉鈴は父の秘書に連絡を入れた。「昨夜の公園での件、映像データを弁護士へ。接触の差し止めの文面、準備して」/返信はすぐに来た。「了解。内容証明で先方家に送る」

ひとりになった車内で、窓の外を見つめる。


街の灯りが流れていく。

ふと、窓に映る自分の顔が――少し、優しくなっている気がした。


「……バカ」

小さく笑いながら呟く。


「こんなはずじゃなかったのに……」


今日のデートは黒羽への挑発、そして自分の方が優れていると示すための勝負だった。

でも、終わってみれば――自分の心の方が揺さぶられていた。


胸に残るのは、葛城の手の温もり。

もう忘れられそうにない。


翌朝、担任から「事情把握。校外トラブルは学校でも記録しておく」と返信が来た。交番の相談受付番号もスマホに残っている。――まずは、一歩。

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