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数十分越しの再会

ーーピピピピピッ!

翌朝、スマホのアラームに起こされベッドから目を覚ますと伸びをして部屋を出る。

開けた途端鼻腔に美味しそうな匂いが届く。

階段を降りて向かった1階のリビングには、ダイニングテーブルの上に1人分の食事が既に用意されていた。

白米に味噌汁、焼き魚、だし巻き玉子、きんぴらに味海苔。まさに定番の和食だ。

至って平凡なメニューなのだが、鼻腔に流れ込み無理やり脳を殴りつける香しい匂いにより一流レストランの食事よりも美味しそうに見えてしまう。

「美味しそう...」


辺りを見回すは姿はない、しかし作ったのは彼しか居ないだろう。

すると脱衣場の扉が開きその人物が姿を見せる。


「おはようございます、お嬢様。ちょうどこれから起こしに行こうとしていたのですが、早起きですね」

口調は穏やかであるが昨日と変わらずその顔に表情と呼べるものは無い。


「朝起きるくらいはできるわよ」


「朝食を作りましたのでどうぞお召し上がりください。お父様からは和食が好きと伺っておりました。」


食欲がそそらていたせいもあり、言われるがまま無言で椅子に座る。

まずは一口、味噌汁の入った器を傾け口に流し込む。

出汁と味噌の香りが鼻から抜け、それぞれが絶妙な具合で入れられてることが分かる。塩っぱ過ぎず具も食べやすいサイズにカットされており申し分ない美味しさだ。

そこからは黙々と箸を走らせ、気づいた頃には全ての皿は空となっていた。


「なんだ、こんなものなのね。もっと精進して私に合う美味しい料理を食べさせなさいよ」

口ではああ言ったが、とても好みの味付けでこんなに美味しい料理は久方ぶりに食べた。

料理は沙羅の合格ラインを悠々と超えていた。

しかし、彼女も易々と認める訳にはいかない。

一人の自由を満喫するために葛城を追い詰め、辞めさせなければならないのだ。


「力不足で申し訳ございません。お口に合う料理をお出しできるよう努力いたします。」

料理にダメ出しをされたことによる落ち込み等は全く見られない。

こちらの話を受け止めずそのまま流しているようで真の意味で会話として成り立っていない。


沙羅は一旦着替えるために自室戻る際、葛城の前を通りパジャマをわざと少しはだけさせてこちらに視線を誘う。

...が葛城はこちらを一瞥しパジャマを無言で直す。

女が故にいやらしい視線で見られていればある程度分かるが、葛城の視線は異なり何とも思っていない様子であった。

(色仕掛けもダメそうね...)


その後、自室に戻った沙羅。

クローゼットから新しい鳳華学園の制服を取り出し袖を通す。

鏡に映る姿を見て思わずにやけてしまう。

「これよ、これこれー。この制服が来たかったのよね。毎日着るものだものどうせなら可愛い方がいいに決まってる」


鳳華学園は日本一と言っても過言ではない進学校であるが別に将来に向けてこの学園にしたわけではない。

理由は単純。制服が一番可愛かったからである。就職は親のコネでどうとでもなるから心配はしていない。


制服に着替え、部屋を出ると先程まであった食器が消えていた。

葛城が下げたのであろう。


そのまま洗面所で身支度を整え、家を出る。

外へ出る直前、葛城から「いってらっしゃいませ」と声をかけられたが当然無視した。


これから通学路となる桜並木の坂を登り学園へと向かう。

しばらく歩くと同じ制服を着た人達がチラホラ見えてくる。


「ねぇ、あの人...もしかしてモデルの沙羅様じゃない?」

「うわ、ほんとだめっちゃ美人ー!でも本物がこんなとこ居ないわよ。似てる人なんじゃないの?」


少し前を歩く女子2人組がチラチラとこちらを振り向き見ながら会話しているのが聞こえてくる。

ネクタイの色が異なるため、おそらく上級生であろう。


学園が近くなるに連れ、同じ制服の密度も増す。それと比例し私に向けられる視線も増していく。この誰からも向けられる羨望の眼差しがたまらなく快感なのであった。


学園に辿り着くと校門前に人だかりができている。

何事かと近づくとクラス表が張り出されているのに気づいた。

見える位置まで移動し沙羅は自分の名前を探す。

「あったわ、私はC組ね」


在籍先が判明したのでここには要はない。

足早に群衆から抜け下駄箱で靴を履き替え1年C組へ向かう。


1年生の教室は東塔の2階にあった。

入口に掲げられているC組のプレートを確認すると教室に足を踏み入れる。

黒板には座席表がテープで貼り付けられており、見た感じ五十音順で並んでいるようであった。

”黒羽”は教室の左から1列目の後ろの席が割り当てられていた。


自席に着くと鞄を机の横に掛け担当の教師を待つ。だいぶクラスの席は埋まっておりまだ来ていないのは二、三人程度であった。


一人、二人と教室に現れ残る一人はどうやら私の前の席のようだった。

教室の時計に目をやると8:28、あと2分でホームルームの時間である。


ガララッと教室の扉が開き最後の一人C組にやってきた。

その姿が視界に入った途端ーーガタッ!

驚いて思わず立ち上がってしまった。


クラスの視線が私に集まる...

なんでもありませんよーといった装いでゆっくりと着席する。


遅れてきた最後のクラスメイトも席に座る。

なぜもっと早く気が付かなかったのであろうか、クラス表、座席表、もう少しほかの名前にも意識して見ていれば分かっていたはずだ。

過去の行動が悔やまれる。


前に座るこの男を知っている。

よく知っている訳では無いが今朝もあっており、なんならついさっきまで見てた顔だ。


「葛城くん...あなたここで何してるのよ!」

他のクラスメイトには聞かれぬよう小さく囁く声で問い詰める。


軽く後ろを振り返る葛城。

「俺だってまだ16だ。学校くらい行くだろ。そんなこと誰だって考えればわかるのに、お前は馬鹿だな」


「え...」

想定外の回答に頭が追いつかない。

いや、想定外なのは回答だけではなく色々予想の範疇を超えている。


「そうじゃなくてなんでこの学園にいるのかってことよ」


「受かったからだよ、お前だって受けただろう入試。というか、馴れ馴れしく話しかけてくんじゃねーよ」


この私に向かって?何なのこいつ家の時と全然違うじゃない。

もしかして別人の可能性も...?

いやでも、同じ名前で見た目も同じだからまずないか。あーもうわけわかんない!


そうして、この鳳華学園での初日から沙羅は頭を抱えることとなる。

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