放課後の告白
昼下がりの校舎は、いつもよりざわついていた。
休み時間のたびに、女子たちの間ではある名前が飛び交っている。
「葛城くんってさ、あれで一人暮らしらしいよ」
「え、ほんと?料理とかできそう〜!」
「てか、あの無口な感じが逆に良くない?」
沙羅はノートを閉じ、何気ないふりで耳を傾けた。
(……まったく。みんなして何を騒いでるのよ。)
一週間前までは、彼を話題にする人なんていなかった。
けれど、今や学園の空気がまるで違う。
教室の中心にいなくても、彼の存在はどこか“中心”にある。
それが、沙羅には少し――面白くなかった。
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放課後、空が茜色に染まり始める頃、廊下を歩いていた。
ふと前方、昇降口の方から女子たちの声が聞こえる。
その中のひとり、見覚えのある顔。
クラスの中でも特に明るくて、誰とでも仲の良い少女――
「ねぇ、葛城くん。少し話、いい?」
足が止まった。
彼女の前には、鞄を肩にかけた葛城がいる。
「……構わないが。用事があるから手短に」
(……その言い方、まだ直ってないのね。)
沙羅は柱の陰でこっそり様子を見ていた。
「えっと……あのね、前から気になってて。よかったら、私と付き合ってほしいの」
一瞬、空気が凍りついたような静寂。
彼女の声が震えていた。
けれどその瞳は真剣で、冗談ではないことが伝わる。
葛城は目を伏せ、短く息を吐いた。
「なぜだ? 俺である理由はなんだ?」
「え……?」
「俺は別に、優しくもないし、社交的でもない。むしろ周りから見れば、面倒な人間だ」
「そんなこと――」
「おまえは俺の“外側”しか知らない」
静かに切り返すその声音には、かすかに棘があった。
「髪を切ったからか? 少し喋るようになったからか? それで惹かれたのなら――悪趣味にも程がある」
少女の肩が小さく震えた。
それでも彼女は、涙を堪えるように口を結ぶ。
「……そんなつもりじゃ……」
「そうか、ならもっと自分の目を信じた方がいい」
その言葉は冷たく響いたが、どこか優しさも混じっていた。
「他人の表面じゃなく、本当の姿を見られるようになれば、きっと――俺よりいいやつに出会る」
そのまま葛城は、背中を向け去っていった。
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「……っ」
柱の陰で、沙羅は拳を握りしめた。
(なに、それ……。ほんと、優しいのか意地悪なのかわからない。)
彼の言葉は容赦なかった。
けれど、どこか誠実でもあった。
(ほんと、バカね。あんな風に言われたらどんな子だって泣いちゃうじゃない。)
ゆっくりと歩き出す。
昇降口を抜けた先、夕陽が差し込む廊下で、葛城が立ち止まっていた。
彼も気づいていたのだろう。こちらに視線を向ける。
「……盗み聞きとは、趣味が悪いな。”お嬢様”」
「っ、ち、違うわよ! 偶然よ、偶然!」
「面倒だから、そういうことにしておく」
さらりと笑う葛城に、黒羽は唇を尖らせた。
(やっぱり……毒舌、全然抜けてないじゃない。)
けれど、そのわずかな笑みを見た瞬間――胸の奥が、少し痛くなった。
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