変わる日常、追いつかない気持ち
私事ですが映画のチェンソーマン観てきました。
原作を読んだのもだいぶ前なので新鮮な気持ちで鑑賞できました。
感想としてはレゼよりビームのほうが可愛い。
まだ観てない方は是非劇場版ビームを見てください。
ーチェンソー様、最強!
チェンソー様、最高!ー
月曜の喧騒が、まだ完全には戻らない教室。
昨日の葛城の“変化”が、まだクラスの話題を独占していた。
「ねぇ、あれほんとに葛城だったの?」
「だって昨日まで陰キャ代表だったじゃん?」
「信じられないって。今日もう一回見てみよう」
そんな囁き声が、朝の教室を覆っていた。
沙羅は、机の上にノートを出しながら、ため息をひとつつく。
(また今日も騒がしくなりそう……)
――そして、噂の本人が教室に入ってきた。
静まり返る空気。
ほんの一瞬、時が止まる。
葛城は、昨日と同じ整った髪型に、端正な制服姿。
その姿勢の良さと、視線の落とし方ひとつで「場の空気」が変わる。
「おはようございます」
それだけの一言で、女子たちの小さな吐息が漏れた。
「……やっぱ本物だ」
「ほんとに葛城くん……?」
「なんか歩き方まで違うんだけど」
男子たちは、どこか複雑な表情を浮かべていた。
嫉妬、警戒、そして認めたくないという感情。
(昨日までは馬鹿にしてたくせに、ね……)
沙羅は心の中でつぶやいた。
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葛城が廊下を歩いていると、すれ違う女子が目を奪われて立ち止まる。
その様子を見た数人の男子が、陰で舌打ちをした。
「調子乗ってんな、あいつ」
「急にモテてさ、イラつくんだよ」
「今日の放課後ちょっと脅かしてやろうぜ」
だが、その小さな悪意は、すぐに周囲の女子たちの怒声に掻き消された。
「ちょっと、聞こえてるわよ」
「そういうの、ダサいって分からないの?」
「顔じゃ勝てないからって僻むとか、最低」
その勢いに押され、男子たちは黙りこくるしかなかった。
彼にとっては、罵倒されることの方が“日常”だった、その”日常”が変化してきているのであった。
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放課後、女子たちの数人が黒羽の席に近づいてきた。
「ねぇ黒羽さん、ちょっと聞いてもいい?」
「葛城くんってさ、何かあったの? 急に変わったよね」
「さぁ……髪を切っただけ、じゃないかしら」
「えー、そんなわけないって!」
「なんか、雰囲気まで変わったもん」
「もしかして、黒羽さんが何か知ってる?」
沙羅は瞬時に目を逸らす。
(やっぱり、そう来たか……)
「……別に、特別なことはしてないわ」
「ふーん。じゃあさ」
一人の女子が、やや躊躇いながら言葉を続けた。
「黒羽さんって、葛城くんと……付き合ってたり、する?」
その一言に、心臓が跳ねた。
「はぁ!? な、何言ってるのよ!」
「あ、やっぱ違うんだ。よかったぁ~!」
女子たちは笑い合い、軽い調子で言う。
「じゃあ、私アタックしてみよっかな!」
「私も! 連絡先とか聞けるかな~?」
「……好きにすれば?」
沙羅は、努めて冷静を装った。
だが、胸の奥がチリチリと熱くなる。
――なにこれ。別に私には関係ない。
そう思えば思うほど、息が詰まるようだった。
(彼の変化を望んだのは、私。
なのに、他の子に見惚れられてモヤモヤしてるって……
馬鹿みたい)
◆◆◆
翌日の授業中。
先生が板書をしているあいだ、クラスの空気がいつもより穏やかだった。
その理由は――教室の一角にいた、ある男子生徒。
「それ、もう少し左の列」
「あ、ありがとう」
隣の席の男子がプリントの位置を間違えたのを、葛城がさりげなく指摘する。
以前なら見向きもしなかった場面だ。
「……なぁ、お前、なんか変わったよな」
「そうか?」
「うん。なんか前より……普通に話せる」
「後ろの席にいるやつに言われたからな」
「え?」
「“毒を吐くのはほどほどにしなさい”だと」
思わず男子が吹き出す。
「……はは、あの黒羽に言われたのか。そりゃ効くわ」
教室の空気が、柔らかくなる。
以前の葛城なら、誰かが笑えば鋭い言葉を返していただろう。
だが今は、ほんの少し口元を緩めて受け流す。
――それだけで、場の雰囲気が変わっていく。
(……彼、ほんとに変わった)
沙羅はノートに視線を落としながら、そっと横目で見つめた。
その姿勢、その声、その穏やかさ。
もう“根暗で毒舌な葛城”とは言い難い。
そして、周囲の女子たちがまた小さく囁く。
「ねぇ、今日もかっこよくない?」
「笑ったの初めて見たかも……」
「やば、ちょっと本気で好きかも」
沙羅の手が、シャープペンを握りしめる。
(あー……もう、何これ。うるさい)
彼が輝くほどに、自分の心が乱れていく。
それは誇らしさと焦りが入り混じった、まだ沙羅が知らない感情だった。




