ピアス、外した。それが今のオレの意思表示
停学明けの朝。
昇降口に現れたダイヤの姿に、クラスメイトも部員たちも、目を見張った。
「……あれ、黒崎ダイヤじゃね?」
「え?ピアス……してねぇ」
「てか髪、黒くなってね?」
いつものチャラさはなりを潜め、制服はキチンと着て、
胸を張って前を向いて歩く──
それは、ちょっとぎこちなくて、でも確かな"変化"だった。
部室。
「……よう」
扉を開けたダイヤに、誰もすぐには声をかけなかった。
だけど次の瞬間──
「よっ!黒崎更生記念日!第一号記録会、いっちょ頼むわ!」
「お前、髪真っ黒にしても顔だけ不良じゃん」
「つーか俺ら、勝手にピアスなしのダイヤを“ダイヤ2.0”って呼んでっから」
成瀬、レイジ、そして柊が笑う。
ダイヤも、少し照れながら笑い返した。
「うっせぇ……でも、ありがとな」
その週末。
初の記録会、100m走。
他校の選手たちは、ダイヤの名前を見てもピンと来ない。
「黒崎ダイヤ? 誰だそりゃ。見ねぇ顔だな」
「ってかあれ、ピアスのヤンキーじゃね? 陸上界に迷い込んだのか?」
ざわつく中、ダイヤはスタートブロックにしゃがむ。
(ビビんな……ビビんじゃねぇ。逃げ足じゃなくて、"勝つため"に走んだろ)
スターターの号砲が鳴った。
──ゴォン!
飛び出す。
スタートは少し出遅れた。でも、中盤からの伸びが凄まじい。
「なにっ、あの加速──!」
「後半で一気に抜いたぞ!」
「え、黒崎って……こんな走りできるの!?」
ゴールテープを駆け抜け、タイムが電光掲示板に浮かぶ。
──10秒98
一瞬の静寂。
次に起きたのは、どよめき。
「高1で……10秒台!?しかも、ノーマークのやつが!?」
「なんだよ、あいつ……!」
記録会の場に、衝撃が走った。
──ダイヤはただ、息を切らしながら空を見上げた。
「……やっとスタートラインに立てた気がするわ」
その背中に、柊が声をかける。
「よう、ダイヤ。お前、カッコよかったぞ」
ダイヤは笑って、こう返した。
「悪ぃけど、ここからもっとカッコよくなる予定なんで」