足が終わった…オレも終わった…
「あ〜、マジでダルいなぁ……今日、何やんの?」
いつものようにピアスぶら下げて、制服のシャツは出しっぱなし。
グラウンドに集まった陸上部員の中でも、ダイヤだけ明らかに浮いている。
「今日は300、200、100の3セット」
柊先輩の声が響く。
「300メートル? なんだそれ、中途半端じゃね?」
「バッカだな、お前…」
成瀬が苦笑いする。
「300はな、スプリントの持久力つけるんだよ。200でスピード維持、100でラストの爆発力確認。1セットでもキツいのに3セットだぞ?」
「ふーん…まあ、オレには関係ねーか。逃げ足だけで言えば、オリンピック級だしな!」
周囲は呆れ顔だが、ダイヤはどこ吹く風。
スタートラインにつくと、やっぱり異様な加速を見せた。
──1セット目・300m
最初の150mはぶっちぎり。
「速ぇ……!」
部員たちがざわつく。
だが、180mを越えたあたりから異変が起こる。
「はっ…はっ…ぐえっ……足が……っ!」
フォームが乱れ、腕もブンブン、足は完全に売り切れ。
ゴールまでたどり着いたが、もはやヨレヨレ。
「うわ……まじかよ。バテんの早すぎだろ」
「爆発力はあるけど、全然持久力ねぇな」
続く200m──前半飛ばして、またも後半ガス欠。
100mはほぼ流しで終わった。
2セット目にはいると、もう体が言うことを聞かない。
「無理……無理無理無理……足が終わった……オレも終わった……」
ダイヤはその場に倒れ込み、空を見上げた。
「ったく、勢いだけじゃ通用しねぇってことだな」
柊は腕を組み、静かに見下ろす。
「…お前、才能はある。でもな、それだけじゃ──」
──そのとき。
柊の視線がふとグラウンドの外へ向いた。
グラウンドの柵越しに、数人の高校生らしき男たちがこちらをじっと見ていた。
制服を着崩し、タバコ片手に、見るからに不良。
「……他校のヤツらか?」
「あいつら、見覚えあるな……北鳳工業の連中か?」
柊の目が鋭くなる。
そのうちの一人が、意味深にダイヤを指差し、にやりと笑った。
──不穏な風が吹き始めていた。
「おい、ダイヤ。お前、最近どっかで喧嘩売ったか?」
「え? あー……うーん……どこだっけな?」
「お前、マジでバカだな……」
笑う成瀬の横で、ダイヤはただ天を仰いでつぶやいた。
「オレ……マジで、陸上ってやつ……ナメてたわ」