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コウは鏡に映らない

作者:納豆ご飯
 今年の夏は、雨が少なかった。
 湯浅 蓮は、大学からの帰り道、いつものように裏山の方へ自転車を向けた。舗装されていない畦道を選ぶのは、特に理由があったわけではない。ただ、そうしないと一日が終わらないような気がしていた。
 ──今年も、夏が来てしまった。
 稲穂はまだ青く、風に擦れる音は耳の奥をくすぐる。
 自転車を押しながら歩いていると、ふいに、誰かの視線のようなものが背中をかすめた。蓮は足を止め、振り返った。
 が、背後には誰もいなかった。
 ただ、風が抜けただけだ。そう思って再び足を動かそうとしたとき──
「……蓮?」
 名前を呼ばれた。
 その声を、五年と一ヶ月ぶりに聞いた。
 振り返ったその先に、ひとりの少年が立っていた。畦道の真ん中、炎天下にもかかわらず、影のように色褪せた制服姿のまま。

 「……コウ?」

 口が自然に動いた。
 信じられないほど自然に、名前が出た。それ以外の言葉は、どこにも見つからなかった。
 コウは笑わなかった。いつもは笑ってたのに。
 その代わり、まっすぐ蓮を見つめていた。まるで「遅かったね」とでも言うように。
 だけど──何かが、おかしい。
 コウのその姿は、五年前、いなくなったあの日のままだった。

 成長も、変化も、何ひとつなかった。
 ──まるで、時間の中に置き去りにされたかのように。
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