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第12話 ドラゴンを鑑定しよう


 最近、俺の“鑑定眼”が冴えまくってる。


 奴隷の才能を見抜いては育て、ポンコツ商品を見抜いては高値で売り抜け、ついには魔剣まで従えてしまった。


 となれば、そろそろ――“戦場”で試す頃合いだ。


「……ってことで、冒険者クエストでも受けてみるか」


 朝の食卓、いつものように焼きパンとスープを啜りながら、俺はさらっと告げた。


 すると、リリアがスプーンを落とし、カリヤが目を見開き、ヴァルナはなぜか小躍りを始める。


「お、オージ様!? 冒険者に……って、本気ですか!?」


「危険です! まだ自衛の訓練も終わっていませんし、オージ様は基本的には戦闘職じゃ――」


「最高です!! クエストいきましょう! 討伐系! 巨大モンスター系! 爆炎と咆哮が響き渡るやつ!!」


「落ち着け、ヴァルナ。お前、最近ハイすぎるぞ……」


 カリヤとリリアとヴァルナをなだめつつ、俺は肩をすくめて言った。


「ちゃんと見極めて選ぶさ。俺の“目”があれば、危ない橋なんざ渡らねぇ」


 

◆ ◆ ◆


 

 ギルドの受付で、ざっと依頼を確認する。


 魔物の巣の掃討、盗賊退治、薬草採集……いろいろあるが――

 その中でも、ひときわ目を引いたのが、これだった。


 

【高難度討伐依頼:火竜出現】

場所:グレンの山岳地帯

内容:近隣への被害多数。討伐または追放

報酬:金貨50枚+素材買取


 

 ……ドラゴンか。


 普通なら即却下案件だ。下手したら全滅。


 だが、俺は思う。


(ドラゴンって、鑑定したらおもしろそうだよな……?)


 俺の鑑定眼があれば、炎の奥に“別の才能”が隠れてるかもしれない。


「これ、受けるか」


「本気ですか!?」「あ、あのドラゴンですよ!?」「よっしゃあああ!!」


 三者三様の反応をよそに、俺は用紙にサインを入れた。


「大丈夫だ。――俺の“目”が、そう言ってる」


 

◆ ◆ ◆


 

 グレンの山岳地帯。

 俺たちはクエスト対象区域の岩山に到着した。


 地面は焼け焦げ、所々に溶けた岩の痕跡。

 近づくだけで空気が熱気を帯びて、肌にまとわりついてくる。


 そして――現れた。


「グゴアアアアアアアアアッ!!」


 咆哮と共に、巨大な影が空を舞い、地面に着地する。


 全身を真紅の鱗に包まれ、目には炎。

 尾を振るだけで風圧が吹き荒れ、吐息一つで地面が焦げる。


 これが、ドラゴン――火竜。


「き、来ました……!」「すご……! 本当にいた……!」「うぉぉおおおおっ!!」


 仲間たちがそれぞれの武器を構える。


 けれど、俺は違う。

 俺の武器は、剣でも盾でもなく――この“目”だ。


「鑑定、起動――さて、お前の“本質”を、見せてもらおうか」


「《鑑定・展開》」


 俺がそう呟くと同時に、ドラゴンの姿に幾重もの情報ウィンドウが重なった。

 その情報は、まるで嘘をついているようだった――いや、逆に、“真実”だけが浮かび上がった。


 

《鑑定結果》


【種族】火竜(進化誤判定)

【レベル】48

【状態】魔力過負荷/属性誤適合

【属性才能】

 炎:F(適性なし)

 氷:SSS(本来の適合属性)

【主器官】氷腺閉塞/熱量偏向型ブレス

【弱点】炎による炎症/左肩鱗に成長不全部位あり


 

「……おいおい、マジかよ」


 俺は思わず、笑った。


 こいつ、“火竜”じゃねぇ。

 ――“氷竜”が、間違って“炎を吐かされてる”だけじゃねぇか。


「カリヤ、ヴァルナ! 攻撃は“火炎”優先だ! リリア、火炎系ポーションは!?」


「あります! 属性中和のファイアミスト瓶、5本!」


「全部俺に投げろ!」


 俺はそれを受け取ると、ドラゴンのブレスの合間を縫って、一本ずつ地面に投げつけた。


 瓶が割れるたび、深紅の霧が広がり、地面が一気に燃える。

 ドラゴンの巨体が、その霧に包まれるたび――“嫌がるように”後退した。


「グルルゥゥゥッ……グアアアアッ!!」


 案の定だ。

 “炎”はこいつの本来の属性じゃない。

 炎を吐くたびに、内部から熱が逆流している。


「今だ、カリヤ! 左肩、鱗が一枚欠けてる! そこに斬り込め!」


「了解――っ!!」


 カリヤが一閃。

 青白い気を纏った剣が、ドラゴンの左肩を抉った。


「ギィアアアアアアアアッ!!」


 鋭い咆哮と共に、ドラゴンの動きが鈍る。

 炎のブレスが一瞬止まり、地面に膝をついた。


 ヴァルナがすかさず飛び出し剣を構える。


「“炎断裂!”」


 炎を断つ一閃――剣から黒銀の斬撃が走り、火竜の胸元に大きな傷を刻む。


 そして――


「リリア、回復班待機! 全員、下がれ!」


 俺の指示で皆が後退。

 ドラゴンは荒い呼吸を繰り返しながら、ぐらつき、倒れ込んだ。


 ――勝った。


 俺たちは、誰も欠けることなく、あの火竜を討ち取った。


 だが。


 俺はまだ、“終わり”だとは思っていなかった。


 勝利の余韻の中、ふと、ドラゴンの鑑定結果をもう一度確認する。


(こいつ、氷属性SSS……)


 ブレスの形、血液循環、魔力の流れ。すべてが“氷”に向いていた。

 それを捨てて、無理やり“炎”に染めていた――だから苦しそうだった。

 それでも、火竜として討伐対象になるくらいに、強かったのだ。


(この才能、活かしたらどうなるんだ?)


 そんな疑問が、ふと胸に湧いた。


 だから俺は、近づいた。


 動かなくなったドラゴンの横に、そっとしゃがみ込んで――


「おい。生きてるか?」


 と、声をかけた。


 倒れたドラゴンの巨体から、熱気がゆっくりと引いていく。


 荒い息を吐きながらも、奴はまだ生きていた。

 その片目が、ぎろりと俺をにらみつける。


「……とどめを、刺さないのか」


 口を開いた。声は重低音で、かすれていたが、確かに“言葉”を持っていた。


「殺すつもりなら、もう刺してる。だが――」


 俺は目を細めて、奴の傷ついた胸元を見やった。


「お前、本当は“炎”のドラゴンじゃない。氷だろ?」


「…………なに?」


 ドラゴンの瞳がかすかに揺れる。


「炎の才能は最低レベル。ブレスを吐くたびに自分の中で熱が逆流してた。でも、氷の才能は……最高ランク、SSS。お前、本当は“氷竜”だったんだ」


 しばらくの沈黙ののち――


「……はは、ははは……そんなわけ……」


 ふとドラゴンがため息をつくと、炎ではなく、うっすらとした氷の息が漏れた。

 

「……人間が……俺の中身を“見抜いた”だと……?」


 ドラゴンは笑った。かすれた、でもどこか安心したような声音で。


「そうか……そうだったのか……俺は……間違っていたのか……」


 ブレスを吐くたびに体がきしむ理由、

 狩りに出るたびに体調を崩していた理由、

 周囲の同族に置いていかれた理由――


 全てが、氷の才能を無視して炎の力に縋っていたことにある。


 ようやくそれに、納得がいったのだろう。


 だから、俺は手を伸ばして言った。


「氷を極めたいなら、ついてこい。俺が導いてやる」


「……導くだと?」


「“目”が利くんでな。お前の成長も、行き先も、間違わずに示せる」


 しばらくの沈黙――そして、


「……フン。面白い。お前、妙な人間だな。ならば、付き合ってやろう」


 ズシン、と頭を下げるようにして、ドラゴンは俺の手に“意志”を示した。


 次の瞬間――


 バッ、とまばゆい光が走る。


「え――」


 リリアが思わず声を上げた。


 光が収まった時、そこにいたのは――


「……ちっさ!!?」


 俺の肩に、ちょこんと乗る、手乗りサイズのミニドラゴン。


 黒い鱗は淡く銀光り、鋭い目だけは元のまま。その存在感だけが“でかい”。


「契約が成立すれば、魔力効率のために“縮む”のは当然だろう? 知らんのか」


「いや、知らねぇよ!」


「ふふん……これで俺はお前の肩に収まる。便利だな」


「便利……っていうか……かわいいじゃねぇか、お前……」


「言うな」


 すぐさまにらまれる。


 

◆ ◆ ◆


 

「えっ、えっ!? オージ様、今のは……今のは……!」


「……もしかして……テイム……?」


 カリヤとリリアが固まる。


「手乗りドラゴン……爆誕……! この絵面、最強じゃないですか!!!」

 

 ヴァルナは興奮のあまり小刻みに震えていた。


 俺は小さな氷竜を見て、軽く笑った。


「名前、つけてやるか。“氷”の才能がSSSだったから……“ユキ”ってのはどうだ?」


「……ださ……いや、悪くはない。たぶん。ギリ、許容範囲だ」


「そうか。なら決まりだ」


 こうして俺の肩には、氷竜ユキが乗ることになった。


 この“目”さえあれば、ドラゴンの仲間すら選び取れる。


(よし。次は――どんな才能を見つけてやろうか)


 俺はニヤリと笑って、ギルドへと帰還する足を進めた。



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