第1話 目覚め
俺の名前は霧島直澄。
小さい頃に、事故でほとんどの視力を失った。
だけどなぜかそのかわりに……はじめて会った人でも、『その人の本質』がわかってしまうという特殊な能力を得た。
例えば、人柄の良いで有名な教師……。
俺はその人に初めて会った瞬間に、『この人はなにか悪いことをしている』というのがわかってしまった。
その後、数週間して、彼は痴漢でつかまり、大ニュースになった。
この不思議な能力のせいで、いくらか気味悪がられることもあった。
俺はいつも、孤独だった。
いじめられもした。
目が見えないことをいいことに、水を浴びせられたり、足を引っかけられたりな……。
目が見えないから、本を読むこともできない。
けど、最近は本を音読した音声なんかも充実していて、目が見えなくても小説を楽しむことができた。
ありがたい。
俺は特に、異世界もののライトノベルを好んで読んだ。
そんな俺は、ある日……車に轢かれて死んだ。
突然のことだった。
死んだとき、俺は思った。
『ああ、次の人生では……どうか目が見えますように……』
◆
次に目が覚めたとき、俺はまったく違う人間になっていた。
そう、俺はどうやら転生したみたいなのだ……。
そして、驚いたことに、そう……目が見える。
俺は感動した。
「すごい……本当に、見えてる……!」
思わず息を呑んだ。
これまで俺の世界には、音しかなかった。
足音、風の音、誰かの声――それだけが俺の世界だった。
けれど今、俺の前には『形』がある。
『色』がある。
『世界』がある。
それが、こんなにも……綺麗なものだったなんて。
もう長い間、忘れていた。
目の奥が熱い。
視界がぼやけてくる。
涙だと、すぐにわかった。
涙が『視える』ものだということがわかった。
「ありがとう……ありがとう……!」
誰に言ってるのかもわからない。
でも、言わずにはいられなかった。
俺は、見えるんだ。
やっと……世界を『見られる』ようになったんだ。
ひとしきり感動したあと、ようやく今の状況がつかめてきた。
どうやら俺が転生したのは、現代の日本ではないらしい。
中世ファンタジーのような……これは……異世界……?
そして、俺は赤子ではなく、14歳くらいの少年だった。
しばらくそうして、現在の状況を確認していると……。
一人のメイドが部屋に入ってきた。
「オージ様。お着換えの時間ですよ……」
ん……?
ちょっと待って、今……なんて呼ばれた……?
王子……?
いや、違うな……。
オージ……?
それって……。
「俺って、オージって名前なの……?」
「はい……そうですけど……。なにをおっしゃっているんです……? オージ様の名前は、オージ・グランファルムでしょう?」
「ああ、そっか……。そうだよな……俺の名前は、オージ・グランファルム……って……」
そこまで言って、自分で気づいた。
俺はその名前に、聞き覚えがあったのだ。
オージ・グランファルム――俺が好きだったライトノベルの、登場人物の名前だ。
それも、決して彼は主人公なんかじゃない。
彼は物語の中で、最悪の悪役として登場する……ラスボスキャラだ。
しかも、最後には主人公によって、めちゃくちゃ酷い殺されかたをするやられ役。
じゃあ、つまり俺ってこのままだと……。
「死ぬじゃん…………!!!! 最悪だ……!!!!」
俺は頭を抱えた。
「オージ様……!? 大丈夫ですか……!? さっきから様子がおかしいですけど、どうされたのですか……!?」
「いや……うん、ごめん、取り乱した。なんでもない……忘れて……」
「お、オージ様が『ごめん』だなんて……。オージ様に謝られたのは初めてです……。本当にどうされたのですか……!?」
ダメだ、普段のオージが傲慢不遜な人間すぎて、俺がなにを言っても驚かれてしまう……。
はぁ……これから先、どうやって生きていこうかな……。
とりあえず、主人公とは絶対に関わりたくないよな。
あと、悪役的なムーブをするのも避けたい。
とにかく、物語の本筋から外れて、ひっそりと生きていこう……。
そうじゃないと、俺……悪役として殺されてしまう。
ふと、メイドの顔を見る。
すると、ある違和感に気づいたのだ。
メイドの頭の上に、なにやら浮いている。
これは……いわゆる、ステータスってやつ……????
実際にこの目で見るのは初めてだけど、ゲームやラノベでよくあるやつだ……!
えーっと、どれどれ……。
俺はメイドの頭上に浮かんでいるステータスウィンドウに目を凝らした。
名前:カリヤ
年齢:17
性別:女
職業:メイド
基礎ステータス
攻撃:B
防御:B
魔法:E
身体:C
―才能―
メイド:F
冒険者:SSS
他にもいろいろ書いてあったけど、気になるのはこんな感じだ。
メイドの名前はカリヤっていうのか。
俺があまりにもカリヤの顔をじーっと凝視していたせいで、カリヤは顔を赤くして照れ始める。
「あ、あの……そんなに見つめられると……困ります……」
「ああ、ごめんごめん……」
「わ、私の顔に、なにかついていましたか?」
「いや、そうじゃなくて……これ……。なんか、ステータスみたいな……」
「す、すていたす……?」
「もしかしてこれ、見えてるの俺だけなのか……?」
「もう……今日のオージ様はわけがわかりません……。本当に大丈夫ですか……?」
カリヤは俺に熱があるとでも思ったのか、俺のおでこを触る。
けど、俺に熱なんかない。
まあ、いきなりこんなこと言い出したら、変に思われるのも当然か……。
ちょっと、オージの口調を真似して、普段のオージ風に振舞ってみるか……。
えーっと、声を低くして……。
「なんでもない。ちょっとお前をからかっただけだ。気にするな」
「い、いつものオージ様です……! よかったぁ……。びっくりしましたよ……」
なんとか誤魔化せたみたいだ。
カリヤは僕の着替えを手伝うと、そそくさと他の作業に戻っていった。
ていうか、それにしても……カリヤってドジっ子だな……。
俺の着替えを手伝ってくれたんだけど、ボタンが全然かけちがえてるし……。
ズボンは裏表逆だ……。
俺はあらためて、自力で着替え直す。
もしかしてカリヤって、全然メイドに向いてないんじゃないのか……?
そういえば、さっきの謎のステータス画面でも、メイドの才能はFになってたな……。
逆に、冒険者の才能はSSSになってた。
つまり、もしかして……カリヤってメイドよりも冒険者になったほうが幸せな人生を送れるのでは……?
ていうか、俺のこれ……もしかして、前世からあった『人の本質を見抜く能力』の延長なんじゃないだろうか……?
原作のオージに、こんな【鑑定眼】があるなんていう設定は、なかったはずだ。
だからこれは、俺自身のもともとの能力……?
今までは目があまり見えなかったから、なんとなくで本質をつかむだけだったけど……。
ここが異世界だからだろうか、今はステータスとなって、ちゃんと詳細な能力が見れるようになっている。
この能力……もしかしてけっこうすごい能力なんじゃ……?
カリヤにはステータスとかは見えてなかったようだし……。
俺にだけ他人の才能が見れるんなら、これを利用すれば、なにかとんでもないことができるかも。
それこそ、主人公に殺されるのを回避するのなんて、余裕なんじゃないかな?
主人公に出会うよりも前に、この能力を使って、いろいろ盤石にしておけば、負けることなんかないはずだ。
よし、そうだ。
この能力を使って、俺は世界を牛耳ろう……!
どうせ悪役として破滅する運命なら、いっそこの能力で、その運命を変えてやるんだ。
そうだ……!
この鑑定眼……他人のステータスだけじゃなくて、もしかしたら、自分自身の能力も見れるんじゃないか?
そうすれば、自分に合った職業や、成長方法がわかるはず……!
俺はまだ14歳くらいだし、今からこの鑑定眼を使って、才能のある分野を伸ばしていけば……。
主人公をも超える力を手にできるかもしれない。
さっそく、俺は鏡を見てみることにする。
オージ・グランファルム……こんな顔だったのか……。
めちゃくちゃ悪人顔だ……。
そりゃあ、悪役だし、しょうがないか……。
まあ、悪役顔だけど、かっこいいから、よし。
これ、意外とモテたりして……。
で、肝心のステータスは……どれどれ……。
物語でのオージの職業は、【剣士】だった。
オージはその中でも、最強クラスの剣士。
だからきっと、剣士の才能がずば抜けているはず……。
だが、結果は――――。
名前:オージ・グランファルム
年齢:14
性別:男
職業:剣士
基礎ステータス
攻撃:SS
防御:S
魔法:S
身体:SS
―才能―
剣士:F
奴隷商人:SSS
「はぁ…………!? 剣士F!? しかも……ど、奴隷商人…………!?」
なんと、オージには剣の才能がなく、逆に奴隷商人の才能はマックスのようだった。
い、意味がわかんない……。
オージって、最強の剣士なんじゃなかったっけ……!?
もしかして、オージの元の能力が高すぎて、向いてない剣士をやってても、あのくらい強くなれるってことなのか……?
だったら、才能のある奴隷商人に転職したら、いったいどうなるんだ……!?
ていうか、よりにもよって、才能があるのが、奴隷商人とは……。
ん……?
待てよ……?
この鑑定眼を使って、奴隷商人をやれば……もしかして、すごいことになるんじゃないか……?
「才能のある奴隷を見抜いて、育てていけば……きっと、とんでもない奴隷たちを作り出すことができる……!」
そうすれば、世界を裏から牛耳ることだって、可能だ……!
面白い……。
そうと決まれば、転職だ……!
この世界では、たしか原作の設定だと……転職の神殿に行けば、転職できたはず。
俺はすぐさま、転職の神殿に行き、剣士から奴隷商人に転職した。
よし、これでいい。
これから俺の……。
オージ・グランファルムとしての、新しい人生が、今始まった。
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