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濱崎柳の回顧




「やなちゃんやなちゃん」

「どうしたのみなちゃん?」

「しりとりしよ」

「いいよ」

「りんご」

「ゴリラ」


当時流行った曲をBGMにしながら、

バスは進んでいた。

臨海学校。

六年の修学旅行に向けての前座として、

小学校では毎年行われている行事。

それまでの温い遠足とは一線を画す、

本格的な小旅行の気分。

一週間前から荷物の支度をして、

遊び道具から話のネタまで入念に準備した。

自分で浮かれているのが

わかるほど楽しみにしていた。

そうあの時までは。


「整列!前ならえ!」


普段だらけていた集団行動も、

この時ばかりはやる気に溢れる。

先生の余計な注意で

気分を下げたくはなかったからだ。

各班に割り当てられた部屋に行き、

荷物を置いて再度集合。

ベッドメイキングと昼食を済ませ、いざ浜へ。

今思うと、私の空間とこの時の臨海学校の風景が、

本当によく似ていた。

そして数人の男子がチラチラと女子を

見ていたことも今、唐突に思い出した。

当時は海を前にして

全く気にも止めていなかっただろうけど。

先生とインストラクターの指示に従って、

私の班が入る番になった。

みなちゃんと同時に入る約束をしていたので、

手を繋いで入った。

初めての海は、ちょっと冷たかった。

夏の日差しに晒された体は、

涼しさよりも冷たさを煽ってきた。

一瞬でこんなもんか、と冷静になった記憶がある。

試しに舐めてみた海水は、酷くしょっぱかった。


「しょっぱ!」

「ほんとに?…しょっぱ〜」

「アハハ」


話半分だが指示は聞いていたので、

二人で着々とタスクをこなしていた。

といっても軽い潜水や立ち泳ぎの練習だが。

全てをこなして陸に上がった時、

結構寒かったのを覚えている。

夏なのに。

全ての班のレクチャーが終わると、

いよいよ自由時間。

若干冷めていた私も、

この時ばかりは少し興奮した。

先生に注意されながら勢いよく入水する男子たち。

それを横目に、

泳いでるふうにしてしゃべくりあってる女子たち。

よく見る構図でも、

皆一様にテンションが上がっていた。

私もみなちゃんと一緒に入って、

奥の方まで泳ぎに行った。

周りの空気に当てられて、

ただ浮いているだけでも笑っていた気がする。

そんな中、目に付いたものがあった。

奥の方で男子たちが固まっていた。

何をしているのかと近づいてみたら、

どうやらあれをいじっていた。

あの、あれ、

沖の方で浮いてる黄色い…そう、ブイ。

ブイの向こうに行ったり、

挙句それを繰り返しチキンレースをするなど、

悪逆の限りを尽くしていた。

本人たちもテンションが上がりすぎて

訳が分からなくなっていたのだろうと、

今にして思う。

育んできたそういう空気を潰す訳にはいかず、

見て見ぬふりをしている者多数。

他の生徒よりは冷静だった、

いやそういう風に賢ぶっていた私は、

注意しに行こうとした。


「やめようよやなちゃん…」


協調を保つことを何よりとしているみなちゃんは、

もちろん制止しようとした。

私との友情も天秤にかけているせいで、

やはり強く出られていなかったように思う。


「ちょっと!何してるの!」

「おう濱崎!お前もやらね?」

「誰がするのそんなの、危ないよ!

怒られるのは皆なんだからね!」

「ちぇ、ノリわりー」


そんな口論をしているときだった。

なんの前触れもなく唐突に、高波がきた。


「おわっぷ」


周囲にいた全員が飲み込まれた。

ただ全員がゴーグルを装着しており、

潜水の訓練をしていたおかげか

鼻に海水が入っても痛いくらいで済み、

パニックには陥らなかった。

問題は、ブイが移動していたことだ。


「お、おい!」


慌てて気づいた男子たちは、

急いでブイの内側に戻った。

冷静さを欠いていなかった私は、

落ち着いて着実に戻ろうとした。

行動に間違いは無いはずなのに、

そういう時に限って失敗はやってくる。


「!?」


海とか川とかの怪異でよくある、

長い手が足に巻き付く感覚。

あれがそのまま自分の身に起こった。

立ち泳ぎは足をよく使うので、

当然浮力は減少する。

まるで引きずり込まれるように。

やはり怪奇現象に遭遇すると、

人間誰でもパニックに陥るものなんですね。

間違って思い切り海水を吸ってしまって、

その刺激でまた空気を吐いてしまうと。

その時人生で初めて溺れるという状態になって、

正直これは死ぬなと思いましたね。

そう、思い出しました。

あとから聞いた話なんですが、

たまたま近くの岩礁に

打ち上がっていたみたいなんですよ、私。

臨海学校も当然中止になって、

救急車を呼んでの大騒ぎ。

みなちゃんが頑張って弁明してくれて、

男子たちも当然怒られて

私だけが嫌な目にあわずに済んだ。

それ以降私の小学校では、

臨海学校の自由時間が無くなったり、

林間学校になったりしたとか。





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