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矢面克己の回顧

※注意※

ご愛読ありがとうございます

今回年齢差が開いているギリギリな性描写を含みます

苦手な方は今回遠慮なく飛ばしてください




話終わると、神妙な雰囲気に包まれる。


「すいませんね、なんか…普通の話しちゃって」

「いや、トラウマの大半は死に直面した場面さ、

特別気に病む必要はない」


言われた通り相談はしたが、

多少心が軽くなったとはいえ

まだ拭いきれてはいない。


「で、だ。足を掴まれたんだっけ?」

「はい」

「もしかしてそれ…

海藻が足に絡まったんじゃない?」

「…へ?」

「いや、掴まれたという過去を真っ向から否定しよう

とか、侮辱しようとかも考えてはいない。

ただ、相談した上でトラウマを

過小評価するのがこの相談の意義なんだ」

「ははあ」

「だから、海藻に足が絡まったという

可能性も考慮してみて欲しい」


だからといって、

海藻が繁茂するような場所で泳ぐはずはないし…。


「あの、クラゲとかに刺されたんじゃ…?」

「おお、確かに」


ブイの外側に行ってしまったし、

大きな波もあったので、海藻よりは確かな話か。


「両方…ありそう」


克己が言うならそう思おう。


「それにもしかしたら、

幽霊も助けを求めていたかもしれないし」


なんでそっちの方向に戻すんですか縁さん。

やっぱりちょっと天然が

入っているんじゃないかこの人。


「さて…次は…」


流れ的に克己になるが、

なんだかモジモジしている。


「その…相談と言ったからには

誰かに話す必要はあるが、

何も全員に話す必要は無いんだ、

誰か指名してもいいんだ」


克己の空間を体験したからか、

かなり尊重している。


「なら…縁お姉ちゃん」


おうおういつの間に仲良くなって。


「そ、そっか。ならちょっと、

遠くの方に行ってくる」

「行ってきます」


二人はどこかへ行ってしまった。


「種子島さんはどうします?」


沈黙が気まずくなる前に切り出す。


「相談は…二人が戻ってきてからにしようかな」

「そうですね」



囚人とその関係者が面会をする部屋。

その密閉空間の、囚人側の部分に椅子を二つ置く。


「さあ…いつ話し始めてくれても構わない、

そして大体の察しはついているから、

最悪話さなくても大丈夫だ」

「うん…」


それでも矢面くんは話し始めてくれた。

濱崎くんの前例が大きかったのだろう。



正直なところ、時期はよく覚えていない。

半年以上前であることは確定しているが、

正確にいつ頃だったかを考えると

頭にもやがかかってしまう。

柳さんの話しぶりを見るに、

話していくうちに

思い出すこともあるのかもしれない。

先程言った時期に、僕は入院していた。

なんの病気だったかは分からない、

医者は僕よりもお母さんに向けて話していたし、

長かったので病名は聞き取れなかった。

お母さんが泣いていたことは覚えている。

お母さんを泣かせたからと、

勝手に医者を悪者扱いしたことも。

ともかくとして、入院生活が始まった。

体はいたって健康だったので、

よく走り回っていた。

院内では静かにするよう言われても、

とてつもなく暇だったので言うことを聞かなかった。

後でお母さんが病院に怒られていることも知らずに。

ある日のことだった。


「わっ!」

「きゃっ!」


ぶつかって派手に転んだ。


「病院を走ったらダメじゃない!」

「はーい」


お母さんよりも背が高くて、

顔がいい看護婦さんだった。

本能というか性格というか、

とにかくその人の注意はすぐに聞けた。

名前なんか今でも覚えていない。

覚えなくても年上の女性は、

大体お姉ちゃんで通りが良かったからだ。

その看護婦さんはいつも忙しそうにしていて、

小走りで移動しながら目が合うと挨拶をされた。

ほとんどこちらが言い終わる前に立ち去っていた。

なんの拍子かは分からないが、

とにかく面倒くさい検査を重ねた日があった。

その日から、絶対安静を言い渡された。

走り回りたいほどエネルギーが有り余っていたのに、

いつも数人の看護婦に部屋を監視されていた。

ただ見てくるだけの人もいて、

怖かったのを覚えている。

いつもの看護婦さんもいた。

彼女は他の年上の看護婦達に、

いつもペコペコしていた。

いつもの彼女に任せっきりで、

他の看護婦達はくっちゃべっていたりしていた。

夜も監視がついたのだが、

ここもいつもの看護婦さんの割合が多かった。

やがていつもの看護婦さんだけが監視について、

他の人は来なくなった。

監視している間も仕事している看護婦さんの前で、

子供のように振る舞うのが申し訳なくなってきた。

何日か連続で、スマホをいじるだけの

おばさん看護婦が来ることもあった。

声をかけても生返事ばかりだった。

声をかけてトイレに行ったのに、

病院内で探し回られたこともあった。

それ以来、

おばさん看護婦は監視につかなくなった。

しばらく監視体制が強化された後、

またいつもの看護婦さんだけになった。

どうやら仕事が減ったようで、

沢山お話することができた。

そう、その人の名前は真子さんだった。

覚える気がなくて

いつもお姉ちゃんと呼んでいたんだった。

今思い出した。

日を増す事に、

検査の機械や部屋の物が多くなっていった。

大きな手術をするらしい。

手術をして生きるか、

やらずに死ぬかの二択を医者に迫られた。

手術の成功確率は、お母さんの涙が物語っていた。

何もしなくて死ぬのならやって死んだ方がいいし、

早く学校に復帰したかった。

手術の日が決まった。

その日までお母さんが付きっきりでいてくれた。

真子さんもいてくれた。

前々日に、僕が好きなぶどうゼリーの、

もう一つ上のランクの果肉が入ったやつを

食べさせてくれた。

前日は何も食べてはいけないらしく、

すごくお腹が減ったのを覚えている。

手術直前の、

泣きながら手を丹念に握るお母さんと真子さんも。

手術は終わった。

ただ無事という訳ではなく、

経過を見て成功かどうか判断するらしい。

医者の好感触だったという曖昧な言葉に、

お母さんはすごく安心していた。

手術の痕が結構痛かった。

その愚痴を、真子さんはよく受け止めてくれた。

真子さんは最初に会った時と比べると、

元気になっている気がした。

よく笑っていたからそう考えたのかもしれない。

体を起こせない僕に変わって、

ご飯を食べさせてくれたり言葉遊びを教えてくれた。

お腹の抜糸も終わって、

快方に向かう僕を病院のみんなが喜んだ。

見たことない先生にまでおめでとうと言われた。

真子さんにも言われたが、

どこか他の人とは違う表情が見えた気がした。

ベッドから動けるようになって、

相変わらず部屋からは出られなかったけど、

真子さんとのトランプはとても楽しかった。

そういえばこんなことを言っていた気がする。


「克己くんのおかげで仕事がちょっと楽になったの」

「そうなの?どうして?」

「それはね…言っても難しいと思うんだけど」

「いいよ、適当に相槌するから」

「ふふふ、本当に小学生とは思えないこと言うね」

「へへへ」

「まあ半分愚痴だからそれでいいんだけど、

私を虐める人がいなくなったの」

「そうなの?」

「うん、嫌味なおばさんでね、

他の人の顔色を伺いながら立ち回ったり、

楽な仕事ばかりして私に仕事を押し付けてきたり、

なのに皆その人に媚びへつらって…」

「もしかして何日かここに来てた人?」

「そうそう」

「あの人やる気なかったよね」

「やっぱりそう思う?それお母さんにも言った?」

「うん」

「だからか…なるほどね、ありがとね」


感謝される言われはないように思ったが、

何も言わず黙って受け取っておいた。


「克己くんも大人しくしてくれたから、

私も楽できたし、早く帰ることもできたの」


確かに最近夜遅くや朝早くに起きた時、

見ることは減ってきていた。


「変なこと聞いていい?」

「いいよ」

「克己くんは、私の事好き?」


何が変なことか分からなかった。

これに関しては今も分からない。

だから、お母さんがよく言うやつで、

真子さんも何回か同じ質問をしてきたので

同じ答えを出した。


「うん!大好き!」

「そっ……か」


いつもと反応が違った。

もしかしたらどこかに

お世辞っぽさが滲み出ていたのかもしれない。


「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ!」


気のせいかと思うくらいにはその後何も無く、

回復は続いていた。

そして気のせいでないくらいには、真子さんと

接触を伴う遊びが増えていったような気がする。

退院の前日。

それ以前も付きっきりだった真子さんが、

トイレにも着いてくるようになった。

顔には寂しさが伺え、何も言う気になれなかった。

その日の夜。

そう、その日の夜だった。

真子さんはいつも帰る時間になっても、

構わず残り続けた。


「帰らなくていいの?」

「うん、今日はいいの」


部屋の電気を薄暗くして、

ベッドにもたれかかってこちらを覗いていた。


「…克己くんって、スマホ持ってる?」

「持ってない、中学までダメだってお母さんが」

「そっか…」


いつもと様子が違う。

勘づいていることを、あえて掘り下げてみた。


「退院すると、会えなくなっちゃうね」

「そうだね…」

「克己くんに会えなくなるのは寂しいよ…」

「何それ子供っぽ〜い」

「ん〜生意気〜」


体をこそばされる。


「キャハハ」

「ん…?」


股間に肘が当たったところで、

真子さんが固まった。


「硬くなってる…」

「本当だ」


偶になる、原因不明の症状。


「もしかして病気?」


治ったところなのに、また入院は気が滅入る。


「…診てみるね」


真子さんの、どこか神妙な面持ちが気になる。

ベッドから降り、ズボンとパンツを下ろされる。


「あーこれは……今ここで治した方がいいね」


嘘っぽい。

そう直感した。


「ベッド寝転んで」

「ん」


言われるがままに寝転んだ。

真子さんは徐ろにカーテンを閉めた。

廊下を確認していたようにも思う。

カーテンの中に入って、

真子さんはベッドの上に座った。


「克己くんは、私の事好き?」

「うん、好き」


反射的に答えた。


「そっ…………か」


そとかの間に、

どれ程の逡巡があったのかは定かではない。


「嫌だったら言ってね」


真子さんはおもむろに脱ぎ始めた。

なぜ脱ぐのか、その論理が分からない。

だが自分に注がれる熱の篭った視線に、

あてられるものがある。

恐怖に。

なんの儀式かと怯えている間に、

最後の一枚を脱ごうとしていた。

分からない、何も分からない。

そんな状況で目にしたのは、

人の体に生えた、もう一つの口。

恐怖で途端に泣いてしまった。

自分でも何で泣いたのか理由は分からない。


「あ、え、ご、ごめんなさい…」


後のことはよく覚えていない。

翌日の退院の見送りに真子さんはいなかった。

あの出来事を境に泣き癖がついてしまい、

お母さんに精神科を勧められるも

病院自体が怖くなってしまった。



「なるほど…」


大方の予想通りではあり、

最悪のケースではないことに安堵する。

だが最悪の一歩手前まで行ったのは事実。

矢面くんの空間とその怪異には

間違いなくそれらの出来事が反映されている。

ただなんというか、

本人を前にして思ってしまうのもしのびないが、

真子というナースに共感できないと言うと嘘になる。

自分なら、どうしただろうか。

計り知れないものを計るよりは、

矢面くんのケアに集中する方がいい。


「やっぱり怖かった?」

「うん」


大の大人にが急に脱ぎ始めたのだから、

それはそうだろう。

どう例えたものか。

海藻のように恐怖の対象を緩和させようにも、

ナース側に寄り添ってしまうと行為を

擁護してしまうことになる。


「事故とか事件は、世の中に沢山あるだろう?」

「うん」

「そういうのは、どれだけ未然に防ごうとしても、

運が悪いと当たってしまうんだ、

道端で犬のウンチ踏んづけるみたいに」

「うん」

「だからその…運が絡むとしてもやっぱり

防ぐ努力をするというか…

ある意味思い出させてくれるから収穫というか…」


自分でも何を言っているのか

分からなくなってきた。


「起こってしまったことは隠せないから、

学ぶってこと?」

「そう!その通り」


年上の威厳を失いかけるところだった。


「そして矢面くんが見たものは、

実は私も持っているものなんだ」

「そうなの?」

「学校で性教育の授業は習った?」

「わかんない、習ってないと思う」

「そっか」


脱出は最優先だが、

それをクリア出来る最低限の知識を

教えなければならないか。


「女性全般の、体の一部なのさ」

「柳お姉ちゃんも持ってる?」

「ああ、一瞬しか見なかったから、

きっと姿が曖昧になってしまっているんだろう」

「どんな形?」

「それは…」


どう言ったものかと、言い淀んでしまう。


「まずあのナースの顔が変わった時のアレ、

あれほどは大きくない」

「そうなんだ」

「あと歯とかは生えてない、隙間の中は安全だ」

「柔らかい?」

「柔らかい…と言えばそうだな、

口の中と同じくらいじゃないか?頬の内側とか」


言いながら、恥ずかしくなってきた。


「ふーん」


矢面くんは確認するように

自分の頬を舌でなぞった。

いまいち要領を得ていないのは表情でわかる。

小学校の時に習ったような習ってないような…

ええい埒が明かない。

確か教科書ではイラストではあったが、

実物が描いてあったはず。

今ここにそんなものはない。故に。


「直接見た方が早い」

「え?」




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