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変化の始まり
そんな歌う事に対する忌避感が薄れてきたある日
幼い日にその技術に打ちのめされた妹の歌を聴くことになります
シーン描写は以下
とある土曜日。
いつもより少しだけ早く帰宅した少女が、練習室の前を通った時——
中から歌声が聞こえた。
「あ、妹…」
通り過ぎるはずの足が、ふと止まる。
(……また上手くなってる)
その歌は、以前と変わらず綺麗だった。
けれど、足をすくませるような圧はなかった。
昔は、ただただ「すごい」と思うだけで、自分がそこに立つなんて考えられなかったのに——
(……あれ?)
気づけば、怖くない。
息苦しくもない。
妹が、手の届かない存在のように思えた幼い頃。
あの絶望的な差を感じていた頃とは、何かが違う。
歌い終わった妹が、こちらに向かってくる気配に、慌てて身を隠す。
廊下を歩いていく後ろ姿を、そっと見送った。
ふと、脳裏に浮かぶのは 少年の歌声。
その歌を思い出した瞬間、心がふっと軽くなる。
——ああ、私、あの歌の方が好きだ。