転生したのに‥ぜんぜん溺愛されませんの! なぜに?
異世界もの楽しいので二匹目のドジョウを狙います!
しかし恋愛ものは‥くっ、書けない。
名前を考えるのって面倒くさいし覚えるのも苦手なので
アイウエオからつけました。
これって異世界転生よね。
目をさますと知らない部屋にいるし、鏡を見ると知らない顔が映るし。
極めつけに、全く知らないアイラ・ウェイオーの記憶がある。
お貴族様のご令嬢で魔法学園に通っている、なんて記憶が次から次へとわいてくるのだ。
間違いない。
混乱はしたけど、この運命を受け入れるまでに時間はかからなかった。
まー向こうの世界で中年まで生きたのと、病気でままならない体をかかえていたのと、病弱ゆえに働くことがほとんどできなくて金銭面に不安があったので、そこまで悔いがなかったのだろう。
というか渡りに舟な運命に私はホクホクしていた。
だって異世界ですよ。
チート知識で金儲けガッパガッパも楽しみだけど、やっぱり前世で大して楽しめなかった恋愛ってのを謳歌したい。
逆ハーレムでウハウハなんて夢のまた夢ですから!
この世界を楽しむために、まずは家族構成を確認。
こーゆー場合、家族に溺愛されているか虐待されているかの二択ですから。
ウェイオー家は‥う~ん付き合いうっすいからネグレクト系かしら。
まあメイドがいるから世話はされているのよね。
兄弟は‥あ、義理の兄がいましたよ。イケメンの。
でもなー血がつながっていなくてもクソガキだった頃から一緒にいる人間に恋愛感情てどう持てば良いのでしょう。無理。
とりあえず義兄ルートは私には合わないのですぐ捨てる。
次は学園のアイドル。
そう言えばこの場所は学校の寮だから家族よりクラスメイトの方が重要事項なのよね。
まずは王子のカーク・ケキコナー様。
やっぱ王族は堅苦しい生活にあきあきしているから、庶民的な手作り料理を差し入れれば喜んでいただけるのではないかしら。
そうと決めれば部屋を飛び出す。
うっ! 体が軽い! この体、動くぞ!
元病弱人間にとってこれ以上のチートはないかもしれない。
『元』ひきこもり状態の人間だったからインドアの趣味は豊富。
学園の厨房に入らせてもらって、サンドイッチとクッキーを準備する。
持っていくのは生徒会室。
扉を開いたら学年主席のシッサス・セゾン様もいらっしゃって一石二鳥。
「生徒会のみなさまに差し入れですの、召し上がっていただけるかしら」
王子殿下とメガネイケメンだけにすすめてはあまりに魂胆が見え見えなので、みんなの分も作ってきたのだ。
「これはおいしそうだね。ありがたくいただくよ」
金髪王子にニッコリされて私のハートはホワホワしちゃう。
精神は肉体年齢にひっぱられるみたいで十代の少年が十分アリである。
前世では30以下には興味なかったけれど。
「ふむ、悪くない」
メガネイケメンも無表情ながら手が止まらないようで、満足そう。
これよこれ! わたくしのバラ色人生がスタートを切ったのね!
翌日の放課後は学園の別棟探索。
図書室とか音楽室とかイベントの宝庫な気がする。
音楽室に近づくと美しい弦楽器のメロディーが聞こえた。
教室をのぞくと、案の定カーク王子がチェロを演奏している。
「なんて素敵‥」
フラフラと音楽室に入ってしまう。
「何の御用でしょうか」
入り口付近で真面目そうな女生徒に止められてしまった。
「えっと‥チェロの演奏が素敵で」
「やあウェイオー嬢、君も入部希望かな?」
とまどう私に王子の方からお声がけが!
何これ超うれしいんですけど!
ルンルン気分でうなずこうとして、気がつく私。
(ん、入部したら楽器演奏するってことじゃん)
前世では某音楽教室に軽くトラウマを植え付けられた私が、音楽系の部活に入部などお笑い草。
「え~っとそう言えば用事がございましたの、オホホホごめんあそばせ」
脱兎のごとくその場を逃げ出してしまった。
(王子フラグは無理かも)
しかしまだ希望はいくらでもある。
次は図書室。
これなら前世でも読書好きだったのだし問題ないはず。
しかし図書室にはイケメンはいなかった。
「何をお探しですか?」
本棚の間をウロウロしていた私に声をかけてくれたのは図書委員の‥女の子。
とりあえず面白い小説はないかしら、なんて聞いてみたら博識の彼女は次から次へと本を紹介してくれて、それがまた面白くて話がはずむ。
気がついたら夕方になっていた。
(あれ? 恋人探すんじゃなかった? まー友達は確保できたからいっか。また明日だってあるんだし)
次の日はちゃんと作戦を練って行動する。
名付けて『見つけたイケメンの巣を探せ作戦!』
うむ、バカバカしいのは分かっている。
軽くストーカーなのも‥分かっている。反省はしている。
良心の呵責をかかえながらも美少年を見つけると後をつけている。
(今日だけ、今日だけだからゆるして!)
美少年が入った教室では何やら研究が行われていた。
「ごめんあそばせ、こちらでは何をなさっていますの?」
偶然通りかかったフリをして声をかける。
「あれぇ、君もしかして魔法研究部に興味ある?」
魔法の研究? 興味あるある!
よっしゃーここなら入部しても問題なし!
「僕はテット・ロチッタ。よろしくね~」
カワイイ系の彼は一つ年下だけど、魔法の知識量が半端なかった。
「ナズナモドキの量はこれくらいかしら」
「粉末ならもうちょっと、後3グラムは必要だね~」
お菓子作りにも凝る私だ。細かい調整で魔法薬を改良する作業にすっかりはまってしまった。
気がつけば動く体を良いことにフル活動で素材を集めては実験をくりかえしている。
テット君がいようがいまいが。
「素材の知識ならもう先輩の方が上ですよぉ。僕は学院入学前から勉強してたから覚えているだけなのに~。まさか一か月でこんなに集めて来るなんて‥」
後輩が若干引いているのはどうだっていい。
魔法研究室に行くのは一日おきだ。行くと暗くなるまで研究しちゃうから。
次の日は図書室で本の貸し借りをすませる。
今日はシッサス様をお見かけした。
シッサス様は魔法研究より王国史や政治学の本がお好きなようだ。
「初心者でも分かりやすい本ってありますか?」
私はこの世界の事をもっと知りたい。
「王国の成り立ちでしたらこちらですね。現代史ならこれ。法律ならこっちかな」
ふむふむ。今夜の供は君たちだね! 三冊ともお借上げ。
「シッサス様、お先に失礼しますね」
その後は学院裏の林で素材を採集の予定だからすぐ図書館を後にする。
メガネ君との関係は本を読み終わった後で深めればいいよね。多分。
寮の門限には帰れるようさっさか奥に進む。
ガサッと音がする。木の陰で何かが動いた。
(この森、大型の動物は出なかったんじゃ)
たらっと汗を垂らしながら音がした方を観察すると、そこにいたのは男の人
だった。
「あー良かった、熊とかじゃなくて」
思わす大声が出ちゃう。
「はァ? 熊なんて出るか」
学園の制服を着ているから学生だろう。
髪はボサボサだし、首元のボタンは外れているけど、顔立ちは整ってる。
(こ、これはオレ様系かちょい悪系ね♪)
彼は顔をしかめて木の根元に座りこんでいる。
「あー、実は足をくじいた。動けないから肩貸してくれ」
ほっほう! イケメンと密着イベントですな!
しかしその前に。
「ちょうど良く薬があるので使いますね」
そう、自分用に痛み止めを持って来てあるのだよ。
備えあれば憂いなしってね。
軟膏をぬってハンカチでしばる。
「スース―するな‥」
まんざらでもない様子でちょい悪君は私の肩につかまる。
きゃー♡
「わたくしアイラ・ウェイオーと申しますの」
「‥ニノ・ネルナール」
名前もバッチリ聞き出したぜ。
「‥助かった」
何とか医務室まで連れて行ったからお礼を言われる。
きっとここから良い感じになるのよね?
「あんたの薬、効くな」
「ええ自信作ですの」
「手作り、なのか?」
うなずく私にニノ君は瞳をまっすぐ見つめながら甘くささやく。
「売れるぞ‥」
そっちかーい!
「えっと、わたくしが作った薬を売ってみないかって誘われたのですが」
二ノ君の提案をとりあえず後輩君とメガネ君に相談したら、手放しで賛成してくれる。
「先輩の薬なら間違いないですよ」
「学生が作った商品を売り出す場合、申請書が必要です。この見本を参考にしてそろえれば許可が下りるかと」
学園から許可が下りたからニノ君の知り合いの薬屋に卸してみる。
ちなみに彼は薬草を薬屋に売りつけていたらしい。無許可で。
ちなみに私の軟膏は売り切れた。
どうやら魔法薬は高級品で、私の薬はちょうど庶民でも買える品質なのだとか。
ガッパガッパ‥ではないけれど、懐がポカポカするくらいは儲かった。
生徒会や魔法研究部や読書仲間が宣伝してくれたことも大きいんだろうな。
みんなにお礼のため、今日も厨房でクッキーを作る。
「あなたのお菓子中々ね」
最近は王子殿下の婚約者のヘプバン嬢にもほめられちゃった♪
「別に‥部員じゃなくても演奏聞きに来てもいいんだからね」
以前会った音楽部のメルモさんとはたまたま授業で再開したら仲良くなれたし
「もーアイラさん、もっと本について語りあいましょうよ」
図書室のユリヤちゃんとはめちゃくちゃ親交を深めている。
男女問わないグループで町に遊びに行ったりテスト前の勉強会を開いたり。
たくさんの友情に囲まれれば学業も部活もより一層充実するよね。
「う~~ん、これが青春ってやつね! 」
私は今、最高に幸せな日々を謳歌しているのだ!
何か‥大切なことを忘れている気はしたけど。
以前、乙女ゲームを購入しプレイしてみたのですが、ルールを
今一つ理解していなくて、誰も落とせずに終わりました。
自分にはゲームでさえ無理でしたが、
アイラなら‥きっと、おそらく、卒業後には良いご縁があるはず。