88色 黄瀬屋敷へようこそ メイド編
「わぁーかわいいー♪」
メイド服に着替えたわたしはくるりと回りスカートをなびかせる。
「あかりん似合ってるよ」
「ありがとう! リーンもフラウムも似合ってるよ」
「ありがとうございます。 いつもお世話になってるメイドの気持ちになれた気がしますわ」
「フウちゃんのしゃべり方は上品だから尚更似合ってるね」
「遅かったじゃないか、メイド足るもの速やかな行動が大事だと思うけどね」
自分達のメイド姿で盛り上がっていたらレータが腰に手を当てながらいってくる。
「まったく、相変わらずメガネは女子の会話に土足で入ってきますわね」
「ふん、脳筋な君がメイド服なんていう華やかなものを着こなせるとも思えないけどね」
レータは執事服姿でメガネをクイッとやる。わたしはなかなか似合ってると思った。
「……ほう、相当メガネに風穴を空けたい様ですわね」
フラウムはレータにズシズシと向かって行くけど、リーンに止められる。
「フウちゃんダメだよ! いつもみたいに蹴ったら、スカートの中見えちゃうよ!」
「大丈夫ですわ。 メイド服の下は見えてもいいモノになってますから」
「まったく、見せる前提とはとんだハレンチメイドだね」
「フウちゃん、はいこれ」
「ありがとうございます」
リーンはモップを渡し、フラウムはそれを受け取る。
「おい、キミは今からそれで何をする気だい?」
「お掃除ですわ」
ホウキを持って笑顔で向かってくるフラウムにレータは焦る。 シアンはその光景を近くでまったくの無関心でみていた。
「シアンも似合ってるよ!かっこいいね!」
「……ん、ありがと、アカリも似合ってる」
シアンはすこし照れくさそうにしていたけど、すぐに何事もなかったような顔をする。
「あれ? そういえばクロロンは?」
わたしはふとクロロンがいないことに気がつき周りをみる。
「……あそこ」
「え?」
シアンが指をさした方をみると、誰かが窓際のカーテンに隠れていた。
「あれ? なんで隠れてるのクロロン?」
わたしが膨れあがってるカーテンに声をかけるとビクリと揺れた。
「あ……それは」
レータとシアンは隠れている理由を知っているようだ。
「どうしたの? クウくん出てきなよ、クウくんの執事姿見せてー」
「緑風さん恥ずかしいのですか? 誰も笑いませんので大丈夫ですわ」
リーンとフラウムも気づいて近づいてきた。
「……ほんとうに笑わない?」
気弱な声がカーテンの中から聞こえてきた。
「うん、ここにいる誰もクロロンを笑わないよ」
わたしが元気にいうと「……うん、わかった」と弱々しく声がしてクロロンが姿を現した。
「!?」
わたしとフラウムとリーンは姿を現したクロロンをみて固まる。
「や、やっぱり……変…だよね」
わたしたちの反応を見たクロロンは落ち込んでしまう。
「キャアアアカワイイー!!」
「え!?」
いや、むしろ逆だ。
クロロンはまさかの『メイド服』で姿を現したのだ。 すごい恥ずかしいそうにしながら。
「キャアアアキャアアアーーー!!」
リーンに至っては叫び散らしている。 しかも、クロロンの姿を確認してすぐ息をするようにカメラを取り出して連写していた。
「~~~!!!」
フラウムはクロロンのあまりのかわいさに口を押さえて震えていた。
「誠に勝手ながらお嬢様がお喜びになると判断し、緑風様には特別にメイド服を用意しました」
「ナイス!!!!!」
イブキくんが説明するとフラウムは全力のグッドポーズをする。
「いいですなー! いいですなー! 恥じらってる姿も誠にいいですなー!!!」
リーンはクロロンの周りを這いずり回るかの如く回りながら写真を連写している。
「……うぅぅ」
クロロンは相当恥ずかしいのか子犬のような弱い鳴き声をだす。
「ハヅキさん、とりあえずその辺にしておきましょうか」
フラウムは恥ずかしさが限界突破しているクロロンをみてリーンを止める。
「フウちゃんこの写真ほしい」
「ほしいですわ」
フラウムは即答する。
「よかったら僕にも譲ってくれないかい?」
「なに? メガネくん? ただではあげないよ?」
「分かっているさ」
そういうとレータは胸ポケットから携帯を取り出すととある画像を見せる。
「君達が来る前のクウタの写真さ」
「…………」
それを確認したリーンは無言でレータとガッシリと握手をする。
「盗撮かな?」
「クウタそんなに恥ずかしがることはないさ。 かなり似合ってるよ誇りたまえ」
「そんなこといわれても……は、はずかしいよ」
レータはフォローするけど、クロロンは未だに恥ずかしがったままだった。
「仕方ないね。 なあ、クウタ、この前うちのお店がこんな本を発注していたんだ。 これがなにか分かるかい」
「! そ、それは!」
レータがカバンから出したモノをみたクロロンは目を輝かせる。
「『仮面戦士ディテクティブ~装備大全集!』だよね!」
「そうさ、親にお願いして一冊譲ってもらったのさ」
「す、すごい! 最近、仮面戦士ディテクティブを評価する動きがあって、なかなか手に入らないってオニーが言ってたよ!」
「特別に譲ってあげようかい」
「いいの!?」
レータの言葉にクロロンは期待のこもった声で聞く。
「じゃあ、僕のお願いをひとつだけ聞いてくれたらあげるよ」
「え? なにかな?」
「『メイドになりきる』んだ」
「かしこまりましたご主人様!」
「!?」
レータがいうのと同時にクロロンのキャラが一気に変わった。 それをみたわたしたちは突然のことに驚く。 お願いをしたレータすらも驚愕していた。
「どうかなさいましたか? ご主人様?」
「い、いや、何でもない続けたまえ」
思った以上になりきるクロロンに驚きながらレータは気を取り直していう。
「そうだね。 紅茶でも淹れてくれるかい」
「はい、かしこまりましたご主人様!」
クロロンはせっせっと紅茶を淹れる。 そのレータの様子をみていたフラウム、リーン、シアンはすごい引いた顔でレータをみていた。
「お待たせしました。 ご主人様」
「ああ、ありがとう」
「あ、少しお待ちください」
「?」
「申し訳ありません、大事なことを忘れていました」
「大事な事?」
「はい、美味しくなる呪文です」
「え? 呪文?」
「はい、これをやればご主人様は元気になります」
「はあ?」
「では、誠に勝手ながら失礼します」
クロロンは手でハートマークをつくると呪文を口にする。
「『もえもえ~きゅんきゅ~ん』」
「ぐあはぁ!!!」
その呪文を口にした瞬間、フラウムとリーンは鼻血を吹き出しながら倒れる。 シアンも顔を反らして震えていた。 そして、間近で直接攻撃を受けたレータはあまりの衝撃に意識が飛んでいるようだった。 かくいうわたしもクロロンのあまりのかわいさにニヤけてしまっている。
「ご主人様? どうかなさったのですか?」
意識が飛んで固まっているレータをみたクロロンは首を傾げながらいうとレータはハッと意識を戻す。
「いや、何でもないいただくとするよ」
レータはマグカップを手に取り紅茶を口にする。
「まあ、美味しいよ」
「ありがとうございます!」
「また、淹れてくれるかい?」
「はい! かしこまりました! 略して『かしこまっ☆』!」
クロロンは左手でピースサインをつくり左目に近づけるポーズを取り右目でウインクをする。
「うぐはぁ!!!」
それをみたフラウムとリーンは膝から崩れ落ちて手を床につき震える。 レータは手を滑らせてマグカップを落としてスーツに紅茶をこぼしてしまった。
「うわあ!? しまった!!」
「大丈夫ですか!? ご主人様!?」
クロロンは慌ててレータの服にこぼれた紅茶を拭き取る。
「大変に申し訳ありません!! ご主人様の大切なお体にお紅茶が! お怪我はありませんか!?」
「いや、すまない。 自分でやったことさ、気にしないでくれ」
「そんな! ご主人様に謝らせてしまうなんてなんて失態! 本当に申し訳ありません!!!」
クロロンは何度もレータに頭を下げる。
「クウタ、本当に気にしないでくれ」
「そうもいきません! この失態謝っても償い切れません! せめて、ぼくのカラダで払ってでも償います!」
「!?」
そういうとクロロンはスカートに手をかける。 それをみたリーンは慌ててクロロンを止めてレータから放し、フラウムはレータの顎に蹴りをいれた。
「ぐへぇ!?」
蹴りを入れられたレータはキレイな半円を描きながら宙を舞い、そのまま地面に転がる。
「ご主人様!?」
地面に転がったレータをみてなにが起こったのか分からずクロロンは驚く。
「このクソメガネ! なんてことをさせようとしてるんですの!?」
「メガネくんサイテー!!」
「……い、いや……今のは僕は悪くないだろう」
「そうです! ご主人様は悪くありません! 悪いのは、ぼくでご主人様にすべてを捧げる一心です!」
その言葉を聞いた二人はレータを鬼の形相で睨み付ける。
「クウタ! これ以上何もいわなくてもいいぞ! このままじゃ僕の身が危ない!」
「申し訳ありません! ご主人様に迷惑をかけてしまうなんて! せめてもの償いにぼくのすべてを……」
「僕が悪かった! 図鑑あげるからもうやめてくれー!!」
だんだんノリノリになっているクロロンをレータは泣き言の様になりながら止めた。
「D・T・V♪ このま~ち~のたんて~い~♪ いらいうけ~て♪」
報酬の本をもらったクロロンはご機嫌に歌いながら本を読む。
「ねぇ、クロロン」
「なにかな?」
「えいっ」
「え?」
クロロンが驚くのと同時にパシャッという音がなる。
「え? いろのさん?」
驚くクロロンをよそに今撮ったモノを確認する。
「うん♪ よく撮れてるよ、ほら!」
「い、いろのさんまで!?」
写真を撮られたことに気がついたクロロンはまた恥ずかしがる。
「あはは、ごめんね。 この笑顔を残しておきたくて」
「?」
「クロロンすごく楽しそうだったから、当たり前かもしれないけど、今しか出せない思い出を残しておきたかったんだ」
「ありがとう」
わたしの言葉を聞いたクロロンはそう一言いうと、かわいい笑顔をわたしに向ける。
「ああー!! あかりんずるい!! クウくんわたしともツーショット撮ろうよ」
「はーちゃんたくさん盗撮したでしょ?」




