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84色 鏡の中では……

 その後のことは全く覚えていない。 いつ泣き終わったのか、いつ寝たのか、どうやって帰ってきたのかすら、なにも覚えていなかった。


 わたしが自分の意識を取り戻したのは、それから3日後の朝のことだった。 いつの間にか時間が過ぎていて。 一体、あの後なにがあったのかすら認識できていない。


 布団からカラダを起こして時計を確認すると、朝の4時過ぎを指している。 布団から離れ部屋を出ると、脱衣所に向かい軽くシャワーを浴び、お湯の入った浴槽にカラダを沈める。


 ブクブク……ブク……


 温かいお湯に気泡を作っていると冷めていたカラダが温まっていく。


 あの彼の手の冷たさを右手に感じながら。


 バシャーン!!  


 勢いよくお湯の中から顔をだすと水面が激しく揺れて浴槽からお湯がこぼれる。


 お風呂からあがり、髪を乾かし、身嗜みを整えると自分の、(正しくはジーニの)研究室に行き紅茶を淹れて一息つく。


「………………」


 紅茶に映る自分の顔をみつめながら、ただただ時間が過ぎていく。


「飲まないのか? 冷めるぞ」

「!?」


わたしが顔をむけると、ジーニが立っていた。


「一杯もらうぞ」


 わたしの返事を待たずにジーニはマグカップに紅茶を注ぐ。


「早いじゃないか、眠れなかったのか」


 椅子に座り一口飲むとジーニは聞いてくる。


「いや、ただ単に目が覚めただけさ、おかげさまで快眠だよ」

「そうか、なら、よかった」

「キミこそ早いじゃないか」

「わたしも目が覚めただけさ」

「そう」


 数回会話を交わした後、わたしたちは無言で紅茶を飲む。


「……ひとつ、おねがいしてもいいか?」

「?」


 突然、ジーニが話をふってくる。 わたしはなにもいわずにジーニの次の言葉を待つ。


「そっちのクウタはお前が見守ってやってくれ」


 ジーニはそう一言だけいうと、また、無言になる。


「いわれなくても」


 わたしも一言だけ返すとジーニは口元を少しだけ上げて笑い。 マグカップを机におく。


「前にもいったよな、オカルト染みた話になるが、やり直したい過去があって強く願うと『過去に戻れた』っていう話があるって」

「?」


 ジーニが話をはじめわたしは静かに耳をかす。


「そんな上手い話があれば、今回も過去に戻ってクウタを救えたかもしれないな」


 ジーニは悔しさと哀しさが混ざったような言い方で話を続ける。


「一体、どこで『分岐』してしまったんだろうな」


 ジーニは席から立ちあがり、研究台の上に置いてあった写真立てを手に取り、中の写真をみつめる。


 その写真の中身は少しだけ違ったけど、わたしの持っている写真と酷似したものだった。 ミズキ、クウタくん、そして、はーちゃんの映った写真。


 この世界では、この三人が再開することは叶わなかった……。


「『『最後』にそれが聞けてよかった』」 

「え?」

「クウタくんの最後の言葉だよ」


 驚く顔をするジーニにわたしは続ける。


「多分だけど、わたしがこの世界にきたのは、それを『伝える為』だったのかもしれないね」

「…………」

「過去に戻るなんていう都合のいいことは起こらなかった。 けど、わたしが……あったかもしれない、いや、存在している『世界線の話』をしてクウタくんは最後にちょっとだけ救われたのかもしれない」

「……そんなこと言い切れるのか」


 ジーニは写真から目を離さずにいう。


「わたしのただの願望かもしれない……だけど、これだけはいえる、あの『笑顔』は『本物』だった」


 クウタくんの最後の『笑顔』を思い出す。


 結局、わたしは、この世界でも『自分の世界』でも彼を救うことが『できなかった』。 わたしの世界では、アカリに出会ったことでクウタくんの心は救われたけど、もし、出会えなかったら、『同じ結末を迎えたかもしれない』。


 自分の無力感に押しつぶされそうになりながらも、…………でも、それでも…………わたしの今、すべきことは……。


 わたしは淹れた紅茶を飲み干すと静かにマグカップを置き、立ち上がる。


「さて、そろそろ『戻ろう』かな」


 わたしは『笑顔』でいう。 無理やりだしたものではなく『心からの笑顔』。 彼の思いを乗せて。 わたしの今、すべきことは、『わたしの世界に戻る』ことだ。 その瞬間、研究台に置いてあった魔石の埋め込まれた手鏡が光りだす。


「フッ……わたしそうか、世話になったな」


 ジーニは笑顔を返してくれる。


「だが、挨拶もなしとは少し失礼じゃないか?」

「?」


 ジーニの言葉に続くように研究所のドアから三人が姿をみせる。


「マコト、ピンコ、ミズキ!」


 わたしは少し驚いて三人を呼ぶ。


「否、我が名は『ピーチマウンテン・サクラガール』、又の名を『桜子』、コードネーム『ピンコ』」


 ピンコは名乗りの口上を云い終えるけど、驚いた顔をする。 なぜなら久しぶりに全部いわせてもらえたからだ。


「わたしの世界のキミとは全然喋り方は違うけど、この世界でもキミはわたしの『親友』でいてくれてありがとう」

「愚問、貴殿と我は異世界でも心から繋がる『魂の親友ソウルフレンド』決して切れることのない絆の手綱」


 次にわたしはマコトをみる。


「いろいろ世話になったな、それと迷惑をかけた」

「まあね、だけど、わたしはキミに出会えてよかったって思ってるよ」

「!?」

「まあ、わたしの世界のキミにはなかなかいえないけど、なぜかキミにならいえるね」

「そうか、なら、そっちの俺にもいつかいえるようになれよ」

「あはは……そこは、がんばるよ」


 苦笑いして返し、ミズキの方をみる。


「ミズキ、ごめんね」


 わたしはクウタくんに会わせてあげられなかったことを謝る。


「ううん、いいよ」

「え?」


 ミズキは哀しい顔をしていたけど、笑顔を向けてくれる。


「正直、人生の中で一番『絶望』したかもしれない、だけど、このままじゃダメなんだ……クウタの分まで、がんばって生きて、クウタの分まで笑って、クウタの分まで歩いて行くよ!」


 ミズキは意志の籠った強い眼でいう。


「うん、きっとミズキならできるよ。 だって、キミはわたしの自慢の『弟』だからね」


 わたしが笑顔でいうと、ミズキも笑顔で返してくれる。


 そして、最後にジーニに向き直る。わたしたちは静かに互いの前に立つと握手を交わす。


「もう泣くんじゃないぞ」

「キミこそね」


 最後に互いに強く握ると手を放す。


「じゃあね」

「ああ、達者でな」

「有意義なときであった」

「元気でね」

「じゃあな」


 わたしは鏡に触れる。すると、鏡は眩い光を放ち、わたしを包んでいく。最後にみんなの笑顔を眼に焼き付けながら、わたしの意識は遠くなっていった。




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