77色 鏡の中はあべこべ?
「……う……ん……?」
目を覚ましたわたしは目がチカチカする感覚に襲われながらもカラダを起こす。
「つめた……」
あのまま床で寝てしまっていたようだ。 冷たい床から離れ立ち上がる。
「なんでわたし床で寝てたんだっけ?」
なぜ自分が床で倒れていたのかをクラクラする頭を押さえながら思い出す。
「あ!? そうだ! 『鏡』!」
わたしは慌てて魔道具が置いてある机に駆け寄る。
「あれ?」
いつもの様に研究台に駆け寄ったはずなのに、その場にはなぜかいつも紅茶などを飲んでいる机があった。 そして、振り返ると、少し離れた場所に魔道具台があった。
「!? ……もしかして!」
わたしは異変に気が付いて周りを見回す。 すると、わたしの考えが間違っていないことに気がつく。
「……『逆』だ」
わたしが起きてからすぐに感じた違和感の正体、それは『景色が逆』になっていた。
「え? どういうこと? とりあえず、落ち着かないと……」
パンクしそうな頭を落ち着かせる為に、わたしは一旦眼を閉じる。
(あの時意識を失って目が覚めたら周りの景色が逆ってことは……)
「まさか……」
「あれ、ねえじゃん起きてたんだ」
結論に至ろうとした瞬間に声をかけられる。 わたしは確認しなくてもその声が誰なのかを認識できた。
「あ! ミズキ……」
その声の主の名前を呼ぼうとしてわたしは固まってしまう。
「よお、おはよう」
「…………」
「どうした?」
わたしはその人物を見て固まったままなにも言えなかった。
「大丈夫か? なんか体調でも悪いのか?」
彼はなにも言わないわたしを心配して近づいてくる。
その人物……恐らく、弟のミズキのはずなんだけど、すごい『違和感』があった。 それは、めちゃくちゃ『爽やか』だったのだ。
「おーい、ねえ」
いや、我が弟はかっこいいけど、いつもはぼーっとしてて眠たそうな顔をしているし口数も少ないのだ。 それがなぜか、眠たそうな眼をしてなくてめちゃくちゃ爽やかなのだ!
「きょーもきれーだぞー」
「ありがとう」
全く反応がないわたしにうれしいことをいってくれたので、とりあえずお礼をいっておく。
いや! そんなことより! どういうこと!
わたしは更にパンクしそうな頭をどうにか静めたくて眼を閉じる。
「熱でもあるのか?」
それをみたミズキはわたしの額に手を当てる。
(にゅぬおおおぉぉぉ!?)
「にゅぬおおおぉぉぉ!?」
突然のことにわたしは頭の中で発狂するのと同時に声を出してしまう。
「うわぁ!? どうした? 本当に大丈夫か?」
奇声を発したわたしをミズキは本気で心配する。
「あ! ごめんごめん考え事してて! ちょっと、頭を冷やす為に外の空気吸ってくるよ!」
わたしは捲し立てる様にいうと急いで家を飛び出した。
◆ ◆ ◆
「どうしたんだ?」
なんか様子のおかしいねえを見送ると、とりあえず朝ごはんでも食べようと考える。
……なんかいつもと『違った』ような?
「いや、気のせいか」
「どうした?ミズキ」
なんて自己完結をして部屋を後にしようとすると後ろから声をかけられる。
「!?」
その聞き覚えのある声に驚愕しながら振り返る。
「ええええええ!?」
反射的に振り返った先にいた人物に衝撃を受けて驚きの声をあげた。
◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ!」
無我夢中で走ったはいいものの、落ち着くどころか息を切らしてしまう。 そりゃそうだ、走ったんだもん。 当たり前のことを心の中でツッコミながらわたしはもう一度周りを確認する。
「やっぱり『逆』だ」
しかも、いつも通りの道をきたつもりがまったくの『逆方向に走っていた』ようだ。
とりあえずほっぺでもつねるか。
「いでで!」
帰ってきたのは、ほっぺの痛みだけだった。 そして、自分でつねっておいてヒリヒリした痛みにむなしさを感じる。
「とりあえず、今は少しでも情報を手にいれないと」
闇雲に動いてもダメだ、まずは『知り合い』をみつけよう。
わたしはそう決めてもう一度周りを確認すると、ちょうど緑のパーカーをきた髪がくるくるの後ろ姿をみつけた。
「あ! あれって!」
身に覚えのある後ろ姿に声をかけようとした瞬間、違和感に気づいた。
「…………え?」
わたしのみつけた彼は、いつもの緑のパーカー姿だけど、そのパーカーがボロボロでしかも体中傷だらけにみえたのだ。
「『クウタくん』!?」
「…………」
わたしは困惑を隠せずにクウタくんらしき人に声をかけると彼は振り返る。
振り返った彼をみたわたしは戦慄した。
間違えなく彼はわたしのよく知る『緑川空太』くんのはずだった。 だけど、わたしの今、目の前にいる彼は明らかになにかが違った。
なにが違うかはハッキリとわかる、クウタくんはいつも笑顔で純粋なキラキラした眼をしていた。 しかし、目の前にいる彼は笑顔ひとつなく眼にハイライトが一切なかったのだ。
「クウタくん……?」
わたしは恐る恐る彼に話かける。
「なんだよ」
「!?」
彼から飛び出した言葉にわたしは驚愕した。 彼はすごい威圧的にそう一言いう。 わたしの知っているクウタくんはそんな態度は取らないし、そんな言い方はしない。 今、わたしの目の前にいるクウタくんは本当にクウタくんなのか?
「クウタくんその怪我どうしたの?」
とりあえず素朴な質問をする。
「あんたに関係あるのか?」
「関係あるよ! そんな姿をみたら誰だって、それにゆうちゃんもきっと心配するよ!」
「!?」
わたしの言葉にクウタくんは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに怒りの形相を向ける。
「おい……てめえふざけてるのか?」
「え?」
「しってていってるんだよな? しらねぇ訳ねぇよな!?」
「どうしたの? クウタくん」
「おれの前でその『名前』をだすんじゃねぇ!!!」
クウタくんは怒りの魔力を放出する。 その凄まじい魔力にわたしは身震い足が震える。
「……ひっ!」
彼から向けられた眼にわたしは恐怖で声が漏れてしまう。 それはまるで、殺意というには生ぬるい程、深くて真っ黒いモノだった。
「…………!」
しかし、わたしの様子をみたクウタくんは魔力を抑えた。
「あんただれだ? ミズキの姉貴じゃねぇのか?」
「……あっ、えっと……それは」
魔力の余波で息が切れてしまい上手く言葉がだせない。
「まあいい……あんたがだれなのかなんておれには関係ねぇ」
そう一言いうと、クウタくんはわたしにまた背を向けて去って行った。
わたしは唖然としたまま彼の後ろ姿をみていることしかできなかった。
「どうなってるんだ……」
落ち着こうとすればするほど訳の分からないことが続く。 クウタくんがあんな乱暴に魔力を放出するなんて……。
「はあ……はあ……」
胸を抑え、震えるカラダを落ち着かせる為に呼吸を整える。
「ふぅ……」
わたしは深く深呼吸をしてパニックになりそうなのを抑える。
「アオイ! 大丈夫か!?」
「!?」
後ろから声をかけられ振り返ると、顔の整った黒髪の青年がいた。 わたしはその青年にとても身に覚えがあったけど、やはりなにかが違った。
「……マコト」
わたしは元気なく彼に返すと、彼は心配そうにいう。
「大丈夫か? 凄まじい魔力を感じて駆けつけてみたら、お前が立っていたんだが、何かあったのか?」
マコトらしき人物はわたしの顔を伺いながら聞く。
「はは……いろいろありすぎて倒れそうだよ」
「何だって!? それなら早く横になれる場所に連れてってやる! 俺の背中に乗れ!」
マコトらしき人はマコトなら絶対言わない台詞をいう。 それをみたわたしは更に体調が悪くなる。
「さっきより顔色が悪いぞ! 大丈夫か!?」
「その凄いイケメンオーラ出しながらいうのやめて……なんだかすごい気持ち悪いよ」
善意でいってくれているのは分かっている。 だけど、普段の彼なら鼻で笑い悪態をついてくるはずだ。 普段よりよっぽどいいはずなのになぜか『哀しく』なる。
「本当に大丈夫か? それにいつもと少し違うような……」
「異世界の訪問者、即ち迷い猫」
なにかおかしいと思いはじめたマコトの言葉を遮り、後ろから声がする。 振り返るとまたも身に覚えのある人物だったけどやっぱり違う。
「異世界? なにをいっている? 桃山」
「否、我が名は『ピーチマウンテン・サクラガール』又の名を『桜子』コードネーム『ピンコ』」
「……なに、いってるの? ピンコ」
これまた強烈な奴が出てきてしまった……。
謎の言葉をいっている彼女はわたしの親友の中でも比較的まともで話の通じる人のはずなのに、片目に眼帯を着けていて両腕に包帯を巻いていた。
「異世界即ち、平行世界パラレル」
一番めんど臭そう!!
マジか……一番信頼できそうな人が一番めんど臭い感じになってるよ! …………あれ? 今めちゃくちゃ重要そうなこと言わなかった?
「ピンコ! もしかしてなにか知ってる!?」
「我をコードネームで呼ぶか訪問者の『ジーニ』よ」
「え? 『ジーニ』? 『シーニ』じゃなくて?」
『ジーニ』ってもしかして、わたしのこと?
「成程、貴殿のコードネームは『シーニ』と申すか」
あれ? 意外と話通じてる?
「おい、どういうことだ? 桃山」
「否、我が名は『ピーチマウンテン・サクラガール』又の名を……」
「それは分かったから、なにか知ってるなら教えてピンコ!」
わたしが遮るとピンコは哀しそうな顔をする。
「世界の中心、話の中心、回答せざるべからず」
「うん、教えて!」
「え? 会話できてるのか?」
「しかし、答え合わせにはまだ早い」
「え? なんで?」
聞き返すと、ピンコはわたしの後ろを指差す。
「話の根幹、貴殿はそれを把握すべし」
「え?」
わたしは指さされた方に振り返ると、目の前に飛び込んできた人物をみて言葉を失う。 隣にいたマコトも驚愕の顔をしていた。
「なるほど、なかなか面白いことが起こってるじゃないか」
その声を聞いたわたしは更に戦慄する。
その声つまり『わたし自身の声』だからだ。 それにわたしの今目の前に立つ人物それもまた『わたし』だった。
そして、完璧に頭がパンクしたわたしの意識は電源を切ったかの様にプツンと途切れた。




