癒やしの女神は推し活に忙しい〜幼馴染二人の溺愛は解釈違いです〜
主人公は腐女子です。
苦手な方はお戻りください。
連載版を加筆修正中です。
評価がついたら調子乗って連載しようと思います。
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私の幼なじみはこの世の全てを賜ったかのような特別な人達だった。
彼等はいつも注目の的であった。
この魔術師が絶対的な力を誇る皇国で30人もいない『勲章』持ちのエリ―トなのだから。
魔術学校では五本指に入る大魔法使い。
それが私の幼馴染達なのだ。
運良く学生時代に彼等に声をかけられたときなど目が飛び出るほど驚いた。
何故彼等は私の隣にあることを選んだのだろうか。
私?
凡の凡を凡で煮詰めて、凡人に仕上がったキングオブ凡。
顔もたぶん普通。
スタイルも普通。
家柄は下の下。
家系魔術はあってないようなものだから。脳筋に仕上げ、回復魔術を極め癒者と医者の知識を蓄えた。
私に唯一誇れるものがあるならば、それは私の幼なじみである。
そして勲章だろうか。
そのお陰で私は名門校エルグランドの保健の先生として、二人の側で働けているのだから。
『魔法学校エルグランド』
我が皇国の国立魔法学校である。
首都エルグランドの名を冠したエリートが集う名門校だ。
私の青春であり、私の存在意義がある場所。
大事なヒトと過ごしたい力というのは偉大だ。
力が伴わなかったからどんな努力もした。
まわりに『絶対に向いていない』と止められても私は戦地で研鑽したのだ。
それが人生最大の栄光と汚点でそまっていたとしても。
私は彼等と同じ勲章に執着したのだ。
おかげで一回落ちた教諭試験は合格した。
そのかわり『限りなく危険魔法使いに近い存在』として、エルグランドで囲う意味合いの採用だった。
彼等は優秀だった。
それは学生時代から頭角を表していて。
その彼等と仲良くなれた奇跡に胡座をかいていられなかったのだ。
彼等に運良く話しかけられて。
運良く側にいさせてもらえただけ。
今この時も、研鑽を怠ればすぐ毎年エルグランドを受ける教諭受験者に追い越されてしまう。
生きるのに精一杯の毎日なのだ。
『身の程を知らないと痛い目を見る』を体現した様な人生だ。
そんな一生は笑い飛ばして開き直るしかないと思う。
「「しつれいしまあ………す!!!アマリリス先生いますかあ?」」
扉の方から元気な声が聞こえた。
「はあ〜い。いますよ〜」
奥のデスクにいても良く聞こえる元気な声に私は応える。
「はあ………。また………君たちなの?
ルシウス教諭にこってり絞られたのかな?」
ため息をつきながらアマリリスはそちらをふりむいた。
そこには、すっとこどっこい集団がいた。
彼等はルシウス・エゴリ教諭のクラスの生徒達。
毎日のように足繁く通っている。
(その熱意を座学に捧げろと、エゴリ君なら言うのだろうな)
プッ…………と笑うと彼等がやっと私に気づいたらしい。
「アッッ…………いた。
やっぱり………わからないなあ~。声がしなかったら気配くらいしかわからないもんね?
ああ………。
僕等も早く拝みたいなあ………。
「保健室の癒やしの女神」の尊顔………………」
「ん?そんな大層なものではないわよ?
皆見えないものには神秘性を感じるものよ?
ほら。ここに座って?」
少し焦げているけれど、大した擦り傷くらいしかない彼等の全身を一応確認して。
治癒魔術ほどではない傷に絆創膏を貼る。
その間彼等は私がいるであろう付近をしげしげとながめているのだけど。
その表情から『私の姿を視認』することは出来なかったらしい。
毎日のように同じ反応な彼等が、少し気の毒にはなってくる。
魔法使いは飽きやすいのだ。
それなのに彼等の興味を惹きつけてやまない存在。
それらはたぶんあの噂のせいなのだろう。
「ねえ。アマリリス先生。
ルシウス先生の恋人なんでしょう?」
生徒の一人が真剣に聞いてくる。他の彼等もいつも真剣なのだ。
「冗談甚だしいなあ。
いつも言ってるじゃない。
あのヒトは大事な………同級生で、同僚で。
もう1人の教諭と三人仲良くしているの。
学生時代からの付き合いだから気心は知れてるよ。
確かに他の教諭とは距離感が近いことはあるかも。
恋人ではないのよ。
あのヒトに失礼だよ?
なんで………そんな噂がたつのかな?馬鹿らしい………」
粛々と彼等を治療する。
まあ治療とも呼べないレベルなのだが。
私は子供が好きで。問題児だと言われている彼等も可愛らしくて。そして。
『死んでいて手当は出来ない』
あの悔しさを感じたくなくて。
どんなにちいさな傷も心配し、治療する。
『治療出来ることが幸せ』だと知っているから。
「デウスがッ…………。先生のこと『絶世の美人』だと言ってたんだ!!!!
信じられないよッ…………!!!
あの恐怖の大魔王のルシウス先生がどう………惚気けて甘えているのか。聞き出したいじゃないかッ…………弱みだよ?
そんな楽しそうなこと、ほっとけないッ…………」
「『絶世の美人』………………………。また………突拍子のない。
ないない。
ルシウス教諭が惚ける?ないない。
君等が日頃接している通りの恐怖の大魔王ぶりだよ。
変わらないさ。君等も懲りないね?」
私のこの毎回の問答も世間話程度だ。
愉快なかわいらしいこが私に会いに来るのだ。
子供が元気で健やか。
それはこの上ない幸福なことだ。
「アマリリス先生の噂は知ってるよ?僕等も。
『助けたい欲が高まると、希釈が薄れる』
デウスが、先生に助けてもらった時に姿を見たんだッ…………。
あのデウスですよ?あんな美形の貴族が美人と称する美貌。
ルシウス先生の恋人だという噂の信憑性はあがるじゃないですか………?」
彼は食い下がる。それらを見渡し、私はクスクス笑う。
確かに。あの厳しくしかめっ面の彼に『恋人』がいたら。
しかも『エルグランド魔術学校』にいるならば。
それは格好のゴシップだ。
「うん………。
それらの噂を一掃するには『私が私の意思で姿を表す』ことが一番手っ取り早いのだけどね。
『無理なの』
私の………この希釈はね。
『欲』が高まらないと薄まらないのはほんとう。
その『欲』が………………。私はね。
『誰かを助けたい。治療したい』
この欲が一番高まりやすいの。
まあ………これらは噂でも。他の教諭の方たち皆知ってることよ。隠すことじゃないし。
私ですら………もう………。
何年も自分の意思では自分の姿を具現してない。
笑っちゃうでしょ?
それにね?
総じてヒトは。
『助けてくれたヒトを美化』するものよ。
所詮『吊り橋効果』
そのせいね?私の『美人』の噂は。
私はね?そこそこ整ってるくらいよ。
美女たくさんいるじゃない。
後は。『彼』が否定してくれるわよ」
ニコリと笑うし目配せをするんだけど。
私の表情がわからない彼等は気付かない。
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「また貴様らかっ………。
ここに入り浸るなと言ってるだろッ…………」
彼等の後ろに彼はいた。
エゴリ・ルシウス教諭そのヒトだ。私の同僚、同級生である。
濃い紫色の頭髪を後ろに撫でつけている。
同じく鋭く光る紫の双眸。それを怪しく光る眼鏡がおおっているのだけど、彼の美貌を隠しきれていない。
ただ眉間の皺が深くせっかくの美を取っ付きにくさで上塗りしてしまっている。
いつも厳しい彼が今は一層眉をしかめて顎を上げるように仁王立ちしている。
その姿はさながら『恐怖の大魔王』。それこそ、相応しい。
そのくらい彼のオーラが暗く見える。
生徒達が青ざめて、蜘蛛の巣をちらしたように逃げていった。
「あ〜あ。可愛らしい子達が逃げちゃった?
ルシウス教諭が怖い顔なさるから。
いつも刺激的ですね?飽きないでしょう?」
「………………。確認の時間だ」
「あら?もうそんな時間?
毎日お手数おかけします。ルシウス教諭」
彼がゆっくり私のいるであろう空間に手を差し出した。
「リリー」
彼の美しいバリトンが響く。
「うん。私だよ。エゴリ君」
私はクスクス笑いながらそっと彼の差し出した手に自分の手を重ねた。
「まったく。心配性だね?君は。
私がそんなか弱い女じゃないのくらい知ってるじゃないか」
私は彼の手をそっと握る。
彼の手は骨ばった大きな手だ。
(学生時代はもう少しプニプニしていたんだけどな)
私は彼の手をしげしげ眺めながら物思いに耽ってしまう。
「ごめん?今日は平和だったのよ。
へへ。だからだね?ますます認識し辛いね?」
「はっ………。握れるならマシだな」
「『完全希釈』するほどになることは滅多にない。
ほら。ここは私の『存在意義』をくれる所だからね?
『君達』がいるし」
「このままアルトの所に行くぞ」
何時ものように憮然と端的に述べる彼は私の手を掴みながら足早に保健室を後にした。
「エゴリくん。
毎回引率してくれなくていいんだよ?
君は………私を認識するのにピカ一だけどさ。
君は忙しい。毎日のように来る必要はないのだけど?」
彼はエルグランド魔術学校の護る竜なのである。
竜人族の貴族ルシウス家は代々エルグランド魔術学校の守り人になる家系なのだ。
そして彼は教師統括でもある。
決して暇な人ではない。
「………」
ずんずん進む彼は無言だ。
纏う空気から不機嫌ではないのは感じるのだけど。
だからといって私の懸念に応える気はないらしい。
無言な彼は背中で語る男である。
言葉足らずな所が周りを怖がらせる要因にもなっているのだけど。
長年の付き合いの私はあまり気にならない。
新人教諭あたりはいつもメソメソしている。
そんな彼は過保護なのだ。
「君が頻繁に出没するから子供が寄り付きづらいのよね?」
「迷惑か」
「違うちがう。わざわざ『危険分子』と馴れ合うことないじゃない?
貴方の『良からぬ』噂もあるのよ。
否定するこっちの身になってよね~」
私の手を引きながら歩く彼の後ろを歩きながら、他愛のない話をする。
大きな背中。
いつも大きな音をたてて大股で歩く彼が、少し。ほんの少し歩調を緩めてくれる。
昔から変わらない彼の背中。
昔はもっと彼のつむじが見えたのに。
可愛らしくかっこいい『子竜ちゃん』だった彼は、今や立派なエルグランドの守り人だ。
成長と月日を感じる。
「ルシウス教諭は優しいから。問題児達が懐くんだね?」
「は?舐められてるの間違いだろ」
彼が苦々しく吐き捨てる。
そんなことを話していると、『そこ』に行き着く。
『魔術研究準備室』
ノックしてエゴリ君がドアを空けると、
中からヒョコッと大きな巨体が顔を出した。
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「あれ。またエゴリ君が直々に連れてきたの?
時間になったら僕が呼びに行くのに………。
大変だね?リリーちゃん。」
「お邪魔するね?アルト君。私は大変ではないのよ?
ほら………存在薄いのはいつものこと。
それにさ。
私が………濃いほうが『エルグランドの危機』なんだから。
大変なのは。エゴリ君とアルト君のほう。
毎日の私の存在確認。
『偽物』の成り代わりじゃないかの確認。
『希釈して暴走しないか』の確認。」
「慣れたな」
「ふふ。ただ………昔みたいにお話する時間なだけだ。
お茶を飲んで、話す。
腐れ縁の僕等ならいつもすることさ。
『君の希釈暴走』がなくても、続いてた習慣さ。
もうすでに君のオーラはわかるから。
君が『偽物』なことは否定されたから大丈夫。
あとは少し視認出来るくらいには濃くなろうか?
そうしないと朝学校の出勤確認が出来ないからね?」
彼等は常時こんな感じだ。
「………………ありがとう」
中に入り勝手知ったるソファーに腰をおろす。
大体の教諭は生徒は、そのソファーの凹みを一瞥してから私の『顔らしき位置』に話しかけるのだけど。
彼等はまっすぐ私の目を射抜く。
彼等が高い『勲章』持ちの高位の魔法使いだからか。私との長い時間が為せる技か。
「じゃあ、リリーちゃんお話しようか?」
アルト君がほほえんだ。
アルト・ミカエル。
彼も私の大事な同級生で、同僚。
白い髪を無造作に伸ばして目元を隠しているけど彼の匂い立つ男らしい造形は隠せていない。線の細いエゴリと違う美丈夫だ。
腕や脚は少し鱗がある蛇型獣人族である。
大きな身体に似合わない控えめな性格。魔法使いらしくない。もう少し猫背を直し甲冑を着込んだら『バ―サ―カ―』と間違える出で立ちになる。
そのくらい上背がある男だ。
彼が貪欲に欲を出すのは『魔術や魔法生物への探究心』。
学生の時はそれはそれは可愛らしい美少女だったのだ。
だから、彼は『白蛇ちゃん』
彼もエルグランドの守護者だ。
戦闘力は言わずもがな。彼の『家系魔術』が逸材なのだ。
彼は人の嘘を見抜けるのだ。
正しく守護者に相応しい人格と体格と、能力持ちの人である。
私は『欲』がすくないのだ。
食欲も、睡眠欲も。
日常生活でその『欲』が薄まるとどうなるか。
希釈がより高まり、『完全希釈』になる。
コントロール出来れば武器になる。
それらが出来たのが名家の『希釈』の一族の教祖様が『完全希釈』を使いこなしたらしい。
彼は『家族すら』顔も声も覚えていない。
それらを何故か遠い親戚の私も開花したのだ。
それらもエルグランドに身を置く一因にはなっている。
私は厳密には普通の教諭ではない。
『一歩間違うとヤバい危険魔法使い』なのだ。
それらのポテンシャルと無駄に高い勲章で。
色々あって今がある。
「エゴリ君、先輩に噛みついてさッ…………。
『負け犬』って言われているのを聞いた君が、先輩を殴り飛ばした時には………………。
僕も、周りも………………。見惚れたよ。
あれがきみの脳筋としての才能の開花になるなんてね?」
「ああッ…………懐かしいね?
アルト君。よくそんな昔のこと覚えているね?」
「僕、リリーちゃんの笑顔すきだもの。
昔の話をすると柔らかい笑顔になる。それが格別でさ」
「居眠りしててもバレていたな。いつも。
よだれがたれているからな?」
「陰湿いただきました〜。
エゴリくんはその一言多い感じが変わらないから安心するわ。今日も健やかだな〜って」
そんな私を見て二人は少し頬を緩める。
「「見えてきたね(な)」」
「そう?」
手鏡を取り出す。
うっすら亡霊のようではあるけど、顔の造形がわかるくらいには視認出来るようになった。
「もう少し濃くないとセキュリティにひっかかるよね?」
「そうだね。
もう少し話そうか。
きみが………「僕等とずっと一緒にいたい」
そう思ってくれているうちは、この時間が有効なんだから」
エゴリ君とアルト君は、話し続けた。
今年はどうも慌ただしくて。
理事長の孫が毎日のように騒動を起こしているのだ。
「卒倒したデウス君を担いで来た子ね?
魔法決闘に勝ったのに打ち捨てなかった子。
可愛らしい………いい子だったわよ?
トラブルメーカーにはとても………?」
「ッ…………。
あの伝説の勇者の孫だぞッ…………。お前は伝説の勇者様に恩があるからな。
俺には目のたんこぶだッ…………あの御方は」
「勇者の孫かあ………。僕も会いたいなあ………」
「ふふ。アルト君は。気に入りそうよ?」
彼等とのこの穏やかな『日常』が私の宝物で。
彼等は私の大切な大切なヒトなのだ。
彼等もこんな面倒くさい幼なじみの『監視』の役目を担いながらも優しく優しくしてくれている。
私は幸せものだ。
なのだけど。
「愛しているよ。リリーちゃん。
君は麗しく努力家で思いやりのある。『自己犠牲』を厭わない稀有な人だ。
唯一無二の女傑さ。
美しい………万華鏡。妖精。
お願い………今すぐお嫁さんになって………?」
アルト君がうっとり見下ろしながら笑いかける。
「愛している。リリー。
ひたむきさ。純真無垢さ。時々悪戯っ子のような笑みも。慈愛と憂いの眼差しも。エルグランドの生徒を愛する心も。自己犠牲も。美しさも。研鑽の果ての強靭さも。
全てにおいて唯一無二の女だ。
芳しい香りはアマリリス。
歌は………天上の祝福だ。
俺は男として。お前を愛している。
すぐ花嫁になってくれ」
エゴリ君は眉間の皺が深まっているが、頬は紅く瞳は灼熱の情愛に燃えている。
私はため息をはく。
『ごめん。解釈違いなんだわ』
この『口説き』も日常茶飯事である。
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「ッ…………リリ―ちゃん………」
「ッ…………リリ―………」
私はゲンナリしながら私に追いすがるように見る彼等を見やる。
『あのさ。
そんなかわいい白蛇ちゃんとかわいい子竜の君等に私が弱いからって。
その顔ッ…………ッ…………。デッサンさせて………』
私はおもむろに懐からスケッチブックを取り出しカリカリ描きなぐりだした。
それを見てゲンナリしだすのは彼等である。
「そんなキラキラ僕等を見るのに。
なんで………?
なんで僕等の気持ちを受け止めてくれないの?」
「おい………性懲りもなく。
また俺等の『仲睦まじい』絵じゃないだろうなッ…………?!」
『御名答。
私はね。
ニコイチの『君等』が推しなの。
君達が日々健やかにエルグランドで腐れ縁厶ーブかましてるところがなによりも『癒し』で『萌』なの。
あ。大丈夫。
『腐らせた』内容は燃やしたから。
純粋な友情腐れ縁の解釈です。はい』
「ッ…………その趣味だけはッ…………。
受け入れられないッ…………」
「君込で僕らは健やかになるんだけどな?
仲良しの僕等がすきなんだよね?
ならさ。
僕等二人から愛されようよ」
エゴリくんは眉間を揉みながら目をつむり。
アルト君が頭痛に効く魔茶を用意する。
それらは意思疎通のいらない『ニコイチ』『腐れ縁』のなせる技。
『はあ………。
公式様が近くで息してらっしゃり………。
私は日々この供給過多な毎日ッ…………ッ…………。
くうッ…………。
生きてて良かったあ………。推しのいる生活万歳ッ…………』
「推しを恋人にしようよ?」
「まてッ…………俺の胸元がなぜ開けているんだ。
没収だッ…………」
私はスケッチブックを取り上げたエゴリ君に縋りながら泣きつく。
この茶番も日常である。
『ああッ…………。日々の潤いを返して………。
大丈夫。エゴリくんの胸元はアルト君のだけのものよね?
この妄想は秘めるわ………。
私の画力では表現出来ないわ………』
「リリ―ちゃん………。
想像の世界の僕らじゃなくてさ。
現実の僕等を愛でてよ………?」
『あ。その指いじいじさせながらエゴリくんをチラ見してッ…………ッ…………ッ…………。
ああ………。ありがとうございます』
私は拝んだ。
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「最近。
毎日のように引率するね?エゴリ君」
アルトは新しいお茶を入れながら眼の前で長い脚を組む幼馴染を見つめる。
それをエゴりは鼻で笑った。
「………………なんだ。悪いのか」
「引率なら………他の女性教諭も手伝ってくれるのに。
『あえて断って』君が引率してるよね?
だから、噂が消えないんだよ。
いや。むしろ消えないようにしている。
『ルシウス教諭が足繁く保健室に行くのは、恋人がいるから』って」
「………………………。
この学園には女性教諭は少ない。
身内でもない『彼女ら』にあいつのことを丸投げは出来ない」
「それ。僕にも出来ることだよ。
彼女のシフトを『管理』する立場だからって。
『独占欲』がダダ漏れだ。
君が焦りだしたのは、あの『希釈』の一族スカイ君が入学したから?」
エゴリは唸った。アルトの指摘は的を射ていたらしい。
その唸りは『肯定』を意味していた。
「………。本家は彼女を自由にする判断をした。
だが。
本家の跡取りが………彼女を見初めたら。
本気で囲い込まれるぞ」
「………。
彼女が魅力的なのは、今に始まったことじゃない。
今まで通り『近づく男は蹴散らす』。
彼女が『戦地』から帰った時に誓ったよね?」
「………あの『性癖』はどうにかならないのか」
「………彼女が健やかならいいじゃない?」
「お前はいつまでも『優しい同級生』でいてくれ。
争いたくない」
「………僕も争いたくはないよ?
ただ。彼女だけは。彼女だけは………………譲れないな」
いつも穏やかに笑みを称えるアルトがエゴリを睨みつけた。
彼等の魔力が爆ぜる。
エゴリは紫色を帯びた黒い稲妻のような魔力。
アルトは白い蔦のようなうねるような魔力だ。
「お前はタガが外れると優しく出来るのか」
「………訓練や戦闘と一緒にしないでよ………」
「同じだろ。戦闘も恋愛も。
『夢中になるとどうなるか』なんて」
男二人はため息をついた。
彼女が帰り、男二人はお茶を飲んでいる。
魔術研究準備室。
そこはアルト・ミカエルがほぼ根城にしている謂わば『巣』でありテリトリーだ。
エルグランド魔術学校の守護者と、同じくの守り人たるエゴリは、『腐れ縁』でもあり。彼女を守る『騎士』でもあるのだ。
そんな彼等も一枚岩ではない。
愛しい彼女を独占したくて、日々水面下で牽制しているのだ。
その彼女は戦地から帰ったら『腐って』帰ってきたのだ。
彼等には衝撃だったのだが。
それすらも些細なことだ。
「日々愛を刷り込もうね?」
「要するにアイツの「フェチ」にハマればいいんだろう?厳かにするさ」
二人は拳をぶつけあった。
それを『希釈』でドアの隙間から眺めたアマリリスは鼻血をだした。
彼女の家系魔術は推し二人を壁になり見守るのに特化しているのだ。
(ああッ…………。神様。
ありがとう。わたくしにこの能力を授けて下さり。
私。私ッ…………すごく幸せです!)
彼女の推しライフは続く。