婚約破棄したら帽子が手放せなくなった王太子の話
何百年も前に、国を守るため王妃には魔法の優れた女性を選ぶようにと女神の神託があった。それによって学院は建てられ魔法を重視した教育が行われてきた。
私は婚約者マリーが男爵令嬢なのが気に入らなかった。
学院の魔法の成績が一位の女性を王太子の婚約者にすると決まっていた。その年齢には魔法の能力が確定すると言われているからだ。
私の婚約者にするために侯爵家の養女になっていて身分は侯爵令嬢だが、生まれながらの公爵令嬢ジェシカとの違いは見ていればすぐわかる。
ジェシカは魔法の成績が二位だ。二人の魔法はほとんど変わらない。
魔法の成績だけでそれ以外は考慮されないのはおかしいだろう。
不平不満が積もり卒業パーティーで婚約破棄した。
ここには他国の留学生も参加している。王太子である私の発言をなかったことにはできない。
どこから漏れたのか城から迎えが来て私たち三人は連れて行かれた。
陛下をはじめ重職につく者たちが集まってきた。
二人を比べたらジェシカの方が王妃にふさわしいと訴えた。
陛下の子は私しかいないし、男爵令嬢が王妃になることをよく思わない者も多かった。
ジェシカの父親の力もあり私の訴えが通る。
不敬にはしない、最後に言いたいことがあるかと問われたマリーは男爵家やその領地をどんなに愛していたか、男爵の娘の自分には王妃教育はとても厳し大変だったかを涙を浮かべて吐き出していた。そして最後に言った
「私は臣下として国のために尽くすつもりです。区切りとしてお二人にデコピンさせてください。それで全てなかったことに」
少し考えて陛下が了承すると私とジェシカにデコピンした。魔法はすごくても非力な女の子だなと場違いな感想を持った。
その後、私たちの額に犯罪者の焼印に似た痣ができた。神殿関係者や魔法使いが調べるとマリーのデコピンは関係ないとわかった。人々は女神の怒りに触れたと噂した。他の王継承者は病に倒れた。
私とジェシカは視察で人前に出る時にはつばの広い帽子を目深にかぶっていた。化粧をしても浮かび上がってくるからだ。
そのような人間が好意を持たれるはずもなく人々の心は離れていく。他国の人と会う時は帽子を目深にかぶることはないが額が気になりうつむいてしまう。
そんな王族がいる国と友好関係を結びたいと思うだろうか。マリーも国のために尽くしてくれたが一魔法使いとしてはやれることに限度がある。
女神の意に背いた私のいる国は少しずつ弱っていった。