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勇者なのに勇者に殺されそうになったんだが  作者: catan
零章:勇者の国、フライメイヤ。
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5話 一進一退

薄暗いダンジョンの中、地図を頼りに歩き続ける。


あの後も何度か魔物に遭遇したが今のところ難なく倒せている、流石チート能力と言ったところだろうか。

普通なら迷宮に入る資格を得る為には冒険者になって早くて3年はかかると言われている。

それをすっ飛ばしているのだからかなりズルだ。

しかも俺達はまだLv1、すぐにもっと強くなるだろう。


そして30分くらい経った頃、階段を見つけた。

ここを下れば2階層だ。


「腕試しも兼ねて降りてみましょうか、危険だと思ったらすぐに撤退します。」


「分かった、慎重に行こう。」


セレイアさんも言っていた、階層を超えると敵も数も変わると。

1階層が余裕でも2階層以降で死。

なんてざらにあるらしい、気をつけて行こう。


螺旋状の階段を降りていき、重い扉を開ける。

扉の先は先程と同じ石レンガ造りで特に変わったところはない。

しかし既に前の階層とは別物だ。


また地図を頼りに進んでいく、今は階段ではなく行き止まりを巡っている。

行き止まりには稀に宝箱が存在するのだ、そして中身が空になった宝箱は消えて中身のある状態で新しく出現するのだという。

しかし1階層全部探しても無いこともあるらしく完全に運なようだ。

冒険者の間では中身が入っていても移動しているなんて噂も立っている程で、まぁとにかくレアという事だ。


降りてすぐの行き止まりは外れだった、そして次の行き止まりに行く為に戻ろうとした所でヤツらが現れた。

曲がり角の奥から赤い目を光らせてニタニタと笑いながら、質素な武器を手に小さな悪魔は群れを成して歩み寄ってくる。

ゴブリンだ。

見たところただのゴブリンでは無さそうだ、多分ゴブリンファイターというゴブリンの上位種だろう。

そしてざっと7体は居るだろうか、1階層の倍だ。


お互い、隙を窺うように睨み合う。

何時でも飛び込めるように腰を低く落とし、武器を構え、相手の一挙手一投足を逃さないように...


...今だ!!!


相手が足を浮かせた瞬間、上手く足を動かせないその僅かな隙...そこを逃さない。


「はぁっ!!」


剣を振り切る。

しかし間一髪で避けたようだ、敵の身体には傷一つついていなかった。


そして俺の攻撃を皮切りに一気に戦闘が始まる。


まず左右から襲いかかってくる敵をバックステップで躱し、そして接近、両手でフルスイングし壁に向かって吹き飛ばす。


刃が直撃した1匹はそのまま絶命したが、二匹目にまでは届かなかったようで壁に激突しただけになった。

勿論その隙は逃さない。


「ファイアアロー!」


俺の手の先から生まれた炎の細い矢は見事にゴブリンの頭に命中、そのまま動かなくなる。


その後仲間の方を振り返る。

戦況は良くなかった、誠也は3匹を抱え込むのが限界で残りの2匹は後衛にまで辿り着いていた。

美里が魔法で1匹を黒焦げにしたようだが、残りの1匹に詠唱を拒まれていた。

結衣もメイスで応戦するが振りが遅すぎて全く当たっていない。


俺は助太刀する為に後衛に走り出した、時だった。


ゴブリンが急に狙いを変えて結衣の足にナイフを刺した。

石のナイフは結衣の太腿に深く突き刺さり、血が滲み出てくる。


「ぁあああああああああっ!!!!!」


結衣の悲鳴が迷宮内に響き渡る。

それに驚いた誠也は後ろを振り向く、それは当然隙となり1匹は後衛に、1匹は誠也の鎧の隙間からナイフを刺した。


「ぐぁぁっっっ!」


誠也はそのまま大剣で反撃、正面の二匹共吹き飛ばした。

そのまま取り零した一匹を仕留めようとするが足に突き刺さったナイフが痛みを伝えて邪魔をする。

本来ならここで回復をする必要があるが、今ヒーラーは痛みに悶え、地に伏せている。


まずい...急げ俺...!


「魔法剣!残火!」


誠也の取り零した1匹を仕留め、もう一匹!

全力で足を早めてそいつに近づく、早く!届け!


「心!後ろ!」


美里が叫ぶ、後ろには弓矢を構えたゴブリンが居た。


顔を後ろに向けてそれは確認出来た、しかし前にと飛び出した身体は止まらない。

俺は諦めて正面のゴブリンを斬り付ける。

それと同時に後ろから風を切る音が近づいてくる。

それを避ける事は出来ず、背中に直撃してしまう。


「うぐっ!ぁああ!」


痛い痛い痛い痛い痛い!!!


背中が焼けるように熱い、体内の異物感がとても気持ち悪い、でもそんなのがどうでも良くなるほど痛い痛い痛い!!!


俺は地に伏せ、動けなくなっていた。

動いたら背中に刺さった矢が痛み、それどころでは無くなるからだ。

しかし今、動けるのは美里だけだ。

美里に視線を向けるが、まだ1匹潜んでいたらしく別のゴブリンに襲われていた。

なんとか杖でいなしているが、時間の問題だ。

それにその間も弓持ちゴブリンは矢を構える。


このままだと全滅だ...!

俺が動かなきゃ...

前衛がたかが一発の攻撃で倒れてどうする!

動け俺の身体...!

痛みによる恐怖に支配された俺の身体に鞭打ち、立ち上がる。


当然背中の矢は痛いままだ、痛みに慣れていない俺には痛すぎる。

身体も全く思うように動かない、それでも...!


「魔法剣...残火っ!」


剣に火を纏わせる、そして美里に剣を振りかざそうとするゴブリンに剣を振る。

相当剣が遅いのだろう、ゴブリンは後ろからの俺の攻撃を軽々と避けた。


もう一撃!


斬り付ける、しかしその剣は空を斬るだけ。

結局痛みに勝てず全く思うように動かない。


ゴブリンが襲いかかる、後ろからは風切り音が聞こえる。


終わりだ...





その時だった。


「ヒー...ル!」


結衣の声だった。

背中の痛みはすっと消え、異物感も無くなった。


俺は瞬時にゴブリンの剣を回避、後ろから迫り来る矢も剣で弾き返した。

そしてその流れのままゴブリンを両断、焦げた肉の匂いと共に絶命する。


最後の一体!

そいつはもう怯えていた、手を震わせて矢をつがえようとしている。

その隙を逃さない。


「射出!!!」


剣に纏われた火を振り払うように一太刀、その斬撃は灼熱の刃となり形を保ちゴブリンの元へ飛んでいく。

震えて動けなくなっているゴブリンはそのまま真っ二つになった。


「はぁ...っはぁ...っ!」


勝った、なんとか倒し切ったのだ。


「...誠也!結衣!大丈夫か!」


2人の方を見る、結衣は美里が傍に居てくれてまずは自分に落ち着いてヒールをかけているようだ。

刺さっていたナイフがすっと外れ、傷が塞がっていく。


誠也は足のナイフでまともに動けていないが、特に命に別状は無さそうだ。


一時はどうなる事かと思ったが軽傷で済んでいるし、なんとかなったようだ...良かった...


「誠也、今治療しますね...ヒール!」


誠也の傷も癒えていく、何も無かったように傷跡ひとつ残らず。


「ありがとうございます結衣、それに美里と心も...

みんながいなかったら死んでましたよ。」


「いえ...私、殆ど何も出来ませんでしたから...」


「そんなこと無かったじゃないですか、

痛みに悶えながらも心にヒールを使っていたのかっこよかったですよ。

当然心も、痛みの中動いたのは凄いです...

それに比べて僕は...痛みで動けませんでした...

守るなんて言っておきながら...何も出来ませんでした...」


誠也は顔を俯かせ、拳を握り締めていた。

ヒールでは癒せない心の痛みに、自身の弱さに、悶えていた。


「誠也...」


「...誠也、立ちなよ。

別に誰にだって出来ないことあるって、

それにウチら戦いを知らないか弱い日本人っしょ?

これから慣れていけばいいじゃん。

今は命ある事喜んで帰らないと。」


「美里...ありがとうございます...!

そうですね、俺...強くなりますよ!」


誠也は顔を上げ、決意の拳を振りかざした。


「ああ、俺も強くならないとな。」


「ぇえと...私も...頑張ります!」


「ウチは頑張るのなんて面倒だし嫌だけど、

しょうがないからあんたらの為に頑張ってあげる。」


「ええ、期待してますよ!」


俺達は誠也の拳に自分の拳を重ね、決意を固めた。

強くなって...皆と一緒に帰るんだ!


「さて、このまま進むのは危険ですし一旦帰りましょうか。」


「いいケド、そこすぐのとこ行き止まりだしちょっと見てみない?」


美里が地図を見ながら道の先を指差す。


「折角だし行ってみるか、なにか居たらすぐ帰ろうぜ。」


「そうですね、気をつけていきましょうか。」


曲がり角で左右を見渡し、特に何も居ないのを確認...


「心、どうしたんです?なにか居ましたか?」


「ああ...居たというか...あった...」


「...本当ですか!?」


誠也が身体を出す、それに続き後続も身体を出して曲がり角の先を確認する。


そこには確かに存在していた、あまりにもテンプレ的な見た目のそれは私が宝箱ですと喋っているようなものだった。


「マジじゃん...!」


「凄いです!」


近づいて確認してみる、周囲に敵影は無いし罠もなさそうだ。


「開けるぞ...!」


重い蓋を持ち上げる、中もテンプレ的な赤いクッションが縫い付けられている物だった。


肝心の中身は...ブーツだった。


「...ブーツ?これは...どういう物なんでしょう...」


「分からないな...とりあえず冒険者ギルドに持って行ってみようぜ。」


「そうですね、お宝も手に入れた事ですし帰りましょう!」


帰路は余裕だった、行きの時も1階層の敵には苦労しなかったのでそれはそうなのだが。

とにかく無事に迷宮から脱出する事に成功した。


「はぁ〜、地上の空気が美味しいな。」


「そうですね...余程緊張していたのか、かなり疲労感が襲ってきますね...」


「...だね...私も...疲れた...」


そう言いながら、結衣は今にも倒れそうだった。


「ちょっ、結衣...大丈夫?

宿屋まで肩貸してあげるから、帰ろ?

二人とも、ブーツは任せたよ。」


美里が結衣を手で抑えながら宿屋に帰っていく。


「任されましたし、もうひと仕事しますか。」


「ああ、ワクワクタイムだな。」


「そうですね、僕もいま凄く楽しみです。」


これで普通のブーツでしたなんて無きゃいいが...


迷宮から街の南門辺りに向かった大通り、その中心付近にそれは大きく構えられていた。

一見酒場のようにも見える...というか飲んだくれもいる辺り酒場としても機能しているようだがそれはともかく、これが冒険者ギルドだ。


中では厳ついヤツらが酒を片手にテーブルに座っていたり、依頼のボードを確認していたり、受付嬢に絡んでいたりする...


治安悪くないか?


それもそうか、命のかかった力仕事。

そういう方法でストレスを発散しているのだろう。


とりあえずそこら辺のは放っておいて、奥のカウンターに向かう。

カウンターの上には鑑定・売却所と書いてある。

多分ここだろう。

ブーツを持って空いてる適当なカウンターに向かう。


「いらっしゃいませ、鑑定ですか?」


「ああ、このブーツなのだが...」


「こちらですね...こちら迷宮産ですか?」


「ああ、そうだ。」


「かしこまりました、鑑定には小銀貨一枚戴きます。」


一瞬顔が歪む...

小銀貨1枚か...日本円にすれば約1万円はするぞ...!


「ご安心ください、迷宮産の物でしたら小金貨1枚以上の物が大半ですよ。」


「分かりました、お願いします。」


誠也に財布を取り出して貰い、そこから小銀貨を一枚渡す。


「ありがとうございます、鑑定致しますね...」


そう言うとその受付嬢は目を光らせてブーツを凝視する。


1分程凝視すると、顔を上げ口を開く。


「俊敏のブーツですね、アビリティの俊敏を持っている人が装備すればランクが一つ上がりますよ。

値段にしたら売る店にもよりますが小金貨5枚程になりますね。」


小金貨5枚...!!!

それに俊敏上昇...かなり優秀なブーツだ...


「誠也、どうする?」


「そうですね...一旦持って帰って皆で考えましょうか。」


「かしこまりました、では返却しますね。

またのご利用をお待ちしています。」


俺達は冒険者ギルドを後にする。


「アビリティが1段階上昇って凄い効果なんじゃないですか?」


「ああ、俺達は最初から強いからあまり分からないがスキルランクを1段階上昇させるにはかなりの努力が要るらしいしそれを底上げ出来るのはとてつもないだろうな...」


「ええ、確か俊敏は心が持ってましたよね。

個人的には戦力の底上げに使いたいですけどね。」


「それは要相談だな。」


時刻はもう夕暮れ時、街を覆う高い壁が夕日を遮り既に街には夜の静けさが訪れようとしていた。

宿屋に帰ると結衣は疲れたようで既に寝ていた。

ブーツの件は明日にして宿屋が提供してくれる食事を食べて俺達も寝る事にした。


翌日、少し早くに目覚めると隣のベッドには誠也が居なかった。

誠也を探す為、着替えて外に出る。

まぁ、何をしているか大方検討はつくが。


宿屋の裏庭に誠也は居た、まだ朝日が昇ろうかという早い時間に大きな剣を素振りしていた。


「おはよう誠也、熱心だな。」


軽く手を挙げて誠也に挨拶する


「心、おはようございます。

強くならないといけませんからね、皆を守れるように。」


「そうだな、手伝うよ。

てか手伝わせてくれ、俺も練習したいんだ。」


俺は腰から剣を抜く、着替えてきたのはこの為だ。


誠也もこちらに身体を向け、大剣を正眼に構える。


「ふふ、心も熱心ですね。

では、手合わせよろしくお願いします!」


今朝は良い汗をかけそうだ。

*Tips ゴブリン種

子供程度の身長の緑の肌をした人型の生物。

沼地の民であるエルフ族が魔物化した姿とする説が存在し、現在最有力説である。

知能は低いがある程度はあり、石製の武器を作ったり火を扱ったり出来る。

中には魔法を使う上位種も存在する。

不意打ちや連携攻撃等もしてくる為侮っていると痛い目を見ることになる。

非常に種類が多く10種以上に及ぶ、最もメジャーな魔物だ。

それと、エルフの名残だろうか、

一貫して火が弱点であり風に耐性を持つ。


ー魔物大全 第一項 ゴブリン種について

より一部抜粋

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