4話 最初の一歩
実験の為に4~6話は17時に投稿します、よろしくお願いします。
次の日の朝、支給された装備を着て女子2人を待つ。
その間に日課になりつつある[聖剣召喚]を練習している。
練習と言っても全くコツなど掴めず100回以上叫ぶだけという結果なのだが...
誠也も暖かい目で見守ってくれている。
悲しくなってきた...
いつか召喚できるようになるだろうか...
「おは〜、二人とも。」
「おはよ...」
なんてしてたら二人が来た、
無駄な努力を一旦止める。
勿論諦める気は無い、召喚出来るまでやり続ける予定だ。
勇者といえば剣だからな、それに専用武器とか魅力しか無い。
「ああ、おはよ。」
「おはようございます。
さて、出発しましょうか。」
俺達は今日王宮の外に出る。
王宮の外については色々セレイアさんに教わったし王様から支援金も戴いた。
大銀貨1枚と小銀貨5枚、日本円に換算すると大体15万程度だ。
装備は既に支給されてるしこれだけあれば当分困らないだろう、
そしてこのお金が尽きる頃には自分達でも稼げるようになる筈だ。
迷宮で倒したモンスターや手に入れた宝を売ると結構な金になるらしく、勇者の俺達なら余裕で生計は立てれるそうだ。
お金は誠也が持つことになった、自衛が出来て無駄使いしなさそうだからだ。
オタクの俺には駄目そうだし適任だ。
沢山のメイドや騎士に見送られながら王宮を後にする、その街並みは圧巻だった。
ここは城から最も近い一番街、貴族の中でも特に上流階級の貴族達が住まう場所らしいがかなりの絶景だ。
思わずおぉ〜なんて感嘆の声を漏らしてしまう。
周りの景色を楽しみながら街を南下していく。
南に行けば5番街、正門入口に着く。
5番街には市場や宿屋等、お店が多く点在している。
まずはそこで宿屋を取ってから向かうという訳だ、夜に取っても満室な事が多いらしい。
一番街を抜け、中央広場を通り過ぎると5番街だ。
街の中心の方にはかなり高級そうな店が建ち並んでいる。
少し安めの宿は5番街の道の中央やや門側から脇道にそれた所に多く存在するらしい。
ここまで来ると店も露店が増えて、庶民層にも売れる品が増えてくる。
物価を詳しく確認しながら良さそうな宿屋を探していく。
やはり調味料は貴重なのだろうか、少量で高値で売られている。
しばらく歩いているといい感じの宿屋を見つけた、煉瓦造りの3階建てで内装は小綺麗な感じだ。
値段も1泊一人、大銅貨一枚と小銅貨二枚と日本円に換算すれば1200円程度とかなりリーズナブルだ。
ツイン部屋にすれば値段ももう少し安く済むそうだ、当分はこの宿にお世話になるだろう。
中に入り、誠也がチェックインをしてくれる。
店主は優しそうなおじさんだ。
それと娘だろうか、若い女性が奥の酒場でウェイトレスをしている。
「すいません、部屋は空いてますか?
出来ればツイン部屋が二つ。」
「ええ、空いてますよ。
四名様でツイン部屋代を引き、
大銅貨四枚と小銅貨四枚になります。」
ツイン部屋で一人当たり小銅貨一枚引きか、中々嬉しい値引きだ。
だがもう一押しする、こういう世界では値引き前提で値段が決まっている事も多い。
値切りは必須テクニックだろう。
了承しようとしている誠也に割入り、店主のおじさんに話しかける。
「そこをちょっと安く出来ないかな、3泊取るからさ!」
「分かりました、でしたら一泊小銅貨一枚割引き致しましょう。」
「そこをもうちょっと安く!
俺達実は勇者なんだ、もし勇者がこの宿を使ってるって周りが知ったら...客が集まると思わないか?」
「これはこれは、勇者様でしたか。
確かにその鎧、王宮騎士が装備している鎧にそっくりですなぁ。
わかりました、一泊小銅貨二枚引き。
これ以上は安く出来ませんよ?」
「ありがと!三泊取らせてもらいます!」
俺は心の中で小さくガッツポーズを取る、
値切りなんて現実でやった事ないから緊張した。
オタク友達から借りたなろう小説のお陰だな。
色んな値切りパターンが見れたからな。
「では、お部屋は三階の二号室と三号室になります。
ごゆっくりどうぞ。」
そう言って鍵を渡してもらう、そのうち一つは女子二人に渡す。
「凄いですね、心は値切りが出来たんですね。」
「いや、見様見真似だよ。
小説とかで読んだ感じにね。」
「なるほど、しかしあの饒舌振りには年季が入ってる様にも思えますよ。」
「お?遠回しにおじさんって言ってるのか?このっ!」
「あははっ!すいませんそんなつもりでは。」
なんて言いつつも冗談を言ってやったって顔で誠也が笑っている。
「ほら行くよ、迷宮。
今日のうちにちょっとは進んでおきたいっしょ。」
「ああ、焦りは禁物だから余り進む予定は無いが慣らしておく必要はあるからな。
行こうか。」
「うぅ...緊張してきた...」
さっきから結衣が後ろで震えて怯えている、
相当怖いのだろう。
「もう結衣、大丈夫だってウチに男二人も付いてんだから。」
「うん...ありがとう...」
「そうですよ、いざとなったら僕が守りますから。」
おいおい、そういうのは主人公のセリフだろ。
勇者の俺を差し置いて...
いや、てか勇者絶対誠也じゃね?
なんで俺なんだろう本当に...
また悲しくなってきた...
聖剣も出せないし...
「え、心?
なんで貴方まで落ち込んでるんですか、しっかりしてください。」
「あ、ああ...
すまん、ちょっと現実突きつけられてダメージ受けてた...」
「...回復しましょうか?」
「ああ、心のヒールを頼む。」
「...不安よ飛んでいけ〜!
...なんて、私も不安なんですけどね...」
かわいい
「いや、元気出たよ!ありがとう。
俺も二人を守れるように頑張るよ。」
「は...はい!よろしくお願いします...」
「ほら、イチャついてないで行くよ!」
「「イチャついてなんか...!」」
ハモった...二人して顔を赤くする。
ちょっと気まずい空気感の中、迷宮のある四番街に移動する。
四番街は冒険者街となっていて武器屋に防具屋、アイテム屋...
宿屋に酒場に冒険者ギルド。
冒険者が必要としてる物はなんでも揃っている街だ。
そして本命の迷宮の入口もここに存在する...
中央ちょい壁際辺にある迷宮に向かって歩き続ける。
ちなみにこの世界の冒険者ギルドは登録すれば依頼が受けられる他、様々なサポートをしていたり階級制度が存在する為単純に信頼を得るのにうってつけだそうだ。
ただ依頼の大半は迷宮外の事、
それに俺達の目的は名声や金ではなく魔王。
俺達には関係のない施設という事だ。
「にしても周りに鎧の人が多いですね、流石冒険者街と言われているだけあります。」
「ね、むさ苦しいわ。
ウチみたいなギャルには毒だね。」
「っと、着いたぞ。
これみたいだ。」
そう言って俺は目の前を指差す。
厳重に石レンガで固められた謎の豆腐は迷宮の入口だ、重たそうな鉄の扉の前には騎士が門番をしている。
「すいません、迷宮攻略に来た者ですが...」
誠也が門番に話しかける、迷宮に入るにはギルドの会員証か貴族、王族からの紹介状が必要だ。
俺達は勇者なので紹介状を王様から貰っている。
誠也は紹介状を提示する。
「...はい...勇者様ですね。分かりました、お気をつけて。」
もう片方の門番が扉を開ける、相当重いのか両手で体重を掛けて押して徐々に開いていく。
「どうぞ、お通り下さい。ご武運を。」
扉を開けてくれた門番がそう言ってくれる。
俺達は緊張した面持ちで、固唾を飲み込み...
門の奥へと入っていった...
「お帰りの際は扉の傍のベルを鳴らしてから開けてください。」
「わかりました。」
門が閉まる音を後ろに聞き、階段を下っていく。
迷宮はどんどんと下に下っていく構造だ。
10階層ごとにボス部屋があり、それ以降の階層は見た目も変わる。
例えばこのダンジョンは10階層までは石レンガの壁だけのオーソドックスなダンジョンだが、11階層からは木々が立ち並んだダンジョンに変化する。
11階層以降がかなり厄介で視界が取れないのでどこから奇襲されるか分からない、現在は17階層までしか攻略は進んでいないようだ。
逆に10階層までは迷いやすいが不意打ちの心配は少なくなっている。
階段を降り切ると、先程説明したように石レンガの壁がズラーッと続いていた。
降りた傍はちょっとした広間になっていた。
ここはセーフポイントと言って5階層毎に存在している。
ここから行ったことのある階層間をワープしたりする事も可能な他、魔物が入ってこれないようになっている。
そもそも寄り付かないらしい。
俺達は初めて迷宮に入ったので1階層からだ。
そのまま道をまっすぐ進み、ダンジョン内を進んでいく。
明かりはないが不思議と明るい、このダンジョンの特徴だ。
何度か曲がり角に遭遇するが、迷わず進んでいく。
王様から貰ったアイテムの中に地図があるからだ、美里にナビゲートしてもらい、俺と誠也は周囲を警戒しながら進んでいく。
数分進んだ頃、奥の曲がり角から物音が聞こえた。
「なにか居る...!」
誠也が皆に伝える。
皆武器を構えて、徐々に近づく。
刹那、飛び出してきた!
それは素早くこちらに近づき飛びかかってくる!
灰色の狼に角が生えた見た目...ミドルハウンドだ!
合計3匹が先頭の誠也に襲いかかる、
2匹纏めて斬りつけるが空中で器用に姿勢を変えて躱される。
しかし姿勢を変えたせいか攻撃をせずに後ろに飛んでいく。
その隙を逃さず俺は腹部に剣で斬りつける。
腹部はミドルハウンドに限らずハウンド種の弱点だ、図鑑にそう載っていた。
腹部を斬りつけられたハウンドはキャン!と悲鳴をあげながらも着地してこちらを睨み付けてくる。
弱点とはいえ一撃では無いか...!
「サンダーボルト!」
美里の杖から大型の雷の矢が放たれる。
それは凄い勢いで手負いのミドルハウンドへと飛んでいく、ミドルハウンドは避けようとするが傷が痛むのか上手く避けられないまま直撃して今度こそ絶命する。
ナイスだ!
ハウンド系は火や風はダメだが雷は弱点だ!
残り2体!
襲いかかったうちの1匹は誠也に噛み付いているがアーマーのお陰か噛み付く位置を調節したのかものともしていないようだ。
あれはそのまま誠也に任せよう、もう一体が誠也の剣を潜り抜け後衛にまで入ってきている。
俺はミドルハウンドに牽制目的で魔法を放つ。
「サンダーアロー!」
当然ミドルハウンドは雷の矢を躱すが注意はこちらに向いた様だ。
俺は剣を構え、ミドルハウンドの腹部を見据える。
お互い動かない、絶妙な間合いを取り続けている。
先に痺れを切らしたのはミドルハウンドだった、こちらの頭部を目掛けて大口を開いて襲いかかってくる!
「魔法剣!放雷!」
俺は剣に手を滑らせて雷を纏わせながらミドルハウンドへと走っていく。
そしてもう噛みつかれる寸前の所でスライディングし、剣を上に構えミドルハウンドの腹部を大きく斬り裂いていく。
行き場を無くしたミドルハウンドはそのまま壁に激突し、動かなくなった。
最後!
誠也の方を振り向くと腕に噛み付いたミドルハウンドを壁に打ち付け、離れたところを剣で斬りつけた所だった。
しかし腹部には攻撃できておらず耐えている。
「魔法剣!射出!」
ミドルハウンドの着地隙を狙って剣を振る、先程まで剣に纏われていた雷はミドルハウンドの方へと斬撃の形を残したまま飛んでいく。
当然躱すことは出来ず直撃し、最後の一体を仕留めきる。
「これで3体、全部だな。」
周りを見渡して、そう告げる。
三体とも死んだふり等では無く完全に死んでいるようだ。
「ええ、助かりましたよ心。」
ガントレットの血を払いながら誠也が言う、
どうやら本当に傷は付いていないようだ。
なんという防御力。
俺はミドルハウンドの死体に近づき、お腹を深く切り裂く。
魔石を取り出す為だ。
魔石は魔物の体内にある万能エネルギーで、
あらゆる技術に使われている生活の要だ。
ミドルハウンドなら毛皮も売れるのだが流石に迷宮攻略中に毛皮を持ち歩くのは無理なのでポーチに魔石だけを詰めて行く。
誠也に結衣も傍の死体から魔石を取り出している。
「ごめんなさい...私見てるだけでした...」
結衣がそう言い頭を下げる。
「いや、ヒーラーはそんなものだよ。
確かに誰も傷つかなきゃ仕事は無いけど絶対に必要な役職だ。
もし怪我を負ったらその時は頼む。」
「う...うん!」
「そーだよ結衣、それに誰も痛い思いしない方がいいっしょ。」
結衣の顔が明るくなった。
良かった、戦闘中の邪念は即ち死を意味するからな。
「では先に進みましょうか」
俺達は再び地図を頼りに歩き始める。
ふと小声で誠也が喋りかけてくる。
「ナイスフォローですよ、心。
流石狙ってるだけありますね。」
「な...ばか!そんなんじゃ...!」
そう声を荒らげてしまう。
ふと後ろを向くと不思議そうな顔をしている結衣と、少しニヤついている美里が居た。
...美里にはバレたか...
少し顔が熱くなるのを感じながら前を向き直す。
誠也がくすくすと笑っていた。
こいつ覚えていろよ。
*Tips ハウンド種
ハウンド種は現在4種類が確認されている。
レッサーハウンド、ミドルハウンド、
チャンピオンハウンド、デスハウンドだ。
全ての種において腹部が弱点であり、風、特に火に強い耐性を持つ。
雷も弱点だがチャンピオンハウンド、
デスハウンドは魔法耐性が高くそもそも有効打にならない。
群れを成して襲って来る為、個の性能は低いが危険度は高めになっている。
森などに生息し、商人などを襲う厄介な生物だ。
ー魔物大全 第七項 ハウンド種について
より一部抜粋