石像との戦い
巨大な石像に向かって駆けだしたシエラとリグスは狙いを絞らせないために左右に分かれて石像を挟み込んだ。
石像が持っている剣は一本。
右手に剣、左手に盾だ。
石像が狙ったのは、シエラだった。
リグスに比べ、シエラの方が足が速い。それ故に石像は左手の盾側に向かったシエラに対して剣を振りかぶった。
「リグス!」
「わかってらあ! 対巨大生物用戦法その1ってんだろ⁉︎ 足元から崩すぜ!」
シエラに向かって巨大な剣を石像が振り下ろした。
迫る巨剣を跳んで避け、シエラは石像の手に魔銃剣の銃口を石像の手に向け、魔力で固めた弾丸を放った。
手を破壊できれば攻撃手段を奪えるという考えからだ。
しかし、手の破壊は失敗。
確かに直撃はしたが貫通力が高すぎたのか、穴を穿つだけにとどまってしまったのだ。
その直後、リグスが石像の膝裏に向かって盾を構えて跳んだ。
構えるといっても防御のつもりで構えていない。
肘を引き、リグスは膝裏に五角形の盾の角で殴り掛かった。
ガツンという鈍い音が大広間に鳴り響き、直後地響きが起こった。
リグスの膝裏への一撃で、石像が膝を地面に付いたのだ。
「んあ? なんだこいつ。見てくれの割にはなんか、なんつうか、軽いな」
石像に膝を付かせた当の本人であるリグスが怪訝な面持ちで石像と、盾を装備している自分の左手を見比べる。
そこに石像が剣を薙ぎ払うが、リグスはピョンと跳んで避けると再び石像に駆けだした。
「二人とも! 爆炎いくよ!」
体勢不十分。
片膝を付いた石像に左右から斬りかかるシエラとリグスが、石像に傷を付け、反撃を避けるために距離を取ったタイミングでナースリーが叫んだ。
駆けだしそうになっていたシエラとリグスが足を止めたその直後。石像の頭部と胸部付近に魔力が集中。チカッと火花が散った次の瞬間石像の胸から上が爆発し、爆炎が石像を包んだ。
「やったか!」
「ああ! リグスの馬鹿! 冒険者の鉄則忘れて言ったわね⁉︎」
冒険者の鉄則の一つ。止めを刺す前に「やったか」と言わない。
フラグがどうのこうのというわけでなく。希望的観測は油断や隙を生む要因になりえるから注意しろ、という戒めのような物である。
そんな鉄則を破ったものだから、リグスの幼馴染であるナースリーは顔を赤くして怒った。
そして、リグスが鉄則を破ったから、というわけではないが、爆炎を振り払うように石像が盾を地面擦れ擦れで薙ぎ払った。
狙われたのはリグスだった。
「ちょ! おま! 待て待て!」
身体強化魔法を発動し、盾を盾で迎え撃つ為腰を落として両足を踏ん張るリグス。
結果を考えれば、いくら魔法を使って体を強化したところでリグスが弾き飛ばされて大怪我を負う未来しか見えないが、そうはならなかった。
間一髪。
マリネスがリグスの盾と石像の盾の間に魔法で障壁を創り出して石像の一撃を防いだのだ。
「あっぶねえ! すまねえ助かった!」
「リグス! 今!」
魔力で作った障壁を維持しているマリネスに礼を言ったリグスに、石像に向かって駆けながらシエラが叫んだ。
石像が盾を装備している左腕に乗り、肘に向かって一気に駆け上り、シエラは聖剣を振り上げる。
しかし、魔力を聖剣に流し込み振り下ろそうとするシエラを、石像が腕を振って振り落とそうとした。
体勢を崩し、足を滑らせ肘からシエラは落下するが、体を回転させ無理やり剣を振る。
それが功を制した。
石像の片腕はシエラの魔力による斬撃で吹き飛んだばかりか、片足も欠損。
石像は体勢を崩して仰向けに倒れる事になった。
「ナズ! マリィ!」
絶好のチャンスに、猫のように体を翻して着地したシエラが叫んだ。
その声に応えるようにマリネスとナースリーは魔法をそれぞれ発動。
マリネスは地面から岩の杭を。ナースリーは空中から石像に向かって氷の槍を。足の先から頭の先まで出来るだけ高密度になるように無数に刺し貫いていく。
流石に倒した。
四人全員がそう思った。
しかし、この石像。悪あがきと言わんばかりに手に持つ剣をマリネスとナースリーに投げつけた。
その剣に反応したのはリグスだ。二人を庇うように前に出て、盾と剣で飛来した剣を受ける。
その直後、リグスがからくも受け止めた巨剣を駆け付けたシエラが聖剣と魔銃剣にて打ち上げ、子供達は事なきを得た。
ぐったりと腕を倒す騎士の石像。
その首に、シエラが打ち上げた巨剣が落下し突き刺さり、石像の頭を地面に転がせた。
それ以降石像が動くことはなかった。
「おお! やったぜ! 倒せたじゃん!」
「なんだろう。思ったほど強くなかったし、硬くもなかったかも」
「先生との特訓の成果かも!」
喜ぶ子供達。
その後ろでズルズルっと何かを引きずる音が聞こえ、子供たちは恐る恐る振り返る。
そこで起こっていたのは、石像の再生だった。
シエラが落とした腕も脚も首も。マリネスとナースリーが穿った無数の穴も、みるみる内に再生していく。
「うげえ。そういうヤツかよ」
「もう一回やろう」
「しゃあねえよなあ。倒すまで付き合うぜ」
リグスの言葉に応えたシエラに、リグスは冷や汗を滲ませながら苦笑する。
修復させまいと攻撃を行う子供達だが、どうやら修復中は強力な魔法障壁が出現するらしく、石像の再生を止めるには至らなかった。
体勢を整える為に石像から距離をとる子供達を、立ち上がった石像は剣を振りかざして威嚇する。
行くしかない。
シエラが意を決したその時だった。
石像の背後。広間と通路を塞いでいた太い木の幹のような蔓が吹き飛んだ。
「おお。無事か!」
「流石勇者ちゃんのパーティだ。やるねえ」
通路から現れた最愛の父とその友人。
二人は石像など気に留める様子もなく、石像の股の下を通って子供たちと合流しようとする。
そんな二人の事を騎士の石像が放っておくはずもない。
完全に再生した石像は、足元のリチャードとアルギスを盾で押しつぶそうと腕を上げ、そして、最上段から一気に盾を振り下ろしたのだった。




