表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/115

地龍討伐

 巨大な地龍が空中の巨大な水球では無く、滞空するアルギスとシエラを仰いだ。

 咆哮を上げるでなく、開かれた口に魔力が集中していく。

 龍種の魔物が放つ火球や熱線が放たれるかと思われたが、どうやら違う魔法の予備動作のようだったが、待つ義理も無い。


 アルギスは隣に滞空させたシエラの肩にポンと手を置き「さあ今だよ」と優しく言って微笑んだ。


 目深かにフードを被るアルギスの言葉に頷き、シエラは渡された呪文と魔法陣の書かれた紙を取り出し、手を翳して呪文の書かれた紙の魔法陣に魔力を込めていく。


 そして、同時に書かれた呪文を読み、詠唱は開始された。


「深淵より湧き上がりし、激流を生み出す水の力よ。我が目前に立ちはだかる障壁にその楔を打ち込み、水の女神の力を解き放て! アクエリアス・ウェッジ‼︎」


 アルギスと違い、叫ぶように詠唱したのはこれが初めて唱えた完全詠唱の魔法だったからだ。

 間違えるかも知れないという不安を振り払うように詠唱を行ったシエラの言葉に応えるように、水球に刻まれた六芒星の魔法陣が蒼く輝く。


 すると、巨大な水球の形に変化が現れ、その形状が槍の切先のように変形していく。

 

 そして、その巨大な水の刃が落下を始めた。

 眼下で口を開く地龍にただでさえ超重量だった水球が、形を変え、速度を増して地龍を穿つ。


 地龍の背を穿った巨大な水の楔が地龍を貫通し、湖底に地龍を縫い付ける。

 

 しかし、それでも地龍は息絶える事はなく、水の楔に穿たれながらもアルギスとシエラに口を開けてみせる。

 その瞬間、楔の形が崩れた。

 楔の上部から崩れた水が、地龍を飲み込むように降り注ぐ。

 

 それだけならば静観するが、土手には父や友人が。

 湖の付近には兄弟子達のパーティもいる。

 このままではみんなを大量の水で押し流してしまう。

  

 そんな事が頭を過り、シエラは心配そうにアルギスの顔を仰ぎ見るが、アルギスは大丈夫とでも言うかのようにシエラに頷いて見せると、ローブのブカブカの袖からサファイアのような青く輝く鉱石を取り出した。


「では第3節目。コレで最後だ。

 クリスタルの輝きよ。氷の結晶を呼びよせん。此身に宿りし力を解き放ちて、我が敵を封じ凍てつかせん。氷花グラキエス・フロス


 アルギスの詠唱で地龍を包むように落下した大量の水全てが瞬時に凍った。

 土手に迫る手前で止まった水も時間が止まったかのように凍り付き、魔法名の表すようにシエラから見た凍った湖面は光を反射する花弁を広げた花のように見えた。


「ふう。はあ〜。なんとかなったねえ、ありがとう勇者ちゃん、おかげ様で随分と楽に終わったよ」


「た、倒したの?」


「コレで生きてるならもう僕達では倒せないかなぁ」


 地上にゆっくり降りながら、シエラの質問にアルギスは冗談ぽくニヤッと笑う。

 地面に立ち、父や友人達に迎えられ、シエラとアルギスは土手の上でみんなと合流、土手の下では地龍討伐軍が集まり始め、喝采や歓声を上げている。


「やったなシエラ! 本当によくやったぞ!」


 父リチャードがシエラを抱き上げ、その場でくるくると回ってみせた。

 初めて見る父のハシャギっぷりにシエラは少しばかり恥ずかしくなるが、エドラの街に、ひいてはグランベルクに迫った脅威を退けた事に実感が湧いてきてシエラの頬も緩む。


 眼下には兄弟子たち、緋色の剣の面々の姿も見え、討伐軍に混じって歓声を上げている。


 シエラ達エドラの街の軍と冒険者達は巨大地龍を王都の討伐軍を待たずに撃破したのだ。


 ここにいる全員が地龍撃破に興奮し、熱狂し、安堵している。


 そんな時だった。

 グラッと地面が揺れた。

 

 地龍が動き出したのかと、戦勝ムードから一気に静まり返るシエラ達。

 だが、巨大な氷の花に包まれた地龍が動く気配は微塵もない。


 ただの地震か、と誰もが皆胸を撫で下ろす。


 その瞬間だった。


 シエラ達の立つ土手が盛り上がり、地面を揺らしながら地中から地龍の頭部が現れた。

 口を開けた頭部がシエラ達を挟み込むように現れたのだ。


「勇者ちゃん! 飛べ!」


 咄嗟に叫んだのはリグスとナースリーを抱え上げたアルギスだった。

 アルギスの焦った声色にシエラも焦り、リチャードの手を取り、マリネスに手を伸ばして掴み、魔力を放出して空へと向かう。


 しかし、一歩というべきか、少しばかり行動が遅かった。

 地中から出現した地龍の頭部は、土手の上にいたシエラ達をその巨大な口で丸呑みにしたのだ。


 それをただ見ているだけの兄弟子達では無かった。


「テメェ! 何してくれてんだあ!」


 地龍にシエラ達を飲み込ませまいとゼジルとフウリ、獣人コンビが喉に何度も打突を加え、ミリアリスとリンネが氷の刃を地龍の目に目掛けて放つ。

 そして血走った目のトールスが全身に雷光を纏い、地龍の首を裂こうと大剣を横に薙いだ。


 その瞬間、地龍の首が崩れて消えた。


 落ち葉を集めて作った山に剣を振り抜いたような感覚だけが、トールスやゼジル、フウリの手に残る。

 いや、もはや手ごたえと呼べるものは3人の手には残っていなかった。


 溜めた落ち葉を崩すように地龍の頭部が地龍討伐軍の目の前から消えていく。


 その中に、シエラ達の姿は。


 無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=53746956&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ