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父と娘、背中を預けて

 地龍討伐軍が奮戦している頃、シエラ達も戦闘に突入していた。

 敵は地龍と討伐軍との戦闘の余波で逃げ出した魔物達。

 湖を迂回し、四方へ散っていく鹿や熊などの動物達。

 そんな動物達に混じって腹を空かせた魔物達が人間の匂いを嗅ぎつけ、土手を駆け上がってくる。


 特に、熊が魔物化したフォレストベアーや猪が魔物化したフォレストボアなどの大型の魔物達はよだれを垂らし半ば狂乱状態でシエラ達に迫った。


 湖のそばの土手を左右から挟み込むように、獲物である人間を喰うのは自分が先だと言わんばかりに大型の魔物達が迫っている。

 

 そんな魔物達を一瞥すると、リチャードはシエラに「槍とアックスを頼む」と言いながら愛剣を利き腕では無い左手に持ち換えた。

 

「はいこれ。アックスはどうするの?」


「アックスはそこに刺しておいてくれ。背中は任せるぞ、みんな」


「ん。頑張る」


 両手槍をアイテムポーチから取り出し父に渡すと、続けて取り出した束の長い、大凡おおよそ並の子供では持ち上がりすらしないバトルアックスをシエラは刃を下にして地面に突き刺す。

 そして、シエラ達のパーティ、アステールは各々武器を構えて敵に備えた。


「ふぅ。よし、行くぞ」


 リチャードが、合図とばかりに身体強化魔法を発動し、シエラに渡された槍を先頭のフォレストボアに目掛けて投げ付けた。

 さながら弓から放たれた矢。

 いや、銃から放たれた弾丸という方がしっくりくるだろうか。

 リチャードが槍投げよろしく投擲した槍は先頭のフォレストボアを易々と貫く。

 そして更には後続のフォレストボアやフォレストベアーを立て続けに貫いた。


「お〜。スッゲェ」


「ん。お父さんカッコ良い」


「ほらほら、こっち見てないで前を見なさい前を」


 父の一投一撃にそれを見ていたシエラとリグスが感嘆の声を漏らす。

 そんな二人に苦笑を浮かべ、肩越しにチラッと後ろを見ながらリチャードは言うが、問題はなかった。

 

 リチャードに注意されるまでも無く、シエラは魔導銃から熱線を放ちシエラ達の方に迫っていたフォレストベアーの頭を撃ち抜いた。

 その死体を踏み潰しながら迫るフォレストボアの進行を、ナースリーとマリネスが土魔法を用いて地面を隆起させ、壁を作って防ぐとリグスがその壁を飛び越える。

 そして硬い土の壁に激突して無防備なフォレストボアの頭にリグスは剣を突き立てると仕留めてみせた。


 剣を突き刺し、隙が生じたリグスを別のフォレストベアーが襲うが、フォレストベアーの目論見はシエラの首への聖剣での一閃により叶わぬ夢となる。


「お父さんやったよ。見てた?」

 

 目の前に迫っていた魔物達3頭をまず仕留め、後続が来ない事を確認して後ろを振り返るシエラ達。


 しかし、父親は、子供達の師は更に魔物を仕留めていた。


 リチャードはシエラ達が3頭を仕留める間に倍の6頭もの魔物達を討伐していたのだ。


 最初に仕留めた3頭を含めれば9頭で3倍。


 最初の3頭を仕留めた後に迫ったフォレストボアを後ろ回し蹴りで頭部を横から蹴り飛ばし、ついで愛剣による頭部への刺突で仕留める。

 そして後続が怯んだ隙に剣を鞘に納め、バトルアックスに手を掛け走り出し、フォレストベアー2頭の間に走り寄ると横薙ぎに2頭を薙ぎ払い、胴体を上下に分けて仕留めた。

 

 これで最初の3頭を含めて6頭。


 それを見て怒り狂ったか、迫ってきたフォレストベアー3頭の内一頭をバトルアックスを大上段から振り下ろして真っ二つに。

 地面にめり込んだバトルアックスから手を離し、迫る2頭の内1頭の首を切断。

 残る1頭は刺突にて眉間を貫き仕留めて、あっという間に9頭を討伐したのだ。


「持って帰ればしばらく肉には困らんな」


「お肉ばっかりだと飽きちゃうよ?」


 返り血に濡れたリチャードを見た魔物達が尻尾を巻いたか、土手を降って逃げて行く。

 その様子を眺めながら呟いたリチャードに手拭いを差し出しながらアルギスが言った。


「魔法陣は無事か?」


「ああ大丈夫。ちゃんと守ったよ。全部ね」


 リチャード達が戦っている間、アルギスはアルギスで魔法陣を守る為、戦っていたわけだ。


 この戦いで流れた魔物達の血の臭いが魔除けになったか、土手を上がってくる魔物達は随分減った。

 上がってきても同族の死体に恐れを成して逃げていく。


 そんな魔物達の襲撃もしばらくすると無くなった。

 土手の上に置かれた熊や猪の死体をシエラが「お肉、お肉」と、ほくほく笑顔でアイテムポーチで回収していく。


 そんな様子を見ていたリチャードは「うちの娘は逞しいなあ」と今の状況を忘れたように微笑みながら眺めていた。


 だが、そんな和やかな雰囲気をその日でもっとも大きく響いた雷鳴が切り裂いた。


「近付いてきたな」


「そろそろ本番だね。じゃあみんな、覚悟は良いね?」


 リチャードとアルギスの言葉に、シエラ達の顔に緊張の色が浮かぶ。

 そして雷鳴が聞こえた方向である西の森の方角に目をやると、そこにはいつの間にか小高い山が出現していた。

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