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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
後日談から始まる物語
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ふと思い出す親の温もり

 婚姻の儀から数日。  

 リチャードの家で3人一緒に暮らしていた事もあって、3人の生活リズムや関係が急激に変わったのかと言われれば、特に何かが変わったわけでもない。


 リチャードとアイリスが結婚したから、というよりも新しい家族を迎える為の準備が始まったのが親子3人にとっての変化と言えた。


 ある日の事だ、シエラが友達のリグスやナースリー、マリネスと4人で見習い用のクエスト。

 この場合、犬の散歩やら、側溝に迷い込んだスライム退治やら比較的簡単なクエストをこなした帰り道、すれ違った女性が赤ん坊を抱いて歩いているのをシエラは見た。


 幸せそうに赤ん坊に話しかけている母親を見て、その姿に本当に自分の母親になったアイリスの姿がダブって見えて、無性にアイリスに会いたくなり、同時に、まだ弟か妹かも分からない新しい家族を想像して、いても立ってもいられなくなったのか、ギルドへのクエスト完了報告を終えた途端「ごめん、ちょっと待ってて」と駆け足でギルドマスターの執務室へと向かって行ってしまった。


 そんなシエラの様子に友人達は「あらら、行っちゃった」と苦笑するが、仲の良い彼、彼女らは「まあちょっと待つか」と受け取った小遣いのような報酬で甘味を食べながらシエラを待つ事にした。


 3人を置いてシエラは執務室のある2階へ駆け上がり、母の執務室の扉を勢いよく開けようとするが、シエラは先手を打たれる事になった。


 誰かが駆け上がってくる足音から緊急の用かと感じたアイリスが中から執務室の扉を開けたのだ。

 そして驚いて硬直しているシエラをアイリスは抱き上げた。


「あら? いらっしゃい我が愛しのシエラちゃん。ああ、仕事の合間の束の間の癒し! 会いに来てくれてママ嬉しいなあ」


「マスター、まだ書類が山ほど残ってるんですが」


 シエラを抱き上げたアイリスに執務室の中から声を掛けたのはこのギルドのサブマスター、モノクルを掛けた猫型の獣人族の女性、ミニア・ミラーナ。


 限りなく人に近しい獣人種で吸い込まれそうな闇に近い黒髪の彼女は現在、ギルドのサブマスターを務めているが、アイリスの元パーティメンバーでもある。


 アイリスとは違い、グラマラスな体型で、出るところは出ており、ウエストは括れ、まさに妖艶な雰囲気を醸し出している。

 身長も高く、街ですれ違えば舞台女優と間違えてしまいそうな程だ。しかし、何故か見た目の妖艶さと真面目で義理堅い性格なのに男が寄り付かない。

 兎にも角にも目付きが悪く、キツイ印象を受けるからだ。

 そんな彼女はアイリスが信頼を置く人物の1人でもある。


「シエラさん、今日はどうされました?」


「ママに会いたくなって。ダメだった?」


 この街のギルド職員にギルドマスターの娘であるシエラの事を知らない者はもういない。

 アイリスには悪態をついて見せたミニアだったが、シエラの言葉と上目遣いにミニアはまるで子猫でも見つけたかのように頬を緩めた。

 

「っあー。可愛いいなあシエラさん。私もこんな娘欲しいなあ」


「アンタの場合相手が先でしょうに」


「マスターは良いですよねえ、旦那様と娘さん同時に手に入れましたもんねえ」  


「ふっふーん。私の一途な想いが通じた結果よ!」  

  

 シエラを抱えたまま、これがドヤ顔だと言わんばかりにニヤリと笑うアイリスに、ミニアは悔しそうに眉をひそめると肩を落とす。


「ま、まあその話は置いておきましょう。シエラさん。マスターはまだ仕事中なのですが、何か急用ですか? 手短にお願いしますよ?」


「……ミニアさんの意地悪」


「ぐふぅ」

 

「ミニアは意地悪よねぇ。でも言ってる事は間違ってないから嫌わないであげてね」


「ん。大丈夫、ミニアさんは嫌いじゃない」


 あからさまに落ち込むミニアにシエラは微笑む。

 すると気を良くしたか、ミニアは嬉しそうに笑うと「飲み物持ってきます」と執務室を出て行ってしまった。


「ママごめんなさい。でもどうしても会いたくなって」


「良いの良いの。私もシエラちゃんに会いたかったし。でもどうしたの何かあった?」


「さっき街で赤ちゃんを抱っこしてる人見て、それでママに会いたくなちゃったの」


「あらあら。シエラちゃんは甘えん坊ねえ」


「だって。弟か妹が産まれたら甘えられなくなるから」


「どうして?」


 シエラを抱えたまま、アイリスは執務室の椅子に座ってシエラを膝に乗せたまま机の上の書類に目を通してはサインを書き、その上に魔力を込めたインクの付いた印を押していく。


「私、お姉ちゃんだから、色々我慢しなくちゃ」


「我慢なんてしなくて良いのよ。我が子に優先度なんて無いんだから。シエラちゃんもお腹の子も、私とパパにとって大事な子供よ。だからいっぱい甘えて良いの」


「良いの?」


「ええもちろん。寧ろ甘えてくれないとママ悲しいなあ」


「ん。分かった。じゃあいっぱい甘える」


 アイリスの言葉に甘え、シエラがアイリスを抱きしめたそんな時、いつの間に帰ってきていたのか、トレーに水の入ったコップを乗せたミニアが尻尾で執務室の扉を閉めた。

 

「アイリスが、んん。失礼、マスターがちゃんと母親をしていると違和感が凄いですね」


「あら? それはどういう事かしら?」


「あの戦闘狂が変われば変わるものなのだなと感心しているんですよ」

 

「それは褒めてるのよね?」


「ええ、もちろんですマスター」


 シエラはミニアから受け取ったコップの水を飲み、アイリスとミニアの会話に耳を傾ける。

 そして、自分の知らない母親の昔の話をしばらく聞いて満足したのか、シエラは2人に「じゃあそろそろ行くね。2人とも仕事頑張ってね」と言うと執務室を出て友達の待つ一階へと降りていった。

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