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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
寒冷期事変

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待ち伏せ作戦開始

 テントの中で子供達を寝かせ、体を冷やさない様に焚き火の番を交代で行い、その日の晩を何事もなく過ごしたシエラ達。

 

 子供達の中では一番最初に目を覚まし、朝食を食べ、装備の点検を済ませると、シエラは一人で湖を見下ろす丘の上に立ち、霧で全容は見えないが朝日で照らされた湖面と、湖面側に広がる芝よりは長いが決して背の高く無い朝露で輝く緑色の草の絨毯を眺めた。

 

 そこでシエラの中に一つの疑問が浮かび、湖と反対側、竜車を止めた原野側へと歩き、その先を眺める。


 そんなシエラの行動を見ていた父、リチャードが「どうした?」とシエラに声を掛けながら近付いていった。


「今は寒冷期なのになんで湖が凍ってないのかなあって思って。土手も湖側は雪も積もってないし。変だなあって」


「ああ。今は植物が生えるくらいには温度が下がっているが、トールスとリンネの喧嘩で吹き飛んだ山に出来た大穴は岩が焼ける程には高熱に晒されてね。山が吹き飛んだ直後はこの辺り一面火山の火口付近と間違えそうなくらいには熱かったよ」


 雪の積もる原野に背を向け、リチャードは湖に目を向けると、思えば自分が所詮は常人だと強く実感したのはあの時だったかと、当時の事を思い出しながらリチャードは苦笑した。


「それ以来、湖の中心から放射状に土手辺りまではリンネ達の魔力で地下の竜脈が活性化されたらしくてね。地面自体が少しばかり温かいのさ。とはいえ、当時は荒れ果てた荒野のような有様だったからね。幾分か竜脈も落ち着いてきているようだ。その内この湖も自然の流れに身を任せるようになる……筈だったんだがなあ」


「ならないの?」


「今回の地龍の足止めにこの場所を使うからな。まあ地形は間違いなく変わると思う」


「兄ちゃん達じゃ止められない?」


「トールス達を信じていないわけじゃない。だが、それで済むなら月の女神様がアルギスに、水の女神様がシエラに、神託を降ろすとは思えなくてね」


「あ〜、え〜? でも山を湖にしちゃう兄ちゃん達だよ?」


 父の隣に立ち、困ったように苦笑する父の顔を見上げながら、ぶーたれるように湖の方を指差し、シエラはそう言うと視線をリチャードから湖に移した。


「まあ確かにシエラの言う通りだが。しかし、油断は出来ない。もしもの時の為に、私達はここに来たわけだからね」


 隣に立つ娘の頭にポンと手を置くと、リチャードはすぐにその手を退けて、地図を広げて焚き火に背を向け、何やらブツブツ呟いているアルギスの方へと向かっていった。


 そんな父の後を追いかけて、シエラも焚き火の近くへ歩いていく。

 焚き火の周りでは起きてきたリグス達が朝食のスープを木のスプーンで掬い、啜っていた。


「どうだアルギス、なんとか出来そうか?」


「地龍の大きさが正確に分からないからなんとも言えないけど、この地形を最大限利用しようと思う」


「というと?」


 リチャードの質問に答えたアルギスに、シエラが聞き返した。

 大事な作戦の話だ、ここにいる全員に聞かせる為、アルギスは魔力で字を書く要領で簡易的ではあるが、地図の写しを焚き火の真上に作り出した。


「この土手の上、六箇所に魔法陣を仕掛ける。火魔法の反転属性である氷魔法の魔法陣だ。湖の大量の水を使って、おびき出した地龍を氷漬けにする作戦、ってのはどう?」


「私もこの湖に誘い出して沈めるか、出来なくても足止めして囲んで叩く算段だった。凍らせる事が出来るなら、それはそれで有りだな。準備にどれくらい掛かる?」


「今日中には終わるさ、手分けすればね」


 ニコッと笑いながら答えるアルギス。

 そんなアルギスに、シエラや子供達だけでなく、リチャードも自信無さげに眉をしかめる。

 この時代の魔法は完全無詠唱だ、魔法発動に伴って魔法陣が浮かび上がる事はあっても、わざわざ魔法陣を描いてから魔法を発動させる事はない。


 故に。リチャード含め、子供達もみんな魔法陣学を学んでいない為、魔法陣が描けないのだ。


「アルギスさん。私達、みんな魔法陣描けないよ?」


「ええ⁉︎ そうなの⁈ そっかあ今時の子はみんな無詠唱だもんねえ、リチャードは?」


「私も魔法陣を描く事は出来んよ。詠唱魔法すら過去の遺物の現代で、魔法陣学を修めている人間などいるものか」


「うぐ、世代のズレを感じる」


 子供達のみならず、友人にまで"古い"と言われてアルギスはガクッと肩を落とした。

 そんなアルギスの肩に、シエラが慰めるように手をポンと置く。


「お爺ちゃん落ち込まないで」


「そうだぞアルギス爺さん。落ち込んでる暇なんて無いぞ?」


「お爺ちゃんって言わないでくれよ! 見た目は君より若いし、なんなら精神も君より若いつもりだぞリチャード!」


「いや、見た目はともかく精神はもうちょっと大人になれよ」


 アルギスを挟んでシエラの反対側で、シエラと同じように肩に手を置いて言ったリチャードにアルギスが項垂れた。

 その様子を見ていた子供達は苦笑し、冷や汗を浮かべる。


「と、とにかく。それなら指定した位置の地面に円を書いて、その内側に六芒星を円に接するように描いてくれるだけで良い。細かい呪文は僕が書き足すから、頼むよ」


「ん。分かった。大きさは?」


「大きければ大きい程良いけど、そうだなあ最低でも両手を広げたくらいが良いね」


 こうしてアルギスが地図に示した場所に、アルギス、リチャード、子供達の三班に別れて向かう事が決定し、子供達が朝食を食べ終わるのを待って行動を開始。

 

 シエラ達の地龍待ち伏せ作戦が開始された。

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