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恋心と共に北へ

 先行した冒険者や軍人達が雪を吹き飛ばし、その後を後続の一団が雪を巻き上げながら白銀の原野を進んでいく。


 太陽の光に反射して輝く雪が視界を塞ぐのを、各車の御者が魔法で更に上空へと巻き上げる様はさながら煙突から立ち昇る白煙のようだった。


 日が高く登った辺りで竜車を引く草食竜や馬車を引く馬の休憩の為にエドラの街から発った一団は進行を停止。

 人が居ないことを確認した後雪を適当に吹き飛ばすと昼食を食べる為に思い思いに風呂敷を広げてパーティ毎に休憩とした。


「シエラ、サンドイッチを」


「ん。はい、お父さん」


 リチャードに言われ、シエラは腰のマジックポーチからサンドイッチの入ったバスケットを取り出すと、それを開いて自分達の班に配って歩いた。


 地図を広げ、進行方向を確認するリチャードと、それを横から覗き込みアルギスが何やらリチャードに言いながら地図を指差している。

 その様子を後ろから眺めながら、シエラはマリネスの横に座り込むと自分のサンドイッチを頬張った。


「マリィは家族と一緒にいなくて良かったの?」


「うん。良いの、私はシエラちゃんの、えっとあの、お、お嫁さんだから」


 マリネスの言葉にシエラが頬を染める。

 その様子を横目に見ていたリグスが「まだ違うとか言うなよ?」と照れて返答に困っているシエラの退路を塞ぐ。


「マリィは本気で私のお嫁さんになるつもりなの?」


「うん。駄目?」


「駄目じゃない。駄目じゃないけど」


 何故そんな事を聞いたのか、シエラにもそれは分からなかった。

 同性婚が珍しい世界でもないこの世界だが、それでもやはり大多数は異性と婚姻を結び、子を成し、歴史を紡ぐ。

 結局のところ、シエラはマリネスの気持ちを確かめたかったのかも知れない。

 冒険者を辞め、貴族として他家へ嫁ぎ暮らす。そんな未来と、自分と一緒に冒険者として暮らすのはどっちがマリネスにとって幸せか。

 自分が好きになった女の子の本心をシエラは聞きたかったのかも知れない。


「あのさあシュタイナー。お前、セルグの事好きなのは分かるけど、あんまり困らせるのは良くないぞ? 母ちゃんに昔っから言われてんだけどさあ。冒険者になったらいつ死ぬか分からないから、後悔しないように好き嫌いはハッキリしとけって」


「いやリグ、多分シエラちゃん好き嫌いがどうとかじゃないよ。マリィちゃんに好きって言って欲しいんじゃない?」


「え? ああ、そうか。セルグは貴族だもんな、シュタイナー家とは交流あった方が良いわけだし、政略結婚かもって思ってるわけか?」


「ち、違う!」


 リグスとナースリーの話を聞いていたシエラが不意に声を上げた。

 普段聞いた事の無いシエラの大声に驚き、リグスやナースリー、マリネスだけでなく地図を見ていた大人2人も驚いてシエラを見て目を丸くしていた。


「ああいや、ごめん。そんなつもりで言ったわけじゃ」


 聞いた事の無いシエラの大声に驚き、リグスが気まずくなって謝ってしまうなか、当のシエラはというと隣のマリネスの顔を見て先程より顔を赤くしていた。

 図星だったのだ。

 マリネスが自分に入れ込んでいるのは父や母、シュタイナーとの繋がりの為なのでは無いかと、いつからか考えてしまうようになっていたのだ。


「マリィ、私」


「違うよシエラちゃん。私はシエラちゃんが好きなんだよ? シエラちゃんが例えリチャード様やアイリス様の娘じゃなくたって、私はシエラちゃんを好きになったよ」


 マリネスも、もちろんシエラがリチャードが拾った捨て子だという話は聞いている。

 それでもマリネスの初恋はシエラだったし、恐らくこれから先もそれは変わらないだろう。好きに理由などいらないのだから。

 

「シエラ、マリネス君、そう言うのは帰ってからゆっくりな。まずは今回のクエストを生き残らないとならないからね」


 リチャードの言葉にシエラとマリネスが顔を見合わせてお互い林檎のように顔を赤くする。

 その様子をリグスとナースリーが苦笑しながら眺めていた。


「さて、休憩を終えてもう少し進んだら我々は北に逸れる。目指すはクラテル地帯、ここに罠を仕掛けて待ち構える」


 リチャードが手の平を打って鳴らし、娘達の意識をこちらに向けると地面に敷いている敷物の上に地図を広げた。


 エドラの街と国境近くの砦、そして地図に指を差した場所を結ぶと潰れた二等辺三角形のように見える頂点。

 シエラ達の班はそこを目指す為、休憩を終えるとリチャードがトールス達に行き先を伝え「何度も言うが無理はするな」と言って別れ、アルギスの魔法で雪を吹き飛ばした後竜車を北に向けて出発した。


 手を繋いで座るシエラとマリネス。

 シエラの中に、父や母、妹に向ける感情とは違う"好き"がマリネスに対して確かに芽生えていた。

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