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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
寒冷期事変

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出撃前日

 国境近くの砦からワイバーンに乗って飛び立った翼竜騎兵が全力で相棒に飛んでもらい、エドラの街に辿り着いたのが翌日の昼頃。

 エドラの街の西門に墜落する様に降り立ったワイバーンを見て、エドラの門兵がワイバーンから滑り落ちる様に降りてきた騎兵に駆け寄った。


「だ、大至急エドラの領主様にお目通を、至急伝えねばならぬ用件がある故」


「もしや地龍の件か? なら大丈夫だ、既に領主様の耳には入っている。今、全軍出撃準備中だ。冒険者の中には既に発った者もいる」


「は? え、な、何? 馬鹿な、私より早く砦からの連絡など」


「昨日、領主様の屋敷に、神託を受けた特級加護持ちが二名、地龍の出現の報を女神様から受けたと言って訪れてな」


「特級加護、その2人の話を信じたのか?」


「まあ一人は元宮廷魔法使いだし、もう一人に関しても神隠しから帰還した、最も神に近付いた少女だったと言う話だしなあ」


 昨日、エドラの領主の屋敷を訪ねた特級加護持ちと言うのは、人間を辞めた魔法使いアルギスと、冒険者として人間を辞めるつもりで修行に励んでいる少女、シエラの2人だった。


 2人は領主と面識のあるリチャードに連れられ、領主宅を訪問。

 領主に地龍出現と進行方向を伝えてエドラの街、ひいてはグランベルクに未曾有の被害が及ぶと進言。


 エドラの領主は「元宮廷魔法使いや天使、聖人に言われては」と、すぐさま行動を開始。


 エドラ軍、全軍招集と街に滞在している全冒険者の招集、王都への翼竜騎兵派遣を行ったのだ。


「あの、アルギスが元宮廷魔法使いなのは先程ご覧頂いた勲章から真実だと理解はして頂けたようですが、娘が天使で、私が聖人と言うのはなんの冗談です?」


 エドラの領主の屋敷にて状況を報告した際に領主に言われた言葉にリチャードは苦笑しながら領主に聞いた。


 そんなリチャードに、がっしりとした体格で、よく鍛えられていると一目でわかる、短い金髪で整えられた口髭を蓄えた領主は何を今更言っているのかと言わんばかりに目を丸くして苦笑をリチャードに返した。


「神の使いである羽根鯨。かの鯨が出現した日に行方不明になった君達の話は私の耳にももちろん入っていたよ。奥方からも捜索要請があったしねえ」


「そ、その節は妻がご迷惑を」


「何を言っている、緋色の剣のリチャード・シュタイナーと言えばエドラの街の英雄でもあるんだぞ? 協力せんわけあるまい。とは言え捜索しようにも神の御業みわざである転移魔法を使われてしまってはと、捜索は止めざるを得なかった」


 約二年前の神隠し事件の当時の様子を、領主から初めて聞いたリチャードは改めて、皆に迷惑を掛けてしまっていたんだな、と反省するのだが、それは間違いだ。


 あの時、リチャードとシエラを転移させたのは、あくまで水の女神、アクエリアの独断なのだから。


「そんな君達親子が自力で神隠しから帰還したのだ。神の御業をその身に受けてな。それはつまり君達が神に選ばれたと言う事じゃないか。故に君は神に選ばれた聖人で、その娘は天使と言うわけさ」


「いや、シエラ、特級加護を持っている娘はともかく私は」


 領主の言葉に反論しようと口を開いたリチャードだったが、そんなリチャードの主張は「それに」と言う領主の言葉に遮られ、応接室のソファから身を乗り出そうとしたリチャードの鼻っ面を抑える様に話を続けた。


「結婚式の話も聞いたぞ? 一部の神どころか六神全てに祝福されたそうじゃ無いか。そんな事例、王族の婚礼の儀ですら聞いた事無いぞ」


 領主の言葉に「それは、まあ確かに」と前例の無かった現象の数々に説明が出来ずにリチャードは反論する事が出来なくなってしまう。


「そんな君達の話だ。信じるより他無いだろう。協力は惜しまない。頼む、エドラを、グランベルクを護ってくれ」


 こうして領主に協力を願いに来たリチャード達は、逆に領主に協力してくれと請われ、それを承諾。

 リチャードとシエラは一度家に帰り、アルギスは診療所にいる弟子のリンネの元へと向かった。


「またお母さんに怒られるかもなあ」


「大丈夫だよ。今度は急にいなくなるんじゃないんだし」


「ああ、いや。そうじゃなくてな」


 リチャードは自宅の玄関の前で扉を開く寸前で躊躇うように呟いた。

 シエラはそんな父のコートの裾を掴み、苦笑する父の横顔を見上げるが、父の言った言葉を数分後には理解する事になる。


「地龍退治⁉︎ 皆で⁉︎ ズルい! 私まだ万全じゃないしセレネもいるから行けないじゃない⁉︎」


 帰宅して、領主との話し合いの結果を話したリチャードに対する妻、アイリスの第一声だった。

 このアイリスの言葉に寝ていたセレネが目を覚まし、泣き出すかと思うとキョトンとした目でアイリスを見上げた。


「あ、ごめんねセレネ。起こしちゃった」


「いやもう、本当に頼むから大人しくしててくれよ?」


「ぐぬぬ。仕方ないわね。じゃあ約束、絶対無事に帰って来て、怪我も許さないからね」


「おいおい、任務の難度を跳ね上げんでくれ」


 アイリスの言葉にリチャードは苦笑しながら額をアイリスの額にくっつけ、軽く口付けをする。

 そんな仲睦まじい両親の様子に、シエラは呆れた様に視線を逸らし、その先で目があったマリネスと共に苦笑するのだった。

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