確認された厄災地龍
「娘の前で裸体を晒すな馬鹿たれ」
と、アルギスの座るソファの後ろに回り込み、アイリスが手刀をアルギスの頭頂部に見舞った。
不意の一撃にアルギスは悶絶し、頭を抱えて身を縮める。
そんなアルギスをシエラは冷めた目で睨み、マリネスは困った様に苦笑していた。
「龍の心臓。魔石とはまた別の物なんだったか。確か、魔力の増幅装置のような働きをするんだよな?」
頭を抱えて悶絶しているアルギスに、リチャードがお構いなしに聞いた。
「正確には同じ物だよ。龍の体内にある複数の魔石の一つを長い年月掛けて龍の体内で圧縮した出来た物だからね。
魔石との違いはリックの言った通りであってる。コレには魔石とは違い魔力自体を精製する力は無い。そうだなあ、勇者ちゃんの聖剣と似たような代物というと分かりやすいかな?」
「いや、むしろよく分からん」
アルギスの説明にリチャード達が首を傾げている頃。
エドラの街から離れた隣国フランシアとエドラの属するグランベルク王国との国境沿いでは警戒態勢がしかれていた。
最初に異常に気が付いたのは、国境沿いに程近い小高い山の上に建造された砦に勤める国境警備軍の見張り役の兵士だった。
指で輪を作り、遠見の魔法を発動した兵士はその日いつもの様にバードウォッチングでもするついでと言わんばかりにのんびりと遠方の森の様子を眺めていた。
12年前の戦争以降、隣国フランシアとは長らく休戦状態になっている為やや緊張感に欠けていたその砦の遥か彼方。
国境の向こうの更に向こう、遥か遠方に望む山岳地帯の谷間から、何かが這い出てくるのを見張りの兵が偶然見つけたのだ。
いや、最初は見つけたというよりは「ん? 何か動いたか?」程度の認識だった。
遠見の魔法も使い手の技量で見える距離に差が出る。
見張りの兵は不審に思い、砦の見張り小屋で休んでいた仲の良い友人である魔法が得意な兵に頼み、その場所を確認してくれるように頼んだ。
「なんだなんだあ。魔物でも出たのか? フランシア側だろ? 放っておけばいいのに」
休憩中に砦の防壁上に連れて来られた魔法が得意な兵士は、友人が指定した山岳地帯の麓を遠見の魔法で覗く。
すると、その魔法が得意な兵士の顔色が傍目に見ても悪くなっていった。
「おいどうした? やっぱり魔物か?」
「ば、馬鹿! 魔物どころじゃねえよ! 警鐘鳴らせ! 俺は隊長に報せる!」
そして砦に警鐘の音がカーン! カーン! と鳴り響いた。
「地龍というのは本当か?」
「正確には分かりかねます。翼はあるように見受けられますが、飛ぶ気配というか、羽ばたく気配すらないのでなんとも」
警鐘と部下の報告を聞き、執務室にて書類整理をしていたこの砦の隊長は防壁の上に移動。
既に集まって騒いでいる兵士達と同じ様に遠見の魔法にて報告に来た兵が指した先を確認する。
初老に足を突っ込んだ皺の深い顔に冷や汗が滲み、白い顎髭を蓄えた口元が食いしばられる。
まだ距離はあるとはいえ、確かに巨大な龍が此方に向けて、のそりのそりと、足元の森林や土壌を弾き飛ばしながら迫って来るのが確認出来たのだ。
「四つ脚で翼持ち、古の龍だとでも言うのか? 推定される大きさはわかるか?」
「確定は出来ません。あくまで推測ですが、足元の森林の植生が砦近辺の物と同じだと考えると、頭の先から尻尾の先まで約300メートル、翼も引き摺ってますし土埃で正確には分かりませんが全幅も全長と似たような物かと思います。体高に関しても四つ脚ではありますが、200メートルは超えているかと」
「デカいな。 デカ過ぎる。人間どころか、この砦すら飲み込まれかねんぞ」
「隊長、どうされますか?」
「進路はこっち、グランベルクだ。撃退出来れば良いが、いや無理だな。この砦の全戦力でも足止めすら怪しい。一番近い街はエドラか。早馬、いや、翼竜騎兵を出せ、ワイバーンなら雪も問題ないだろう。エドラと王都に応援要請を出す。軍人も冒険者も総動員だ。進路によってはエドラが滅ぶ、その後は王都にも向かいかねん。まさかこんな場所にあんなデカブツが居たとはな」
こうして砦から飼い慣らされたワイバーンに跨った翼竜騎兵が二組飛び立った。
一組は王都へ、もう一組はエドラの街に向かって。




