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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
寒冷期事変

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2度目の神託

 親子で薪拾いを終えたリチャードとシエラは、自宅にてやや遅めの昼食を終え、リビングの暖炉の前でアイリスやセレネ、マリネス、ロジナ、家族全員で寛いでいた。


 ふかふかの絨毯の上。

 最初は伏せているロジナを背もたれの代わりにするように座っていたシエラがセレネを抱いてあやしていた。

 しかし、昼食を食べた直後の満腹感と、暖炉の火の暖かさとパチパチと耳にも心地良い音がシエラを眠りへと誘なう。


 うつらうつらと船を漕ぎ始めたシエラの様子に、ソファに座り小説を読んでいたリチャードが「シエラ、眠いならセレネと寝てなさい」と。

 セレネをあやすシエラを愛おしそうに見つめていたアイリスが「大丈夫? 一緒にお昼寝したら?」と、声を掛けた。


 そんな父母からの言葉にシエラは頷くだけ頷いてロジナを枕代わりに絨毯の上にセレネを抱えたまま寝転び、意識を手放した。


 布団よりも暖かい暖炉の熱。

 枕よりもモフモフで、呼吸と共に上下する犬枕。

 そして抱き枕など及びもつかぬ愛しの妹の体温と触り心地の良いきめの細かい柔らかい肌、小さな手。

 それら全てが寝転んだシエラの意識を一瞬で刈り取ったのだ。


 冒険者としてクエストをこなし、鍛錬を重ねているとはいえ青髪の勇者ちゃんはまだまだ子供。


 そんなシエラにいくら暖炉の熱があるとは言え、と、マリネスがブランケットを一枚、シエラとその隣で気持ち良さげに眠るセレネに掛け、自身はシエラの隣に腰を下ろし、ロジナの頭を撫でた。


 リチャードは趣味の読書を再開し、アイリスはそんなリチャードの肩に頭を寄せ、もたれ掛かって静かにシエラとセレネを眺めている。


 この時、シエラは夢を見ていた。

 

 辺り一面に広がる水面の上にシエラは一人ポツンと立っている。

 周りを見渡すが水面から等間隔に配置された石柱が天高く伸びているが、上は霧に隠れて見えない。

 霧が掛かっているはずなのにその場所は妙に明るく、遠くにはいつか父と見た浮島のように滝が流れ落ちる空に浮かぶ島が複数見られた。


(こういうのを幻想的って言うのかなあ)


 そんな事を思いながら、シエラは水面の上を沈むことも無く、あたかもそれが当たり前のように、歩く度に発生する波紋には目もくれず、あてもなく、ただ真っ直ぐに歩いていく。


 目的地などは無い。

 ただ、シエラにはこの場所に見覚えがあった。

 初めて魔族に襲撃を受けた日の前日、神託を受けた日の夢とそっくり同じ場所だと、シエラは思っていたのだ。


「おーい。女神様ぁ。いるの?」


 それがただの夢なのか、神託なのかも分からなかったが、シエラはなんとなく声を掛けた。

 それが出来る時点でただの夢でないのは明白だ。

 

 声を掛けた途端に、シエラの目の前に白い石で切り出された丸い小さなテーブルと椅子が出現。

 シエラはなんの警戒も無しに白い椅子に腰を掛けてテーブルに頬杖を付いた。


「女神様? また何かあるの?」


「察しが良いというか、慣れ過ぎじゃないかしら? まだ神託2回目なんだけど?」


「1回目がそんなに前じゃないし」


「まあ、確かにね」


 椅子に座るシエラの耳に響いて来た子供の物とも、少女の物とも、成人女性、年配の女性の物とも言えない、それら全てが入り混じった様な声。

 声が幾重にも重なり、聞き取り辛そうだがシエラの耳にはハッキリとなんと言っているかが聞こえていた。


「で? 何かあるの? また魔族?」

 

「いえ。今度は魔族では無いわ。ただ前の魔族よりも厄介なのは確かね」


「強いの?」


「強いというか巨大というか。地の女神、グランディーネ姉様の眷属であり、死ぬ機会を失い、連綿れんめんと続く時間の中に取り残された憐れな老龍。それがあなた達の住む街に向かって来ているの」


「大きな龍が私達の街に? なんで?」


「狙いは月の女神であるセルネリカお母様の眷属」


「誰さん?」


「あなたの知ってる人。あなたのお父さんのお友達。人間から上位種である魔法使いに至ったその者の名は」


 そこまでの女神様の声を聞いて、シエラの脳裏にヘラヘラ笑う男の顔が、アルギスの顔が浮かんだ。

 それと同時にシエラは眠りから覚め、ゆっくりと目を開ける。


「お、そろそろ起きると思ってたよ勇者ちゃん」


 目覚めたシエラの眼前に、神託の最中、頭に浮かんだヘラヘラ笑う男の顔があったので、シエラはイラッとして思わずその顔に拳を打ち込んでしまった。


「あいたあ! 何すんのさ!」


「あ、ごめんなさいアルギスさん。女神様から今度のトラブルの原因がアルギスさんだって聞いて思わず殴っちゃった。というかなんでウチに?」


「僕も神託を受けたから友達に相談しに来たんだ。まさか殴られるとは思わなかったなあ。ねえリチャード、僕の鼻ちゃんとある? て言うか、他人の顔面に起き抜けに拳骨食らわせてくるってどういう教育してんのさ」


「馬鹿め。眠っている女性の顔を覗き込んでいたお前が悪いんだろうが」


 シエラが寝ている間に訪ねてきたアルギスは、殴られた顔を抑えて振り返り苦笑いしているリチャードに聞くと、シエラから離れてリチャードの対面のソファに向かってヨロヨロと歩いて行った。

 どうやら思った以上にシエラの拳が効いたらしい。


「シエラも神託を受けたという事はお前の冗談じゃないわけか。全く困ったものだ。で? お前が原因とシエラは言っていたがどういう訳だ?」


 リチャードが起きてきたシエラが抱いているセレネを預かりながら鼻をさすっている友人に聞いた。

 

「こちらに向かって来ている地龍の主食は知ってるかい?」


「地龍の主食は動植物が内包している魔力の筈だが」


「流石に魔物博士君は良く知ってるねえ。多分最初は腹を空かせて魔力が多量に存在するこの街を目指したんだろうけど。

 彼、彼女かな? まあ地龍は気が付いたんだろうね。感知した魔力の中に自分と同等の魔力を持つ存在に」


「それとアルが狙われる事になんの関係がある?」


「僕が不老になった理由は昔話したね?」


「魔物の魔石を取り込んだんだろ? 聞いたよ」


「その魔物ってのがドラゴンなんだよ。僕には"龍の心臓"が埋め込まれてるのさ」


 そう言いながら、アルギスはいつも着ているローブを脱ぎ、下に着ているシャツを捲り上げた。

 アルギスの胸、丁度心臓にあたる位置には確かに赤黒い魔石が埋め込まれており、それが紅く、鈍く、妖しく輝いていた。

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