親子で薪拾い
「もんすたーでぃざすたー?」
「ああ、意味はそのままで魔物による災害さ。オークやゴブリンの侵攻などもそうだな」
「それが起こるの?」
「古い言い伝えだよ。凍てつくように寒い寒冷期が長々続くと魔物の群れが腹を空かせてやって来る、というね」
親子で薪割りを行ってから数日後。
シエラとリチャードはマリネスとロジナに留守を任せ、2人で薪を拾う為に街の外の森へとやって来ていた。
防寒具を着込み、リチャードとシエラは森の中を右往左往しながら薪を集めたり手頃な木を切ってはシエラのマジックポーチにそれを詰めていく。
そんな時の事、ふとリチャードが「今期はモンスターディザスターでも起こるかもしれんなあ」と寒さに身震いしながらポツリと溢したのだ。
「モンスターが襲ってきてもお父さんや兄ちゃん達がいるから大丈夫だよ」
「シエラ達もいるしな。ちょとした襲撃程度なら丁度良い食糧の調達にすらなるかもしれん」
親子揃って呑気に「へへへ」と笑い、2人は談笑しながら薪を集め終わると、膝程まで積もった雪を掻き分けながら森を出ようと歩きだした。
2人が街道目指してしばらく歩いていると、入れ替わるように前方から数名、弓を手に持った中年の男性達が森に向かってきた。
男性達は獣の毛皮をそれぞれ被っている。
どうやら猟師のようだった。
「やあ。今から猟かい?」
猟師達に手を上げ、リチャードが声を掛ける。
「ああ。贔屓にしてる食材屋が困っちまっててなあ」
「今期は随分冷えるからよう。そろそろ冒険者達にも食糧調達クエストを頼む時期かもなあ」
声を掛けられた猟師達はしばし足を止め、リチャードと話すと先にリチャードがやったように手を振り、リチャード達とすれ違うように森へと入っていった。
その後ろ姿を見送り、リチャードとシエラは除雪された街道までたどり着くと、足に付着した雪を落として街に向かって歩きだす。
「もし魔物が襲ってきたらお父さんと一緒に戦えるね」
「どうかな? エドラの街は国境の近くの森や山岳地帯の魔物が強力だったりが原因でそれを討伐する冒険者はトールス達の緋色の剣含めて腕利きが多いからね。少数の魔物の襲撃なんて私達が戦う前に全滅するかも知れないぞ?」
「じゃあ兄ちゃん達より先に出ないと」
「うちの娘は闘争心旺盛だなあ。冒険者としては見習わねばならんが、お父さんとしては心配だ」
隣に並んで歩く娘を見下ろしながら、リチャードは困ったように苦笑する。
そんなリチャードをよそに、シエラは「大丈夫だよ。お父さんの娘だもん」と、リチャードに向かってニコッと笑った。
「ははは。そうか、そうだな。おいでシエラ」
シエラを呼び寄せたリチャードはシエラの脇に手を伸ばし、抱き上げるとそのまま肩の上にシエラを乗せた。
シエラは普段と違う視線の高さと大好きな父親に肩車されてご満悦な様子だ。
「お父さんは大きいね」
「ん? まあそりゃあシエラに比べればな」
「私もお父さんみたいになれるかなあ?」
「なれる、いや、ならなくて良いよ。いつまでも可愛いままでいてくれ」
「それは無理じゃない?」
「だよなあ。はあ、時間が止まってくれればなあ」
「でも時間が止まっちゃったらセレネがいつまでも小さいままだよ?」
「あー。それはそれで困るなあ」
「へへ。お父さんがわがまま言ってる」
「たまには良いだろ? たまにはな」
日が高く登ったお昼時。
娘を肩車して歩くリチャードは街道をゆっくりと、この時間を惜しむように緩慢な歩みで街に向かって進んでいく。
そんなリチャードよりも緩慢な動きで、だが確実に、エドラの街へとアースドラゴンが向かって来ているとも知らずに。
かの龍は大地を四肢で踏み締め一歩、一歩と地面を発破しながら歩んでいた。
のそりと上げた前足を時間を掛けてゆっくり下ろす。
ただそれだけの行動でアースドラゴンは大地を破壊し、体躯の半分は有ろうかと言う尻尾が木々を薙ぎ倒し、山岳地帯の岩肌を削り落とす。
飛ぶ事の出来ない、垂れ下がり、退化した翼も大地に大きな溝を掘り削っていく。
その巨大な姿を、山の様な体躯の龍を最初に見つけたのは、グランベルク王国から派遣され、国境の守備にあたっていた軍人達だった。




