災害は突然に
さて、裏庭にやって来たシエラだが、いかんせん雪が積もってしまっていた為に、まずは雪掻きからと思って雪掻き用のスコップと薪割り用の斧を取りに一旦武器庫に引き返した。
そんな時だ。
手に持った手斧と、開けっぱなしにしていた武器庫の扉から見えた玄関のポールハンガーに掛けている聖剣と魔銃剣をシエラは交互に見比べた。
「ん〜。斧よりは剣にしようかなあ」
手斧を武器庫に放置し。シエラは玄関へ向かうと聖剣と魔銃剣を担ぎ再び裏庭へ。
「風魔法を真上に撃って、雪を」
裏庭の中央。シエラは魔銃剣の銃口を空に向け、構えた。
結界魔法を発動し、自宅に被害が及ばないようにした後、シエラは魔銃剣の魔石に魔力を注いでいく。
そして、そのまま風魔法を上に向けて発射。
地面の雪を空へと吹き飛ばした。
「よし」
「よし、じゃないが? 妙に強力な魔力を感じたから何かあったのかと心配したぞ」
雪を吹き飛ばし、ご満悦の様子なシエラの後ろ。
武器庫と裏庭を繋ぐ出入り口に腰に手を当て、呆れたように苦笑いを浮かべている父リチャードが立っていた。
「雪が邪魔だったから」
「まあ構わないがね。次は声を掛けておくれ。それよりシエラ、斧はどうしたんだい? まさか聖剣で薪割りをするつもりかい?」
「ダメ?」
「いやまあ、駄目とは言わないが」
セレネをアイリスに預け、裏庭に駆けつけたので、結局薪割りはシエラとリチャードの2人で行うことになった。
薪小屋、とは名ばかりの扉のない屋根と床だけの薪置き場からリチャードが薪を取り出してシエラの待つ裏庭の中央に置く。
その薪をシエラは魔銃剣の剣先で突き刺し、振り上げる。
宙を舞った薪を更に聖剣で四等分に斬り裂き、地面に落ちた薪をリチャードが拾って一箇所に集めていく。
そんな事を何度か繰り返していくうちに薪小屋から薪が消えた。
保管していた薪が少なかったのもあったが、リチャードもシエラも親子で行う薪割りが途中から楽しくなってしまったのが大きな要因だ。
「ふむ。やり過ぎたかもしれんな。まあ」
「よし?」
「うむ、良し。とはいえ今期は一度薪拾いに行かねばならんかもなあ」
「木材屋さんに無いの?」
「うーむ。今期はやたらと冷えるからなあ。木材屋も手一杯で薪は売り切れてるかも知れないしなあ」
「確かに」
「まあしばらくは大丈夫だろうから。また今度な」
「ん。一緒に行く」
こうして薪割りを終えた親子はシエラのマジックポーチを使い、割った、というよりは斬った薪を収納すると薪小屋に半分、室内に半分薪を移動させた。
この時、シエラ達だけで無く、誰も予想していなかった事がエドラの街の西、国境を越えた先の森で起こっていた。
いや、どちらかと言うと目覚めたのだ。
地震、雷、火事、魔物。
水害などを含め、災害というものは突然襲ってくる物だ。
ある程度予想、予測は可能だろう。
しかし、確実に予想を的中させるのは至難の業。
更に言えば森で目覚めたこの者は本当にその日、偶然目を覚ました。
寒冷期のあまりの寒さに近場の動物だけならず、魔物までが冬眠の為に活動を停止し、起こるはずの魔力の循環が停止。
年老いたその者は腹を満たす魔力を求めて目を覚ました。
森の奥の更に奥。山岳地帯の谷の底でその者は実に数十年ぶりの夢から覚めた。
体を支える四肢には大木が巻き付くように生え、外套のように力無く垂れた背中の翼にも樹木が絡んでいる。
背びれの間からも木々が生え、その上には寒冷期を越す為に巣を作った四枚羽根の鳥類達が生息していたが、突然揺れ出した大地に目を覚まし、半狂乱になって飛び立つ。
鳥達から見れば大地その物が移動しているように見えただろう。
アースドラゴン。
地龍種の一種で、空を飛ばずに地面を歩いて移動する龍族の中で最も一般的な種族だ。
しかし、その巨大さは桁違いだった。
いつかエドラの街の上空に現れた羽根鯨。街に広く影を落とした神の使いである羽根鯨と同等か、それ以上の巨体がなんの因果か、ゆっくりとエドラの街目掛けて歩き出した。
一歩歩くだけで質量により爆破が起こったように地面が捲れ上がり、土や岩、木々が舞い上がる。
歩く厄災。そんな魔物が目を覚ましたのだ。




