朝食中の父の話
話のあと、シエラは母とマリネスが用意した朝食を頂く事にした。
聞いた話が話なのでソファの対面に座るマリネスの顔をまともに見ることが出来ないシエラ。
それはどうやらマリネスも同じようだった。
お互い対面で座っている2人だが、少し、ほんの少し視線が合うと顔を赤くして俯いてしまう。
この状況を作り出した当の本人であるアイリスは「あら〜」と、ニマニマしながら口に手を当ててご満悦の様子だ。
「もう。お母さんの意地悪」
意地の悪い笑みを浮かべているアイリスを、シエラは呆れたようにジト目で睨み、頬を染めたまま両手のひらを合わせて組む。
「お母さん、マリィ、ご飯ありがとう。頂きます!」
恥ずかしさを振り払うように勢い良くそう言うと、シエラは用意されたトーストに手を伸ばし、リビングの暖かい室温で溶け始めたバターを塗りたくるとそれを口に頬張った。
「さて、では私達も頂くとしようか」
セレネを起こさないようにゆっくり起き上がり、抱えるようにセレネを抱き直したリチャードのその言葉に続くように、アイリスもマリネスも「頂きます」と言うと朝食を食べ始めた。
トースト、サラダ、ベーコンの上に目玉焼きを乗せたベーコンエッグ。そこに溶き卵のスープも添えて、本日の朝食も美味しく食していくシエラ達。
「目玉焼きの黄身がトロトロだ」
「シエラちゃんはトロトロの方が好きだって聞いたから。その、柔らかさってそれくらいで良かった?」
「ん。美味しい」
フォークで目玉焼きの黄身を突き、中から溢れた黄身をベーコンに塗ってシエラはそれを口に含んで咀嚼する。
ベーコンの旨味と卵の旨みを口の中で混ぜ合わせ、シエラは噛み潰したベーコンを飲み込んだ。
「私は目玉焼きは柔らかい方が好きなんだけど、お父さんはどっちが好き?」
「私は特にどちらが好きという事は無いんだが、そうだなあ。あえて言うなら。いや、よそう。この話題は戦争が起こりかねん」
「お父さんって、ときどき大袈裟に言うよね。目玉焼きの焼き加減で戦争なんて起こるわけないのに」
ちょっとした娘からの質問に父リチャードは目玉焼きを一気に頬張りよく噛んだ後、飲み込み、肩をすくめてシエラに苦笑いを向ける。
「大袈裟、という訳でもないぞ? 戦争、争いというのは本当に些細な事やくだらない事から起こったりするんだからな? 私が知っている限りで一番下らないと思った戦争の理由なんて『取り寄せた他国の菓子が不味かったから』だからなあ」
いつぞや聞いた話を思い出しながら、リチャードは娘にそれでもあえて「因みにお父さんは目玉焼きは固い方が好きだ」と言って様子を見た。
「ええ〜。固いとパサパサで飲み込み難くない?」
「今シエラは理解出来ない事に対して疑問を持ったな?」
「うん。まあ」
「その理解出来ない事からすれ違いが生まれるのが人間やそれに連なる種族達、高度な知性を持つ生物達だ。小さなすれ違いが摩擦になり、擦れに擦れ火種になり、ある日突然燃えやすい物に燃え移って発火する。それが争いの起こる原理だ」
スープの入った器に手を伸ばし、間違ってもセレネの上に溢さないように顔を背け、リチャードはスープを一口飲みこむ。
「まあかく言う私も目玉焼きは半熟派なんだがね」
「私と同じだ。なんでわざわざ難しい話したの?」
「ああまあ。そういう事もあるよっていう一例を教えたのさ。好き嫌いの押し付けは喧嘩の理由になりかねんとね」
スープの入った器をローテーブルの上に置き、リチャードはシエラに冗談ぽく笑う。
そんな父を見て、まあ自分の為に言ってくれたのだからと一応納得したシエラはトーストをかじり、ベーコンエッグを食べ、スープを飲み込んでいった。
「ご馳走さま」
今日は先に食べ始めたシエラが一番早くに朝食を食べ終えた。
食器を重ね、トレーの上に置くとシエラはソファから立ち上がり暖炉の前の絨毯へと向かう。
食事後に少し横になろうと考えたのだ。
しかし、シエラの目に勢いが弱まった暖炉の火が見えてしまう。
薪を焚べるかと暖炉の横の薪置き場を見るが、そこに薪は無かった。
「お父さん、薪無くなったから割ってくるね?」
「ん? ああいや私が行くよ」
「良いよ。私もうご飯食べ終わったし、お父さん達はゆっくり食べててよ」
「そうかい? ならお願いしようかな、薪を置いてる場所は分かるね?」
「ん。裏庭の薪小屋だよね。行ってくるね」
「ああ。頼むよ」
こうしてシエラは食事中の父や母に代わり薪を取りに行く為寝間着の上から更に重ね着をする為にリビングを出てファミリークローゼットへ向かう。
その後、2階のマリネスとの相部屋に戻るとスリッパから靴に履き替え、シエラは再び1階へ。
玄関の正面から伸びる廊下の奥、武器庫として使用している一室にある裏口から裏庭を目指した。




