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Sランク冒険者に育てられた少女は勇者を目指す  作者: リズ
寒冷期事変

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鍛錬後の帰り道

 結局。シエラ達はアルギスに有効打を与える事が出来ずに、アルギスが定めた制限時間となった為この日の鍛錬は終了となった。


 パンと手を叩き「じゃ。今日はここまでにしようか」と爽やかな笑顔でアルギスは地面に膝を付いて肩で息をしているシエラに言う。


「リグス。生きてる?」


「ああ〜。あれ、生きてるわ。絶対さっき死んだと思ったんだけど」


 膝を地面についたシエラの横。

 うつ伏せに倒れ地面を舐めそうなリグスが顔面蒼白で答えた。

 そんなシエラとリグスの後ろでは背中合わせで座り込んだマリネスとナースリーが目を回している。


「最後の魔法、あれ幻覚か? 普通に首飛んだ気がしたんだけど」


「幻覚魔法の強度が強すぎて本当に痛かったのかも」


 よろよろと、地面に手をつき立ちあがろうとリグスは力を入れるが、それは叶わず尻餅をついて地面に座る。

 そんな子供達に、アルギスは手を翳すと回復魔法を発動してリグスやシエラに手を伸ばしてその場に立たせた。


「勇者ちゃんの言う通り、最後の幻覚魔法は幻覚の強度を上げた物だよ。人間に限らず、高度な知能を持つ生物っていうのは思い込みで死んだりするからね。その応用さ。もちろん手加減はしたよ?」


「手加減してくれてなかったら私達は死んでたって事だよね」


「いやあ。君達予想以上に動けるから楽しくなっちゃってねえ。今何歳だっけ?」


「俺とナースリーはこの前13歳になりました」


 アルギスが歳を聞きリグスが答えたわけだが、リグスとナースリーが13歳になっている事を知らなかったシエラがリグスを見て信じられないと言いたげに目を丸くした。


「なんだ?」


「リグスの方が歳上だなんて。なんか嫌」


「誕生日がちょっと早いだけだろうが。寒冷期過ぎりゃまた同じ年齢じゃねえかよ。シュ、タ、イ、ナーちゃん」


「……殺す」


「はっはっは。仲良いなあ君達。まあまあ勇者ちゃん。とりあえず聖剣は降ろそうか」


 シエラも本気でリグスを斬ろうという気もなく、アルギスに言われるままに聖剣を背中の鞘に収めると地面に未だ座るマリネスとナースリーを揺すって起こす。


「うう。何回死んだんだろ」


「今日夢に見るかも」


 頭を抱え、涙目になっているマリネスとナースリーにアルギスは「いやあごめんねえ」と冷や汗を流し、苦笑いすると手を合わせる。

 そして気を取り直してと言わんばかりにもう一度手をパンと叩いた。


「さて。思った通り僕が君達にアレコレ言う事は無いよ。リチャードやリンネのパーティに鍛えられてるだけあって君達はルーキーなんて比にならない程に強い。勇者ちゃんはリチャードとお転婆エルフちゃんの剣を上手く混ぜ合わせてるよねえ。本当に血の繋がり無いの? 信じられないよ」


 こう言われてしまっては、シエラは照れるしか無かった。

 首に巻いた赤いマフラーを握り締めると、ニヤける口元を隠す様にマフラーを口元に寄せら頬を赤らめた。


「リグス君は盾の使い方が面白いよね。盾を防具じゃなくて武器としても使うのは誰に習ったんだい?」


「トールスの兄ちゃん。ああでもやっぱり元はリチャードさんかも。使える物はなんでも使えってのを俺なりにやってるだけだから」


「あー。確かにリチャードも盾で殴ったり盾投げたりしてたなあ」


 こうして昔話を挟みつつ談笑した後、5人、というかアルギスは割った地面を元に戻したりヒビを入れた壁を再生させたり片付けをすると地下鍛錬場を後にした。


「今日はありがとうございましたアルギスさん」


「ははは。良いよ、寒冷期は暇だし。また相手してあげるからさ。僕は普段、商業区の宿かリンネと診療所にいるからいつでもおいで」


「ん。分かった」

 

「じゃあ僕はこっちだから。ああ、リグス君達も方向一緒だっけ? それじゃあ勇者ちゃんとマリネスちゃんは気を付けて帰るんだよ?」


 冒険者ギルドを出てアルギス達と手を振り別れ、シエラとマリネスは夕焼けに染まる空の下を帰路に着いた。


 夕焼けと夜の帷の間の紫色の空が少し物悲しい。


 今日は久しぶりに賑やかな1日だったからかもしれない、と、シエラはそう思いながらコートのポケットに手を突っ込む。


 そんなシエラの腕をマリネスが掴んできた。

 どうやらマリネスも新しい師匠や友達と別れて少し寂しくなってしまったようだ。


「腕組んで良いよ?」


「え、あ。うん、ありがとうシエラちゃん」


 シエラの言葉に微笑み、甘え、シエラの腕にマリネスは自分の腕を通して肩を寄せる。

 そんなマリネスから感じる暖かさを、シエラは父や母から感じる暖かさとはまた別物だなと感じていた。


 2人揃って頬を赤くしたのは外気の寒さからでは無い。

 羞恥心というよりは恋心か。

 お互いを想う感情から2人は林檎の様に頬を赤く染めたのだった。

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