父の友人と鍛錬します
「さて、まずは勇者ちゃんの要望にお応えして飛翔魔法の使い方から教えよう。まあ直ぐに飛べとは言わないよ。使い勝手は悪いし、燃費も悪いからね飛翔魔法っていうのは」
本来、馬程も体格の大きい銀狼ロジナが飛び跳ねても天井に届かない程の高さがある地下鍛錬場の真ん中。
有事の際は緊急避難場所にすらなり得るその場所の中心で、アルギスは飛翔魔法を使い、空中に座るようにして足を組んだ。
「イメージとしては風魔法を真下に放出するのが1番手っ取り早いかな。魔力その物に質量を感じる事が出来るなら魔力を直接放出しても良いよ。飛ぶとは違うが、魔力そのものを足場に宙に立つなんて事も慣れれば出来る。まあ、練習あるのみだね」
アルギスにそう言われ、4人は練習を始める。
その様子を眺めながら、アルギスはそれぞれにコツを教えていく。
最初にコツを掴んだのはシエラでもマリネスでも無く、ナースリーだった。
「わ、わ。う、浮いたよシエラちゃん」
「おー。私も負けてらんない」
友達の上達具合に負けじとシエラも飛翔魔法取得に心血を注ぐが、しばらく練習しても飛翔魔法獲得に至ったのはナースリーだけだった。
魔力を放出し続け、失敗しては地面に転げ、ナースリー以外は装備を地下鍛錬場の地面の硬い土で汚していく。
それでも。その様子をアルギスは満足そうに眺めていた。
「いやあ。良いね。若い子らが魔法を覚える為に四苦八苦してるのを見てるのは気分が良い」
「アルギスさん。趣味悪いよ」
「違う違う。苦しんでるのを見てそう思ってる訳じゃないさ。若者が、魔法という技術を身につけようと頑張ってる姿が僕は嬉しいのさ」
空中に寝そべり、頬杖を付いていたアルギスが一息ついているシエラ達を見下ろしながら言うとニンマリと笑う。
そして、もうしばらく魔法の練習をしていると、鍛錬場の休憩所の柱時計が昼を報せる鐘を鳴らしたので飛翔魔法の練習を一時中断。
子供達4人が一斉に腹の虫を鳴かせたので、階上の食事処で昼食を摂ることになった。
昼食後、5人はしばらく休憩し地下に戻ると腹ごなしにシエラとリグスは武器を振り、マリネスとナースリーは魔力の吸収と放出を繰り返して準備運動とする。
そして4人は腹ごなしを終えるとアルギスの前でシエラの横にリグスが並び、シエラの後ろにマリネスが、リグスの後ろにナースリーが並んでいつもの隊列を組んだ。
「じゃあ午後は模擬戦だ。準備は良いかな?」
「ん。大丈夫だよ」
「アルギスさん、一人だけど良いんすか?」
「ああ。もちろん大丈夫だとも、少年」
リグスの言葉に笑顔で答え、アルギスは4人に背を向けると一歩、足を踏み出す。
「しかし、リチャードも不用心だよね。僕が敵だった場合の事を考えて無いんだもん」
「え?」
アルギスの不穏な物言いにナースリーが素っ頓狂な声を上げ、それを合図にするかのようにシエラとリグスは同時に剣を抜いた。
こちらに背を向けるアルギスから放たれる殺気に対して、咄嗟に体が動いたのだ。
「ははは。冗談だよ。僕は君達の味方さ、そこは安心して欲しい。しかしねえ、リチャードやリンネのパーティから指導を受けてる君達に僕が教えられる事なんて正直何も無いんだよねえ。だってそれってドラゴンの雛に炎の吹き方や飛び方を教えるような物だろ?」
一歩、一歩と離れて行くアルギスの後ろ姿から殺気は消えた。しかし、そこにある存在感、闘気の強大さは父リチャードや兄弟子達に並ぶ。
シエラ達はそんなアルギスが何を仕掛けて来るかも分からないのでただ警戒し、いつでも動き出せるように身構えた。
「だからさ。君達には経験値をプレゼントしようと思う。リチャードもそれが狙いなんだろうしね。一撃で良いよ、僕に有効打を与えたら君達の勝ち、時間制限は夕食までにしよう」
シエラ達から数メートル離れ、アルギスがこちらに向き直った。いつもと同じ、ヘラヘラ笑っている筈なのに、瞳だけが妙にギラギラ輝いている。
子供が新しい玩具を見つけた様な、そんな目だった。
「それじゃあ。始めようか」
模擬戦開始の合図とばかりにアルギスが指を鳴らす。
その瞬間。
4人が身構えるその中心に氷塊が現れる。
「防御!」
リグスが叫んだ直後。氷塊が爆発。氷の礫を四方にばら撒いた。
巻き上がる砂塵が4人の視界を遮る。
模擬戦はアルギスの先制攻撃から開始された。
「さて、君達。魔法使いと戦う上で注意しなければならないのは?」
余裕綽々といった風に肩をすくめるアルギスにシエラとリグスが砂塵から飛び出し、身体強化魔法を使って同時にアルギスの懐に飛び込んだ。
シエラは聖剣を、リグスも愛用の剣をアルギスに振り下ろす。
その2人の必中の剣をアルギスは魔力を纏っただけの素手で止めてみせた。
「ダメダメ。リチャードに教わらなかったかい? 熟達した魔法使いの身体強化はそこいらの冒険者が使う身体強化を軽く凌駕するんだから。生半可な接近戦は危険だよ?」
ヘラヘラ笑いながらアルギスはシエラの聖剣とリグスの愛剣を掴むと2人を投げ飛ばす。
地面を転がり、体勢を立て直しながらシエラは魔法使いの身のこなしでは無いその動きに戦慄していた。
「リグス大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ねえ。なんだよ今の魔法使いなのに近接出来るのかよ」
「強いね。どうする?」
「すまねえな。俺はコレしか出来ねえ!」
シエラの問い掛けに、リグスは叫ぶとアルギスに向かって駆け出した。
その様子にシエラは困った様に肩をすくめ、ため息を吐くが、リグスの背中を見ながら微笑むと自分も聖剣を肩に担ぎ、魔銃剣をダラリと下げ、引きずる様にアルギスに向けて走り出した。




