待ち合わせ
その日、シエラはコートの上に胸当てを着込み、前腕から上腕までを覆う手甲と脛から膝までを覆う脚甲を装備、腰に魔銃剣を携え、背中に聖剣を担ぎ、普段クエストに行く際の格好で自宅を出た。
その横を歩くマリネスは、袖や裾に水色の刺繍と装飾が施された白いローブの上に前腕を覆う手甲、胸当てを装備。ローブの下のレギンスに脚甲を装備して、両手に長尺で圧縮した木製の杖を持っている。
マリネスの持つ白く塗られたその杖の先端には魔石が浮かび、その魔石を祀るように放射線状に四枚の鳥の羽根を模した装飾が施され、見た目にそれが木製とは思えない高級感を醸し出していた。
「新しい杖使うんだね」
「うん。実戦で使う前に慣らしておきたくて」
「新しい杖ってやっぱり使い難いの?」
「魔力の吸収や使用効率がやっぱり違ってくるから、慣れた杖の感覚で使うと威力が出過ぎたり逆に発動しなかったりするからねえ」
シエラが珍しそうにマリネスの杖を見て聞いた。
マリネスは実家に帰った際に母から渡されたその新しい杖を抱くように持ちながら、シエラの質問に答え、雪の積った道をギルドに向かって歩いて行く。
本日の天気は晴れ。雲もまばらで晴天と言える。
屋根の端から垂れ下がる氷柱が太陽の光を反射し、ガラス細工のように輝いていた。
雪化粧で白く染まる街を連れ添いしばらく歩き、2人はギルドの前に到着する。
「おはようシエラちゃん。マリィちゃん」
「うぃーす」
そのギルドの前でシエラとマリネスは先に来ていたナースリー、リグスの2人と合流した。
リグスはシエラの薄い桃色のコートとは違い黒いコートの上から胸当てと前腕部のみに手甲を装備。
脛、膝、大腿部を覆うように脚甲を装備しており片手で持てる真ん中に魔石を嵌め込んだ五角形の盾を持ち、腰にショートソードを携えている。
ナースリーは黒いローブにマリネスと同じように防具を装備。
杖はマリネスと違い、一目見て木でできている事が分かる。
捻れた木の先端に丸い魔石が嵌め込まれ、それを巻き込む様に木が絡んでいた。
「やあやあ。ちゃんと装備を整えて来たみたいだねえ。重畳重畳」
合流したシエラ達の元に一番遅れてやって来た本日の先生、アルギスがいつもの調子でヘラヘラ笑っていた。
そんなアルギスにシエラ達は「おはようございます」と頭を下げる。
「おはよう。さあて、みんな。ちゃんと朝ご飯食べたかい?」
「ん。大丈夫」
「食べました」
「俺達も食べて来ました」
「よし。じゃあ早速行こうか」
そう言いながら、アルギスはギルドの扉を押して中へと足を踏み入れた。
普段なら冒険者はクエストに出掛けている時間だが、寒冷期は極端にクエスト数が減る。
なのでギルドの受付前や食事処はクエストを受け損ねた冒険者達で溢れていた。
そんな場所にクエストに行く気満々の姿でシエラ達が現れたものだから、ギルド内の冒険者達はシエラ達に注目の視線を向けるが、シエラ達の先頭を歩くアルギスが受付に向かって「地下借りるねえ」とヒラヒラ手を振ったものだから「なんだ鍛錬か」と新たにクエストを待っている他の冒険者達やクエストのキャンセル待ちをしている冒険者達は胸を撫で下ろした。
「いやあ。クエストが無いのは平和である証拠だけど。冒険者達にとっては死活問題だよねえ。季節も懐も寒冷期ってね」
冒険者達の横を通り過ぎ、地下に向かう階段のを降りながら、アルギスが振り向く事なく楽しそうに笑う。
「そう言えばアルギスさんって冒険者ランクは?」
「ふっふっふ。知りたいかい? 良いよ、教えてあげよう。僕の冒険者ランクは君のお父さんと同じくSランク。では無いんだなあコレが。いやあ、クエストしないで10年近くも旅してたからさあ。いつの間にかBランクまで下がっちゃってねえ」
シエラの疑問に、アルギスがヘラヘラ笑いながらローブの幅の広い袖に手を突っ込むと銀色のギルドカードを取り出して、シエラに後ろ手に渡して見せた。
「降格処分って何年かクエスト受けなかったらって教えてもらったけど、アルギスさん本当に一度もクエスト受けなかったの?」
「まあね、僕にはあんまり意味無いしねえ冒険者ランクっていう括り。おっと気を悪くしないでくれよ? そもそも冒険者になったのだってSランクになれば王都の図書館を使えるからって理由だけだったしね。それも全部覚えたし、今は君らと変わらない普通の冒険者さ」
「元Sランクってだけで普通には当てはまらないでしょ」
「手厳しいツッコミだねえ。ホント、リチャードとそっくりだよねそういうとこ。血が繋がってないって本当なのか疑わしくなるよ」
カードを返しながら言ったシエラに、アルギスは笑いながら言うとカードを受け取りソレをローブの袖の中に入れる。
こうして駄弁りながらシエラ達はギルドの地下鍛錬場に足を踏み入れた。
誰もいない地下鍛錬場。
シンと静まり返るその場所の中央に向かってアルギスはゆっくりと歩き出す。
その顔には笑みが浮かび、実に楽しそうだ。




