デート?
翌日。シエラはマリネスと手を繋ぎ、ロジナを伴って商業区へと向かって石畳の道を歩いていた。
明日のアルギスとの鍛錬の事をパーティメンバーであるリグスとナースリーに伝えるためだ。
本日も外の空気は寒冷期の寒空に冷やされ、吸い込めば鼻から肺までが凍り付いてしまいそうだ。
シエラは母に編んでもらった赤いマフラーで口元まで隠して冷気から少しでも逃れようとするが、冷たい空気に鼻腔を刺激され「へックチ!」と、シエラの小さな口から大きなくしゃみが飛び出した。
「シエラちゃん大丈夫?」
「ん。平気。今日も冷えるね」
「そうだねえ。こう毎日寒いとやだねえ」
やだね、と言いながらも、手を繋ぎシエラと肩がくっ付きそうな程に近付いて歩くマリネスはどこか嬉しそうだった。
お付きにロジナがいるとはいえ、久しぶりにシエラと2人きりで街を歩くのが嬉しいらしい。
晴れ渡る空に白雲が流れて太陽の光を遮り、2人の上に影を落としては流れた雲の隙間から光が差し込み、街に積もった雪をキラキラ照らす。
太陽の光が雪で乱反射して光る様子は、2人で見ると宝石のようにすら見えた。
「綺麗だね、シエラちゃん」
「そう? マリィの方が綺麗だよ?」
「え?」
「ん?」
マリネスは雪を見て綺麗だねとシエラに声を掛けたが、シエラはマリネスに向けて綺麗だと言った為に微妙に話がすれ違い、2人は顔を見合わせ首を傾げ、マリネスだけが顔を赤くする。
照れて顔を伏せたマリネスの手を引き、シエラは歩き慣れた道を歩いていく。
そして2人はリグスの実家である肉屋の前に到着。
普段なら店は開いてる時間で、店の扉は開け放たれているが、やはり客足が少ないからか今日は肉屋の扉は閉じられていた。
「リーグースー」
叫ぶでなく、感情があるのかどうか分からないほど抑揚なくリグスの名前を呼びながら、シエラが店の扉をノックする。
ミシッと音を立てて揺れる扉。
その扉の向こうから「そんなに強く叩かなくても開いてるよ」と、リグスでは無いが、店内から声が聞こえて来たので、シエラとマリネスは扉を開けて肉屋の中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。ああ、シュタイナーさんとこの、リグスならナースリーちゃんと買い物に行ったよ?」
「こんちわ。入れ違っちゃったのかあ」
「ナースリーちゃんが遊びに来てたんだけど、薪が無くなりそうでね。店番か買い出しか、どっちが良いか聞いたら買い出しに行くって言って、少し前に出ていったよ」
店のカウンターの向こうに座る肉屋の店番をしているリグスの兄にリグスの行き先を教えてもらい、シエラとマリネスはリグスの兄に頭を下げて礼を言うと、肉屋を後にリグスとナースリーが向かったであろう木材屋へと向かう。
「デート中かな?」
「邪魔しちゃ悪いよねえ。どうしよう」
「2人には悪いけど、ちょっと邪魔しちゃおう。予定だけ伝えてすぐに解散すれば良いよ」
というわけで、シエラとマリネスは人のまばらな商業区の馬車や竜車の通る主要な道から一本、住宅地に入った歩行者用の石畳の道を歩いていく。
温暖期なら青々と葉っぱを付ける街路樹も、寒冷期ともなると葉っぱは全て散ってしまって実に寒そうだ。
代わりに雪が葉っぱのフリをしているが、それが余計に寒そうに見える。
「あ、いた」
「げ、シュタイナー。なんで此処に」
丁度行って帰って来る途中だったようだ。
複数の薪束を紐で縛り、それをソリに乗せて引き摺るリグスと、そんなリグスと腕を組んでいるナースリーを遠目に見つけて声を掛けようとしたシエラだったが先に気がついたリグスに「げ」と言われ、あからさまに嫌そうな顔をされたのでシエラは眉間に皺を寄せた。
「デート中にごめんなんだけど、明日鍛錬するからフル装備でギルド前集合ね」
「デート中じゃないが? 買い出し中なんだわ。勘違いすんなよなあ」
「腕組んでてそれは無理がある」
「はあ? ちげぇし。ナズが転けそうだから掴ませてるだけだし」
「言い訳? ナズ可哀想」
「いや。あのなあ……はあ。ナズが可哀想とかそう言う事言うなよマジでさあ。ごめんて、ちょっと気恥ずかしくなっただけじゃねえかよ」
「ん。よろしい。でもまあホントに用はそれだけだから。今日はゆっくり過ごしてよ」
「へいへい。リーダーの仰せのままに」
と、まあ。こうしてリグスとナースリーのカップルに明日の予定を伝えたので、恥ずかしそうに頬を赤く染めたリグス、ナースリーの2人とすれ違う形で別れると、商業区にあるお気に入りの喫茶店へと向かったシエラとマリネス、ついでにロジナ。
普段なら行列が出来る程に人気のある喫茶店も客足が途絶え、閑古鳥が鳴いていたが、シエラとマリネスはこれ幸いと入店すると、甘いケーキと温かいミルクティーを堪能し、ロジナも従魔用の食糧を楽しむ。
そして、しばらく喫茶店の薪ストーブの暖かさにボケーッとして時間を潰した後、2人と1匹は渋々寒空の下を帰路に着いたのだった。




